準備と約束
彼らは旅に出ると決めた。ただし実はそうしようと決まるまでの時間が十分程度だったりするのだが、それは別の話。
だが、まずは旅をする為の準備をしなくては。準備なくして旅はできないのだから。
備えあれば憂いなし。言い方を変えれば、旅なんて思いつくだけの物を詰め込んでおけば何とかなるだろ。
という事で。
準備期間が開始した。
初めは、リストアップからだ。
◇◆◇
旅に出るなら、準備しなくてはいけない。そして準備するのならまずは何が必要なのかを簡単にまとめてみ流事にした。
・資金 ・料理道具(女子二人が料理) ・ランタン ・寝巻き ・テント(安心して寝れる場所) ・予備の武器 ・非常食 ・食料や調味料 ・タオル ・魔物避けの護符 ・簡易型魔物避け結界用術式 ・非常時転移石……恐らくまだまだある。
ここは異世界。地球と違ってそこらじゅうに危険なモンスターが蔓延る。例えるなら、そこらじゅうにライオンやチーターが暮らしているとでも考えるのが一番想像しやすいだろう。
つまり、外は何処でも危険だということだ。そしてそこで必要なのは、地球で言う自宅。そこにいれば安心できる空間が必要だ。
そう言えばと言うか、アイテムボックス内に新しい機能を見つけた。それによって肉など、腐りやすいようなものでも持ち運べるのだ。野菜なども採れたてに近い状態で持ち運べる。
その機能とは……『食べ物の鮮度、美味しさを長期間保つ!』
(……冷蔵庫かっ?!)
と思った。まぁ、これのおかげで食べ物をいくらでも持ち運べるのだ。一番助かった。なんせ食べ物は腐りやすいから、いちいち街で買ったりしなければいけない。それを省くことが出来ると言うのはとても嬉しい。
……この機能の最も嬉しい部分は他にもある。例えば、超貴重で超美味な肉が手に入ったとする。それを大事に取っておけるのだ。そう、大事に、だ。
いつか死ぬかもしれない戦いがある時の前日に食べることができるということだ。これができると言うのは士気、戦意上昇に繋がる。嬉しい事だ。
よし。大和たちは簡単な話し合いの末、すぐにそれを始める事にした。準備開始。
まずは、というより、最も重要なもの、『資金』を集めまくるため、これからは、クエストをしまくる毎日である。それは本来男子の仕事だが、今回は女子もだ。面倒だから、ではない。女子も戦闘に慣れさせる為だ。
いつ大事件が起こるか分からない、と言うのは当然なのだが、この世界では地球よりも断然その大事件が起こりやすい。地球で問題を起こすのは殆ど人間だが、この世界ではモンスターも問題を起こすのだから当然だとも言える。
人間は愚かだが馬鹿ではない。自分にまで被害が及ぶような事はしない。だがモンスターは愚かで馬鹿だ。モンスターは自分に及ぶ被害の事など頭にはこれっぽっちもない。
モンスターは孤独だからだ。集団行動はするが、それは効率を上げる為でしかない。モンスター一体一体は自分が生き残ればそれでいいのだから。
……例外もいるが。竜種などには知能の高い個体もいる。
話がずれた。クエストの話だったな。
クエストを何度も何度も繰り返しやるだけと言うのは退屈と言うものだが、それが大和たちにはなかったりする。
クエストをすれば自分を成長させる事ができる。旅の為の準備も出来る。素材も手に入って換金できる。つまり、一石三鳥だ。いや、クエストのクリアは人助けになるから、一石四鳥だな。
お得である。非常に。
◇◆◇
まずしなければいけない事。
白百合と揚羽をGR2にしなければ。いや、必ずしもしなくてはいけないというわけでもないが。だがGRを上げることに損はない。だからやる、それぐらいの考えだ。
一応二人の助けにすぐに入れるように、大和と蓮司も付いて行く。流石に不安であった。ゴブリンとの初対面で恐怖を感じた場合、その後の冒険者として続けていけるかが危うくなる。
というか、蓮司は特に酷かった。「怪我しないかなぁ……しないよね?ね?」などと言いながら大和に頻繁に話しかける程だ。五秒に一度のペースで。この時蓮司が心配性なのだと大和が新しい発見をしたのは別の話。
クエスト出発。当然クエストは[高)スライム&ゴブリン討伐]だ。これさえクリアできると言うなら大体その力を認められる。だがそれでも一度でGR2になる事は少ない。
二人の戦い方というと、白百合の後方援護と、揚羽の近接戦闘という感じだ。
白百合は魔法が得意な為、後方からの支援を得意とする。だが強化系の魔法はまだ覚えていないらしい。……そもそも異世界に来てから数日で魔法を覚えている時点でとんでもないのだが。
揚羽は近接戦闘が得意だ。それも、蓮司よりも更に近接での戦闘となる。揚羽はもともと地球では足が速い方だった。それに体操を幼少期に習った為に体が柔らかい。それを生かすのだったら双剣もしくは片手剣だ。そして揚羽は双剣を選んだ。
白百合は四人の中で最も魔法を使えている。
[攻撃魔法]はもちろん、[回復魔法]や、[属性付 攻撃魔法]もできる。唯一出来ないのは[強化魔法]だ。強化……読んで字の如く、強化する魔法だ。それは自分自身の強化は勿論、他人の強化、魔法の強化なども出来る。
揚羽の双剣高速近接戦闘に白百合の後方支援を合わせると結構凄い。白百合が後方で敵の注意を引きつけて、その隙に双剣で一瞬で命を刈り取る。その逆もある。このコンビネーションが凄い。本当に凄い。
敵が揚羽を狙うと、白百合の攻撃魔法で殺られる。
かといって白百合を狙うと、揚羽に瞬殺される。
それに対して男子二人の戦い方なんて、力押しである。……差がある。男子はもう少し考えて戦おうと心に誓ったのだった。だが、槍と剣と言うのはあまりよろしくない。槍は中距離での戦闘が出来るが、剣はどうしても近距離になってしまう。
下手すると大和の槍が蓮司に当たってしまう可能性もある。まだまだ課題は多い。
と、男子二人が考えているといつの間にか白百合と揚羽をゴブリンが取り囲んでいた。だがどうやらゴブリンは大和たちの存在に気付いていないようだった。百メートル程の距離を開けて大和たちは付いて行っていたからだ。
この時、大和と蓮司はある事を考えていた。
((ゴブリン……もし女目当てだったら後で別の個体を[自主規制]してやるからな……))
完全に八つ当たりとなっているが、そこを気にしてはいけない。
あっという間に戦闘開始……すると思われたその時、
二人がゴブリンを見た瞬間、
「「可愛くない!」」
『『『『『『ギャ?!』』』』』』
こんな事言った。ゴブリンも結構傷付いていた。何処からかパキンと何かが割れる音が響いた。一瞬フリーズするゴブリン達。
と、その時ゴブリンが一体突っ込んできた。どうやら怒っているようだ。顔を真っ赤にし、武器を振り回している。
「「来・な・い・でッ!!!!!」」
『ギャァァァァァァァ……』
揚羽と白百合の同時攻撃で瞬間的に爆砕した。残念ながら比喩ではなく。目にも留まらぬ速度で揚羽がゴブリンの腹を斬り裂き、白百合がその腹部に火炎魔法をありったけ打ち込んだのだ。
その時男子は思った。
((あぁ、これは、助けは必要無いな))
……と。
それからは、一方的だった。先程説明した通りの動きで、バンバン倒していった。
十体のゴブリンが揚羽を狙ったと思うと、白百合の魔法で十体同時に吹き飛ぶ。
十体のゴブリンか白百合に狙ったと思うと、揚羽の高速近接攻撃で、後ろから斬られる。
十体のゴブリンが五体ずつに分かれて二人を狙うと、そもそもの二人のスペックでなんとかなってしまう。
途中からは、なんと白百合が[強化魔法]を覚えてしまい、揚羽無双が始まっていた。そこにちゃんと白百合の援護も行き届いている。
ゴブリンにはもはや捉えられない程の速度で揚羽は疾走する。それに上手く合わせるように白百合の風魔法が打ち込まれる。恐らく白百合は自身の反応速度を強化しているのだろう。
恐ろしいコンビネーションだった。
いつの間にか、
撃破数スライム 十五・ゴブリン 九十六
何て事に。スライムは可愛かったらしい。丁度ノルマぴったりだ。揚羽は顔を伏せながらスライムを八つ裂きにしていた。白百合は涙を堪えながら雷魔法で爆散させていった。行動が上手くあってないように思えるのは……なぜだろうか。
だが、スライムの扱い対して(と言ってもスライムの扱いも結構酷いが)ゴブリンの扱いは本当に酷い。
九十六。ノルマより八十一体分多い。
いや、八十一体って何っ?!
そしてゴブリンの死体は一体千マナトだ。
つまり、
81×1000=81000
……。
「俺たち負けてね?」
「分かりきった事言うな。虚しいだけさ」
無表情の蓮司の言葉に、無表情で言葉を返す大和の姿が、そこにあった。
女は怖い。そう、感じた。アメリカでは台風などに女性の名前を付けるというが、それが何故なのか理解した気がした。
そして二人して空を見上げる。とても綺麗な青空を、見上げる。
ーーそう、涙が溢れないように。
◇◆◇
結構簡単にGR2になった女子二人。
「「負けた……」」
大和と蓮司はまだ言っていた。この後大和と蓮司は悔しさからやけ食いをし、それによって腹痛を起こした。深夜、男二人揃ってトイレに籠っていた。
女子二人がGR2になってから数日、クエストをしまくった。お陰で、結構な量のマナトが手に入った。
……ほぼ、白百合と揚羽の手柄だが。
お陰でGRは何時しか六になっていた。
◇◆◇
ある日、クエストを確認していると興味深いものを見つけた。
・[ゴブリン討伐]《ゴブリン20体討伐》2500M
・[属性ゴブリン討伐]《ファイア・アイス・リーフゴブリンを合計で15体討伐》5000M
・[属性猪討伐]《ファイア・アイス・リーフボアを合計で10体討伐》5000M
・[属性ゴブリン&属性猪討伐]《属性ゴブリンと属性ボアを共に10体討伐》〈注 ウルフ出現の可能性あり〉7500M
いつも通りのクエスト達。だがその中に一つだけ、異質なものがあった。
それだけ、他と違うのだ。明らかに、違う。
それは、
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★緊急招集中≫≫[高)トロール出現]
【GR2以上の冒険者のみ】
《30名のチームを組み、トロールの「群れ」を壊滅させよ》
・募集 現在 13名 残り 6名
〈警告 ベヒーモス出現の可能性あり……トロールの被害を受けた村から然程離れていない位置にベヒーモスのものらしき巣を発見している〉
報酬 20000M
素材 トロール 20000M
ベヒーモス 50000M
今回のチームの半数は『騎士団』が受け持つ。
死の危険があるが、それは自己責任である。それを了承した者のみを募集する。我々騎士団は全力で護るが、それでも護り切れるとは限らない事を覚えておく事。
騎士団 代表 印
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トロール。
簡単に言えば人を大きくしたものだ。体長はだいたい五メートルほど。純潔の巨人に比べたらまだ小さいが、人からしたら十分大きい。
顔は醜悪。武器は木や石を削った棍棒。動きはそこまで速くないが、一撃でも当たってしまえば比喩ではなく、砕け散る。一撃一撃が必殺の威力をもつ、強敵だ。
それにトロールには優先的に女性を狙う習性があるらしい。恐らく子孫を残す為に必要なのだろうと言われているが今でもまだ真相は謎である。
だが、このトロールよりも恐ろしい相手がいる。
それこそ、ベヒーモス。見た目はライオンを大きくしたようなもので、体長、一撃の威力はトロール並。攻撃速度はトロールよりも数倍速い。
ただ相手を見ただけで、見られた方は畏怖し、恐怖し、戦意喪失すらしてしまうと言われている、トロール以上の強敵。
そんな相手が下手すると二体同時に出発する可能性すらある。しかもトロールは、群れで行動する。常に五体ほどで行動するらしい。
今回は更に大人数だろうと言われている。
正直に言うと、三人は恐怖していた。それは、蓮司、白百合、揚羽である。特に白百合と揚羽は蓮司の比ではない。優先して狙われると知っても尚恐れない者など殆ど存在しない。
こんな奴らと戦っていられるかって。こんなところで死んでたまるかって。そう、思っていた。が、一人だけ、目を楽しそうに輝かせる人物がいた。
それは、大和。
まるで新しいおもちゃでも見つけたかのような満面の笑みで、その紙を引きちぎった。そして、ギルドの職員に渡す。と言うよりもカウンターに叩きつけた。
「うっは、楽しそうだな。うん!これこそ規格外。これこそ一石四鳥!受けさせてもらうぜ!
んじゃ、ちょいと装備揃えてくるかなぁ。今のままじゃあ心許ないし」
なんて言って出て行ってしまった。何時からいたのかブラフマーとシヴァが大和を追いかけてギルドを出た。
ギルド内は静まり返っていた。誰もが大和の言葉には耳を疑った。死ぬかもしれないのに、「楽しそう」なんて言う。やはり変人だ。だが、彼の一言で三人は変わった。
カチンときた。
「「「俺・私達もそのクエスト受けます!!」」」
半分怒りながら、言った。ギルドの職員が上半身を仰け反らせながらコクリと頷く。
そして、すぐ出て行く。当然、装備を揃えに。
また、ギルドが静かになる。
そして、
「「「「「「「「「「うそぉぉぉぉぉぉぉぉおおおおおおおッ?!?!」」」」」」」」」」
見事な大合唱が起こった。
◇◆◇
三人が大和、ブラフマー、シヴァと合流してすぐに武器屋に着いた。
武器の値段は然程高くない。当然上位の武器ともなれば高額になるが、初心者から中級者用の武器は以外と安く買える。これは冒険者の上達速度を上げる為だ。
現在、大体一人五万ほど使える。まぁ、五万あれば、それなりの装備は揃えられるが。武器も含めて。
「「「「五万で買える最高の装備をくれ」」」」
武器屋のテーブルを四人ほぼ同時に叩いた。それに若干怯える武器屋の女性。まだ若い。恐らくこの店の娘だろうと考える。
茶髪をポニーテールにした優しげな人だった。
結果、皮鎧から、ちゃんとした鎧となった。それも軽く、動きやすいものだ。関節の部分を特殊なゴムで包む事で関節の動きが阻害されず、防御も出来るという。このゴムは刀で斬られてもある程度は耐えられるらしい。
そして一人を除いて武器もより強いものを買えた。
蓮司は、魔法剣。武器を持つ事によって、体内を流れる魔力を自動的に剣へ送る事ができ、簡単に武器を強化できる。『炎』や『氷』などの言霊を出せば、その属性も簡単に付与出来る。
中々の優れものだ。中級者向けの武器で、安く買える武器の中でも最も高性能だ。
白百合は、上位魔法杖。魔法の威力を底上げする事ができ、さらに、『魔法の圧縮』も可能になる。魔法を『圧縮』すると、威力を軽く数倍にできる。回復魔法にも使用可能との事。
揚羽は、魔法双剣。能力は蓮司とほぼ同じ。だが、武器を持つ事によって、身体能力を上げる事ができる。よって、身体能力と武器の両方を強化できる。
そして、大和だが……鎧を揃えた時点で、残りが約二万だったのだが、その値段で買える槍が無いのだ。売り切れらしい。
一応、シヴァのトリシューラを使えるからいいかなと思ったが、トリシューラには使用制限がかかっている。これは熟練度が足りて無いらしい。
つまり、何か槍を買わないと、死ぬ。
(うそーん?!あんなに目立ったのに死んだら駄目じゃん?!ぎゃー!どーしよぅ……)
内心、凄い焦っていた。どうにかして表情には出さない様にはしたが、どんな表情をしていたかはわからない。
と、その時、チリンと音を立ててベルが鳴る。ギギギとドアの開く音が響いた。
「ただいまー……って、お客来てたのか」
「あ、店長!おかえりなさいませ!」
店長が帰って来た。らしい。
だいたい三十歳の男である。茶髪でキリッとした目。
そして一番目を惹くのが頰にある傷である。左の頰に大和から見て左下から右上にかけての傷がある。店長さんから見れば右下から左上だ。三つの平行な傷なので、モンスターにでもやられたのだろう。
「あ、あの、店長!丁度二万で売れる槍って売り切れなのですか?」
「あー確かに切れてたな。それより安いのはあるが……んー、そこの四人の内のどいつだ?」
店長が読んでいる。流石にここで無視は出来ない。いや、無視できたら凄い。尊敬できるかも。
常識的に考えて無視はしないのだが。
「あ、俺だけど」
「なんで必要なんだ?」
「トロールとかベヒーモスを殺したいから」
店長さんの目が見開かれる。店員の女性も同様だ。
「?!……お前、GRは?」
「六……だけど」
「まじか! おもしれぇ、特別に蜻蛉斬りを二万で売ってやる!ただし条件がある。
もしベヒーモスの死体もってこなかったら、蜻蛉斬りの通常価格の三倍の九十万を払って貰う!
ベヒーモスの死体もってきたら、その素材を全てうちにくれ。その代わり蜻蛉斬りを二十八万マナト引きの二万で譲ってやる。どうだ?」
明らかに面倒くさい条件だ。それに失敗した時の損害が大きい。
「トロールの素材は?」
「無しだ。ベヒーモス限定。だって、ベヒーモスを倒したいんだろう?」
ピクリと大和は眉を動かす。
「いいぜ? ベヒーモスの死体をお前にやれば蜻蛉斬りを二万で売ってやるんだろ?よっし乗った。いい素材をくれてやる」
「よし!契約成立!」
「了解っと」
凄い速度で契約した。蓮司と白百合、揚羽と店員の女性の四人がおもいっきり固まっている。ブラフマーとシヴァは笑いを堪えていた。
そして……四人からは疑問の言葉が出てくる。
蓮司、白百合、揚羽の三人は『ベヒーモスを倒せるのか』という疑問。
店員は、『ベヒーモスの死体一つと蜻蛉斬りは釣り合うのか』という疑問。
それがある一言で表された。
「「「「本当にそれでいいの?!」」」」
「「うん。だいじょぶ」」
サラッと答える二人。四人のハモりも相当だが、二人のハモりも相当だった。
そして、別れの挨拶。
「ははっ!ベヒーモスの死体楽しみにしてろよ!」
「期待してるぜ?!お買い上げありがとうごさいやしたー!」
そう言って、大和は店から出て行った。
慌てて五人も付いて行った。
店内に残った二人は、こんな事話していた。
「あ、あんな人に蜻蛉斬りを渡していいのですか?あれは最高傑作だったというのに」
「あぁ、大丈夫だ。あいつは、きっと化けるからな。元冒険者の俺が言うんだから間違いはない!もし、英雄とかになったらこの店も《英雄が訪れていた店》って感じで有名になんだろ!いや、《英雄を英雄たらしめた武器を売っていた店》か?」
店員の女性は、まさかそれだけの考えで渡したのかと肩をガックリ落とす。
……もしかすると、得するのは店の方かもしれない。
◇◆◇
出発は明日。それまでに新しい武器に慣れる必要がある。
すぐにギルドに行き、修練場で練習をする。
当然大和は、槍の練習もするのだが、神との武器の相性なども調べなければいけないため結構大変だった。
もし神との相性が良いのなら、神の能力を付与させる事が可能だからだ。例えば、トリシューラの力を蜻蛉斬りに付与する、という様な。ただし能力は半減する。
実はこの作業の途中、ある能力を発現したのだが…それに大和は気付いていない。
そんなで練習している時、筋肉モリモリの長身マッチョマン(命名、大和)が大和に話しかけて来た。腰に剣がささっている。大和からしたら長剣なのだが、きっと男にとっては少し短い程度の剣だろう。
その男は、大和に話かけてきた。
「お前がトロール討伐に名乗りを上げたガキか…
俺と勝負しな。お前が負けたら、このクエストには出るなよ」
話しかけて来たと思ったら、いきなり勝負を吹っかけてきた。アホかと心の中で言った。ただでさえ時間がないというのに。
なんだか周りが騒がしくなった気がするが別にどうでもいい為、大和は気にしなかった。
(この野郎。けちょんけちょんにしてやるぜ!)
そんな事考えながら、その男の方に集中し始める。
そして、疾風突きを繰り出そうとした時、男は急に、
自らの剣を、空に放り投げた。
「……はっ?」




