異世界初日
前の話は暗かったし、今回は明るめでいこうかなと。
「……てな感じだな。……ふぅ」
大和の過去の話が終わった。大和は完全にその記憶を忘れられた訳でもないのに、平然と壮絶な人生を語る。……いや、平然ではないのかもしれない。平然を装っているだけかもしれないが。
三人とも、顔は真っ青だ。
特に、女子二人……揚羽と白百合は酷かった。当然だろう。あんな経験をした大和が蹴られたりしているのを傍観していたのだから。
下手すれば、あのリンチによって大和の記憶がより鮮明に思い起こされ、大和の心を、精神を、壊してしまった可能性すらあったのだ。そうすれば、今自分は生きていない。
「結果的に大丈夫だったのだから」揚羽と白百合はその言葉を使う事を躊躇った。どうも、そんな言葉で片付けてはいけないと……おもったからだ。
「そんな事……あったんだ……」
白百合は俯きながら言う。その表情は色々なものがごちゃ混ぜとなり、よく分からない表情となっている。怒り、悲しみ、憂い、憎悪……負の感情に埋め尽くされていた。
揚羽はもはや絶句してしまっている。蓮司も同様に絶句していた。二人は同時に、同じ事を思考した。……自分はどれだけ恵まれているのだろう、と。
こうなるであろう事は、想像に難くない。なんせ、その話を聞くだけならまだしも、大和は自身の体の傷を実際に見せながら話したのだ。その背中や腕に付いた痣や傷、腹部の刺し傷……を。
大和は どうせこうなる と、思っていた。だが、今までに比べれば今回はまだいい方だ。以前、ある人物にこの話をした時開始から五分後程度に見せた傷を見て吐いてしまった事があるくらいだ。
絶望に包まれた表情の三人を見つめ、大和は小さく溜息をつく。
が。
その直後に放たれた一言は、大和の想像の一つ上を行ったものだった。
「話してくれてありがとね。あなたの事を知れてよかったわ。……本当に。もう、辛い思いはさせない。させたくない。私はーーあなたの味方よ。……大和」
無理に作ったような、若干引き攣ったような笑顔で言ってきた。
無理矢理喉から引き出した様な優しい声で、言ってきた。
初めて話した時の声よりも、辛く、そして優しい声で、言ってきた。
満面の笑みには程遠いその笑顔、人を癒すには圧倒的に足りないもののある言葉、だがそれらは、大和にとってはかけがえのないものであった。
涙がふいに、溢れそうになる。堪えるが、どうも長く持ちそうにない。両手で顔面を覆って、正確には目を覆いながら、
「あぁ……ほんと…に、…あり、がと、う……」
やっとの思いで感謝の言葉を言えた。
涙には耐えようとした。
だが。
「泣いても、いいんだよ?」
白百合の一言で、ダムが決壊したように涙が溢れた。目を覆う手の指の隙間から、溢れてしまう。
白百合が、ゆっくりと大和に向かって歩みを進める。そして、大和目の前に着いた時、大和の頭の上に手を置いた。
つい、白百合に抱きついてしまったが、受け入れてくれた。そして、
「今日だけは、特別だよ」
慰めてくれた。頭を撫でてもらった。
初めて、本物の母とはどの様なものなのかが、わかったような気がした。
とても優しくて、何でも受け入れてくれて、そして、とても大きくなんでも包み込んでくれる、そんな、存在だと思った。
あの事件以来、大和は初めて声を上げて泣いた。声が枯れるまで、礼を言った。涙が底をつくまで、ただひたすら流し続けた。
すると突然、眠気が大和を襲う。
「おやすみ」
その一言が聞こえたと思ったら、ゆっくり瞼が落ちてきた。視界が黒く染まる。
こんなにいい気分で眠れたのは、これが初めてだ。
◇◆◇
大和が寝てしまった後
彼ら三人は普通通りになっていた。白百合の大胆な行動のおかげだ。ちなみに、その本人はと言うと…
彼女、白百合は、真っ赤になっていた。耳まで赤くなり、湯気すら出ている。自分がどれだけ大胆なことをしたのか今更理解した為だ。
蓮司は少しの間白百合をからかっていたが、揚羽に怒られたらしい。しゅんとしながら、宿を探しに行った。見つからなかったら罰ゲームというオマケまでついた状態で。
ちなみに、異世界の知識は勝手に頭の中にあったし、貨幣もなぜか服の中にあった。服は学校の制服だ。
貨幣は、一人十万マナト。(マナトとは、地球で言う円 である。一マナト=一円)持っていた。つまり、合計は四十万マナトだ。日本円で、四十万。
蓮司が宿を探しに行って残ったのは、三人だ。
揚羽が白百合の隣に座る。(白百合は大和を膝枕している)そして、
「好きになったの?大和君の事」
「うぅ…ど、どうなんだろ…?」
「好きになったわけじゃないの?じゃあ、奪っちゃおうかな。大和君」
「え?えぇ?!んぐっ…」
叫びそうになった白百合の口を押さえる揚羽。
そして、小さな声でこう言う。
「別に白百合は好きじゃないんでしょ?ならいいじゃない?」
だが、白百合はつい勢いで言ってしまう。小声で。
「だ、駄目よ!好きじゃないなんて…そ、そんなわけ無いじゃない!好きよ!それに、かっこいい…はっ?!あぁっ?!い、いまの嘘っ!冗談よ!」
「それが本音かなぁ?白百合ちゃ〜ん?」
「うぅ、違う…うぅぅ…違うよぉ…」
「説得力無いよー」
「〜〜〜〜〜ッ」
もう白百合はやばかった。
大和の事考えると、高鳴る心臓。今にも飛び出してしまいそうだ。
揚羽の、『大和奪っちゃおうかな』宣言を聞いて、やばい。
やばい。顔あつい。胸の鼓動速すぎ。
つい、大和の唇を見てしまって、“ある事”を思い浮かべてしまう。
「ぅあ」
動こうとしたが、膝枕中で動けない。
あぁ…
ぽふん、と。
白百合が、爆発した。比喩ではなく、実際に。
「あわ?!え、ちょっと白百合?ねぇ、ねぇってば!……ど、どうしよう」
揚羽は白百合をからかいすぎた、と、後悔した。これでは蓮司と同類だと考えたが、もはや蓮司以上である。
(ま、……大和君は白百合にあげるわよ。大和君のあんな話聞いたら、優しい白百合ならああなると思ってたしね。それにあなた、一目見たときから…)
心の中で揚羽はそう言った。そして、思い出す。蹴られる大和を見る瞳の中に、確かに全く別の感情があったという事を。
◇◆◇
その頃、蓮司は街中を走っていた。
街並みはヨーロッパの様な、石で作られた家だった。そんな家が道の両端に整然と建ち並ぶ。騎士の整列の様に、真っ直ぐに。
道は舗装されておらず、土が剥き出しだ。馬車が横を通り過ぎる。そこでこの世界に車は無いんだとすぐわかった。……いや、大体予想出来てはいたが。
道を走っていると、すれ違うのは全員 人間 だった。
が、指の先に丸く光る球のようなものがあり、それをライトがわりにしていたり、炎を飛ばしていたり……その人によって様々な方法で道を照らしていた。
つまり、魔法をつかっていた。
(かっけ。俺も明日練習しよっかなー)
蓮司の頭の中には、魔法の使い方も入っていた。
(そういや、ここまで来る途中、よく後ろの方でキャーキャー聞こえたが……有名人でもいたのか?この世界の有名人になら会ってみたいな)
その声が本人に向けてとは全く気づかない蓮司だった。蓮司は自分がイケメンだと理解していない。そのせいか、相手が自分に惚れている事や、自分を見て騒がれている事などを完全に理解するまでに大いに時間を要した。
つまり、蓮司は鈍感だ。
なぜか、鈍感だ。
イケメンほど、鈍感だ。
なぜだ?
「なぜ主人公とは鈍感なのか! なぜなのだ!」
「えっと、誰? 主人公? てか、俺に? 俺って鈍感?」
蓮司は知らない人に話しかけられていた。いや、話しかけられた訳ではなく、演説していたようだ。なんとも話の長そうな男性だ。その人物に話しかけられたと勘違いしていた。
鈍感に鈍感か?と聞けば、当然、鈍感は自分が鈍感である事に気づかないわけで。
「なぜだ、なぜなのだ何故鈍感なのだ?! そこの君!君だよ君……この小説読んで……ふ、ぶえっくしょい!」
「君ってだれ? てか、読んでる?小説を?? どゆこと?」
「……は、はっくちょい!へっ、へっ…………へっくちょん!ふ、ふぴゅん!」
(この人危ない人な気がする)
蓮司は頭の上に所謂『ハテナマーク』 を出しながらまた宿探しを始める。
あの
それから三十分間走りまわって、やっと見つけた。
最初にいた塔まで戻ったら、遅い!と怒られた。
どうやら、寒かったらしい。
だが、大和はまだぐっすりと寝ていた。
◇◆◇
やっと宿に着いた。ベッドがある!すごいフワフワ!
モコモコだ!!と、蓮司は心の中ではしゃいだ。じつは白百合もだが、ぐっと堪える。
「では、102号室に、『ヤマト様』と『シラユリ様』
103号室に、『レンジ様』と『アゲハ様』です。
では、ごゆっくりお休み下さいね。失礼します」
店の人の説明聞いて、びっくりした。吃驚した。
「え?なんで、男子同士じゃないの?」
「しょうがないんだよ。蓮司。これは決まった事なんだから、後から何を言ってもしょうがないんだよ。わかった?」
「あ、あぁ…」
蓮司の疑問に、揚羽が答えた。いや、これ答えになってないな。そう思ったが揚羽は今、話を聞くようには思えなかった為、
ちなみに、店の人からの『部屋に誰が入るのか』という質問に答えたのは、揚羽であるが。
目をキッラキラさせながら答えていた。
『白百合ちゃんと大和くんは、同じ部屋で!うふふふふふふふ…』
蓮司は大和をベッドに寝かせる。
大和が起きない。マジで起きない。
そして、
これが、長かった1日の最後の言葉。
「「「お休み」」」
そして、それぞれの部屋に入っていく。
長かった長い一日が、やっと終わった。
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ここで、異世界の説明でもしようか。
そこは、地球のようで、地球でない。
そこには人や、魔人、獣人、巨人などの『知識を得た者達』が住んでいる。
モンスターや、魔物など、『得られなかった者達』も住んでいる。
人間族。その世界では、人が最も弱い。
「弱者が強者と互角以上に戦う方法」
と聞いて、あなたは何を思い浮かべるだろう。
彼ら、数百年前の人類は、こう考えた。
「強者すら圧倒でき、さらに強者には扱えない武器」
と。
そして完成したものが、『魔法』である。
そして『魔法』は、数百年経った今でも扱えるのは
「人間」のみである。
獣人族。獣の体をもちながら、人に近い種へと、進化した者達。
彼らは獣の素早さ、武器をその人に近い体に秘めている。
獣人の全速力は、秒速二百メートルを優に超える。
獣人の人のような手の先には、鋭いナイフの如き爪がある。
圧縮された筋肉によって振るわれる武器の速度は、
異世界で最速の一撃となる。
格闘なら、最強である。
魔人族。人間の『魔法』を「模倣」する事に成功した唯一の種族。ただ、「模倣」はしたが、「複製」はできていない。
故に、彼ら魔族の扱う『魔法』は、どちらかというと『魔術』に近い。
『魔術』とは、『人間の意志を宇宙の事象に適用することによって何らかの変化を生じさせることを意図して行われる行為』である。
『魔法』とは、『現実には不可能な手法や結果を実現する力』である。
だが、例え『魔術』であっても、それを補える程の身体能力がある。獣人と互角レベルの身体能力がある。
魔族とは、異世界も中でも最強に近い種族である。
巨人族。一体一体が山の如き大きさを持ち、その巨躯から繰り出される一撃は、物理攻撃の威力は異世界最高である。
ただ、巨人族には、『魔法』はないし、獣人や魔人のような高い身体能力もない。
代わりに、どの種族にも有効な一撃必殺の奥義をもつ。奥義と言っても、物理攻撃だが。
一撃必殺の奥義(全力の物理攻撃)は、一撃で国一つ、大陸一つを優に破壊する。
そんな四つの種族が、それぞれ四つの世界で生きている。四つの世界が存在している。
四つの世界の中心に、共生世界が存在する。
共生世界には、四つの種族が暮らしている。
その、共生世界のまわりに四つの世界がある。
ちなみに、太陽の動きは、「天動説」と言えば分かるだろうか。
丁度、「人間世界」と「獣人世界」の間と、「魔族世界」と「巨人世界」の間を通っており、必然的に四つの世界に囲まれた「共生世界」の真ん中を通る。
全ての世界は実は平べったい。地球の様に球体なのではなく、平らなのだ。これは、太陽の光を上手くすべての世界に届かせる為である。
世界は五つあるといったが、それはつまり、宇宙の中に五つの星が一つの所に集まってある感じだ。
だから、星と星を簡単に移動するために、遺跡から転移出来るようになっている。
一つの星の大きさは、大体、地球の表面積ぐらいだ。そして、すべての大地が一続きになっている。
ただ、巨人世界だけ、大きい。地球の表面積の約三倍はある。
異世界の説明は、ここまで。
今世界がどうなっているのか、どうなろうとしているのか、それは、今は離さないでおこう。
きっと、その方が楽しいだろう?
ちなみに、殺された三人はゼウスが蘇らせた事は、彼ら四人には秘密である。
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異世界 二日目。
七月十五日 土 午前 六時四十分
チュンチュンと、燕が鳴いている。つまり、朝。
大和は起きた。パッと、目が覚めた。
カーテンなどないので、直に日差しがはいってきている。それによって眩しいと思った。
(そっか、昨日寝ちゃったからか。迷惑かけたな…)
大和はそう思いながら、起きようとして、違和感があった。左腕が動かない。
何だろうと思いながら布団を持ち上げると、
白百合がいた。
「……」
混乱してきた。
「………………………………もっかい、寝るか」
二度寝をした。きっと、寝ぼけていたんだろうと、信じて。いや、出来ればこれは夢である事を願って。
二度寝から、目が覚めた。
結果はというと。
増えてた。
最高神である二人もいた。
一人は右腕に。もう一人は胸の辺りに。
やばい。動けない。どうしよう。
あ、そうだ、自然と、気づかないふりして出ていけばいいんだ。
だが、それが途轍もなく辛い事を大和は知らない。一種の拷問だと例えられるレベル程に。
今更だが、足まで拘束されていた。
まさに、金縛りである。
……。
やべ。
その後、揚羽が来てくれたので、
『た〜す〜け〜てぇ〜』
『なにやってんの?』
情けない言葉で助けを求めた。
まぁ、揚羽のおかげで出れたわけだ。布団から。
全く、朝から大変だ。
◇◆◇
朝起きて、現在朝食を食べている。朝食はトーストに目玉焼きにベーコンだった。こちらの異世界では違う名前らしいのだが、まだ覚えていない。
大和の隣に平然と座る白百合に聞きたい事は山ほどあるが……
『話しかけるな』オーラがやばいので、やめておく事にした。
あと、朝食を食べてて思ったが、同級生と食事をする、何て事は小学の給食の時ぐらいだ。
正直、楽しかった。
朝食後、今後の事について話し合った。
「これからどうする?」白百合が言って、
「「ギルド、かな……!」」
蓮司と大和が、すっごい目を輝かせながら答えた。この時大和は、蓮司は、お互いを同類だと一瞬で見破った。そして握手をする。
その勢いに流されそうになっている白百合は、戸惑いながらもある疑問を出す。
「え、えっと……じゃあ、ギルドはどこにあるのかを……」
「大丈夫!……もう見つけてある!」
「さすが生徒会長! 蓮司万歳!」
男子二人が、その見た目と正反対の言動だ。特に大和なんてはその変わりようは途轍もなく大きかった。
大和は、黒髪で黒い瞳。滅多に話さない読書家。
蓮司は、若干茶髪のサラサラ髪で黒い瞳。眼鏡をかけた、物静かなイケメン生徒会長。
という見た目だ。
「「よっし、行こう!」」
「う、うん」
白百合は、完全に飲み込まれていた。
揚羽はというと…
「ギルド大賛成ー! 行こうぜ行こうぜ!」
こちらもそうだった。
揚羽は、高校では、《『冷静さ』において右に出るものはいない!左ならいるがな!》とか言われていた。
それほど冷静な揚羽が、ここまで……変わるのか……と白百合は戦慄を覚えた。
白百合だけ全く話についていけなかった。
ハイテンションすぎて。
(つ、疲れた……)
◇◆◇
とりあえず、ギルドまで来た。
(ちなみに、来る途中に武器屋があったので、一通り装備は揃えた。費用は何とたったの2000マナトだった。〔初心者割引〕が適用さされたらしい)
装備は、簡単な革鎧に、『体力回復薬』『魔力回復薬』『体魔回復薬』に、四人がそれぞれ好きな武器を一つだ。
大和は、槍。蓮司は、両刃の剣。白百合は魔法杖&盾。揚羽は双剣&盾である。女性には、盾をサービスらしい。
「「「よし!行こうぜ!」」」
「え、えぇ」
早速、ギルドに登録する事になった。
次の更新は7/1。
二話同時更新します。




