第12話 次の作戦
結局俺は、あの後自力で立ち上がれなくて、ゴウさんの背におぶってもらってテントへ戻ってきた。
わざわざ報告に来てくれたロズさんによると、ほとんど接近戦にならずに終わったらしい。上級ポーションのおかげで死傷者はゼロ。相当数の魔族を殺すことができ、ここしばらくないほどの圧倒的な勝利に兵士たちは沸き立っているとか。
「最初にあんだけ弓で殺せたのはでかかった!お前のおかげだマスダ!」
ロズさんは兵士の前では殿とか様とか付けて呼ぶが、俺としては呼び捨てにしてもらった方が気楽でいい。
しかし嬉しそうなロズさんを見ても俺の気分は上がらない。乾杯のギガーはお断りして、ゴウさんとカコさんとささやかな夕食を食べることにした。
「あのー・・・」
ゴウさんが手を挙げた。
でかい図体なのに、ちょっと恐る恐るこちらを伺っているのが、なんだか可愛い。弟がいたらこんな感じだろうか。
「マスダ殿は、なんで落ち込んでるんですか?」
「ゴウ!ちょっとは察しなさいよ」
カコさんにペシーン!と頭を叩かれている。
「いって!・・・だって、考えてもわかんないんだもんよ・・・」
シチューの器片手にションボリしているゴウさんを見ていると、なぜだか笑えてくる。叱られて凹む大型犬みたいだ。
「ふふ。ごめん、自分でもよく分かってない、かも」
「俺にも話してくださいよ。なんかいっつも姉貴ばっか頼りにされているみたいで・・・」
ゴウさんがぶすくれている。
「そんな風に思ってたの?ゴウさんのこともめちゃくちゃ頼りにしてるよ?」
「いや、それはその・・・そうなんですかね」
人差し指でぽりぽりとこめかみをかいている。シチューに視線を落として恥ずかしそうだ。
あれ?その癖、カコさんとそっくりじゃない?さすが姉弟。
「俺さ、練習したこと全然できなくて。魔族の叫び声があんまりにもでかくて。テンパっちゃって」
ゴウさんもカコさんも黙って聞いてくれている。
「魔族は俺たちを本当に殺しに来てるんだなって、初めて実感したんだ。今までそんな殺意を向けられたことなかったから、どこか他人事として考えててさ・・・。
最初もビビっちゃって。もうちょっとうまくやれたんじゃないかとか、思い返してる。それに後方に下がってからは、結局何もできなかったし」
しばらくテントには沈黙が満ちた。
「マスダ殿。次があります。戦いはこれからも、きっと沢山あります」
ゴウさんがシチューをぐるぐるかき混ぜながらポツリと呟いた。
「今日、俺たちは命を繋いだ。あなたのおかげです。今日死んだものは誰もいない。
だから、今日のあなたは本当は何も失敗していない。敵を撃退できた、それこそが結果です」
「あ〜何て言えばいいんだ!?」とゴウさんはものすごい勢いでシチューをかきこんで、ダン!と器を置いて、俺の目をしっかりと見た。
「悔やむなら、今日の戦いから学んで、次に活かせばいい!!・・・と俺は思います」
「・・・うん。ありがと、ゴウ」
「どーいたしまして!」
強張っていた顔が、少し緩むのがわかった。
まっすぐにぶつけられる言葉がこんなにも嬉しいものだとは。
日本だと生きるか死ぬかなんてことは滅多にないもんな。
***
翌朝。
ジェスチームに顔を出すと、口々にお礼を言われた。ロズさんにバンバン背中を叩かれて痛いくらいだ。
今後もあの石ころ作戦は継続するらしい。
今度はもっとうまくやってやろう。
決意を新たにする。
今は、久しぶりに大テントで参謀会議に混じっている。
「斥候によると、魔族はかなりの痛手を被り、この結界石の付近まで撤退しました。本日はここと、ここと、ここの、3つ結界石を奪取します。そしてすぐに砦を作ります」
アシュエンさんは地図の3箇所を指差した。
俺たちが今いる場所から一番近い場所だ。
「本来ならもっと進みたいところではありますが、進めば進むほど手薄になります。ただでさえこちらは人員が少ないのです。マスダ殿のお力をお借りして、人手不足を補っていくしかない」
結界石を奪取しだい、すぐにバリケードを築いて奪われにくくする。かつ、結界の端にもバリケードを並べる。
「欲をかいて伸ばそうとした手先は、魔族に喰われるでしょう。今回はせっかく勝利したのです。勝ちを重ねていかなければ、士気は保てない。とにかく堅実に行きます」
アシュエンさんはそう締めくくった。
***
結界のギリギリ外。
向こうは黒い霧が立ち込めており、視界が悪い。
祈るような気持ちで待っていると、
ブウン・・・
確かに空気が振動した。
さあっと強風に流されるように、一瞬で霧が晴れていく。
「行軍開始!速やかに結界石へ!」
ドドドドドド
兵士たちに周りを固められつつ、俺はゴウの前で馬に乗っている。
正直、野郎と二人乗り、嬉しくない。
カコさんと相乗りしたいな〜と呟いたら、流れ弾が来た時に、大きさ的に守れないから駄目だとはっきり言われてしまった。
欲望の塊みたいな意見に正論を返され、うっと言葉に詰まった俺を、ゴウは笑いながら乗せてくれた。
すごいスピードで進むこと5分ほどで、結界石へたどり着いた。
結界石は、大きな大きな宝石だ。どっしりした台座にはまっているが、宝石の部分だけで確実に俺の身長くらいあるし、大人二人で腕を回さないといけないくらいでかい。
それが淡い黄色に輝いている。
土属性の人が魔力を注いだんだな。
「陣を敷け!!周囲に警戒!!」
「工兵はバリケードの用意だ!」
「マスダ殿お願いします!」
「はい!」
どん どん どん どん
ガッチリと組み立てられたバリケードを、増やすのが俺の仕事だ。
結界石を覆うように円上に配置していく。
ひとつ円が出来たら、また外側。
もうひとつ円が出来たら、さらに外側。
「完成です!」
「ありがとうございます!」
「マスダ殿〜!次はこちらにー!」
「はーい今行きまーす!」
先程と同じように、結界の端ギリギリにバリケードを作っていく。
***
それを三回繰り返した。
三つ目のバリケードを作り終わった時には、もうかなり日も暮れて暗くなっていた。
「マスダ様、お疲れ様でした。本陣へ戻りましょう」
「そうだね。さすがに何か疲れたよ・・・」
相変わらずゴウの前に乗って本陣へと戻る。
もう慣れだけど。
「そういえばさ、結界石って増やせるのかな?」
「うーん・・・マスダ様なら増やせそうですねぇ」
馬に揺られながらゴウに問いかけると、そんな返事が返ってきた。
「いやでもどうなんだろう?多分増やせると思うんだけどさ。
結界石を移動させれたら楽じゃない?
魔族側の結界石の側に、人間側の結界石置いたら打ち消すのかな?とか、反発し合うのかな?とか、気にならない?」
「そもそも結界石を動かそうなんて、考えたこともなかったです。多分、既にあるものは移動できないんでしょうね」
(とんでもないことになったら困るし、とりあえずもう少し安全が確保されるまではやめておこう)
慣れない馬での移動で尻が痛い。
早く体を休めたかった。




