第11話 初めての戦い
アアアアアアア!!!
遠くから身の毛のよだつような叫び声がする。
ブワッと体中の鳥肌がたった。
逃げたくなる気持ちをぐっとこらえて、手を強く握りしめる。
ドン ドン ドン
それから足を踏みならすような音。
今日はいよいよ魔族との戦いの日。
結界石を放棄し、行軍スピードをあげたので、十分に準備する余裕があった。負けられない。いや、これは勝ち戦だ!
オオオオオオオ!!!
巨人が叫んでいるかのような大声がする。
ドンドンドンドン
何か太鼓を打ち鳴らしているのか。
どっくん どっくん どっくん
心臓の音がうるさい。
「来たぞー!!!」
魔族が遠くにその姿を見せた。
黒っぽい何かだ。
人間のような姿形のものもあれば、犬のように四つ足で貼っているもの、液体のようなもの、木のようなもの、巨大なゴーレムのようなもの、てんでバラバラ。ただ、数が多い。
それらが、ものすごい速さで走ってくる。
明らかにこちらを殺そうと、殺意をみなぎらせて、迫ってくる。
「マスダ様!石ころ頼む!」
「ははははい!」
ジェスさんの声に勢いよく返事をする。
石ころ。石ころ。石ころ。
ウワアアアアア!!!!
ギャアアアアア!!!!
石ころ。石こ・・・
ギャアアアアア
ギエエエエエ
だめだ、集中できない。
早い!早い!早い!うるさい!
「マスダ様、狙ったものだけを見るのです」
ジェスさんがさっと俺の両耳を塞いだ。
途端に魔族の叫び声が遠のいて静かになる。
すると、狙いを定めていた石が見えてくる。
(そうだ、石だ。石ころだ)
ぽぽ ぽぽぽぽ ぽぽぽぽ!!!
なんの変哲も無い石が突然増える。
狙いを定めていた位置から左右に広がるように、小石が広がっていく。それに足を取られて。前のめりに走っていた魔族たちが面白いようにこける。
「打てー!!!」
ロズさんの声が響く。
ヒュンヒュン ヒュンヒュン
ウワアアアアアア!!!!
ジェスさんが俺の頭をひと撫でして離れた。
・・・よく思い返すと、右肩のあたりに柔らかいものが当たっていた気がするのだが。
(ま、まさかね・・・!?)
戦場で興奮している場合じゃない!
パンパンと両頬を手で叩く。
(よし!次は矢を増やそう!)
いつもより少し上を見て、ビュンビュン飛んでいく矢を目の全体に捉える。
そしてそれがブワッと左右に増えるイメージ。
魔族の叫び声が気になって仕方ないので、自分の指で耳をふさぐ。
下は見ない。とにかく矢だ。矢を見るんだ。
ヒュンヒュン ヒュンヒュン
とにかく集中。集中。集中。
飛んでいく矢だけを見るんだ。
集中、集中、集中・・・
***
気づけば、ゴウさんに強く肩を揺すぶられていた。
「マスダ様!後方に下がりますよ!!!」
「へっ?」
「敵が迫ってきました!後方に!下がります!!」
「わ、わかった!」
周りはすごい喧騒だ。
魔族の声なのか人間の声なのか分からない。
ゴウさんが、魔族の断末魔に負けじと大声で叫んでいる。
この時の俺は、初めての戦場でネジが外れていたと思う。
だからゴウさんが何を言っているかも分かっていなかった。でも、ゴウさんが俺の右腕を引っ張って歩いていくものだから、とにかく着いていかなくちゃと思って小走りで走った。
しばらく行って、一番後方まで下がったらしい。
「マスダ様」
「うん、早く次の、」
「まずは座って、水を飲んでください」
「そんなことしてる場合じゃないよ!」
ゴウさんが、「とにかく座ってください」と立ち上がろうとする俺の両肩を抑えて座らせる。
「うう・・・分かったよ!」
俺は無性にイライラして、ゴウさんの手を振り払った。
(なんで水なんか飲まなきゃなんねえんだよ!)
ごく、ごく、ごく。
そして、めちゃくちゃ飲んだ。
めちゃくちゃ喉が渇いていた。
「ぷはーっ・・・」
ひとしきり水を飲むと、ふうと息を吐いた。
「マスダ様。汗びっしょりで、顔色も悪いです。これも食べてください」
「へ・・・?・・・あむ」
からころ
俺の前にしゃがんだカコさんの手が差し出すまま、白い丸い粒を口に入れた。それは甘いようなしょっぱいような微妙な味の飴だった。
自分を見下ろすと、確かに汗をかいている。
それも服の色が変わるくらい。首筋に手をやると、手が濡れて不快なくらいだ。
「俺・・・なんで汗かいてんの?」
「マスダ様は、ものすごく集中されてました。少しも動いていませんでしたし、体が緊張していたんでしょう。それがとけてどっときたのではないでしょうか」
カコさんが持っていた手ぬぐいで首筋と顔の汗を拭いてくれる。その手つきが優しくて、無性に泣きそうになった。
「・・・ごめん、」
それから情けない気持ちになって。
いい年こいた大人が、自分の状態もわからずに突っ走っていたのが恥ずかしい。
「いいんですよ。あなたは仕事をやり遂げました。立派です」
カコさんは優しく笑ってくれた。




