異世界突入
二話同時更新しましたー。いえーい。
今回の話は暗〜い話です。
彼ら、大和 蓮司 白百合 揚羽。
彼らの魔法適正値は異常だった。一般人と比べると数倍の適正値があるからだ。
この数倍という数字。小さい様に思えるだろうが、異世界ではそれは途轍もない差である。なんせ、聖騎士と呼ばれる様な者でも一般人の五倍程度の適正値なのだから。
きっと彼らなら、死なない。そう確信できる。何故かと考えれば、それは大和という存在が大きいだろう。
彼は、異常すら通り越す。きっと、異世界でなら聖騎士を平然と超えるだろう。
……なんせ、現在の時点で適正値が十倍なのだから。
なら、干渉はしなくていいだろう。と言うよりも、する必要もない様に思えるが。
そう、ゼウスは思った。
大和はともかく、他の三人は初めは心配だった。目の前に迫った『死』に不安で、怯えていた。その所為か高い適正値があったにも関わらず、魔法の存在に気付く事が出来ないでいた。
適正値が高い者は自身に死のような「恐怖」が訪れた際に、魔法という存在をその身に宿しやすくなる。だが、「恐怖」が強ければ押し負ける。結局魔法を使えたのは大和だけだった。
……だが、今では不思議とその時の様な不安さがない。何故か。……答えはすぐに出た。
大和の存在によるものだろう。
彼の尋常では無い程の戦闘力(適正値)。
同じ世界で暮らす者でありながら、気付かなかった事が不思議な位の心の強さ。
彼の力に対する憧れと対抗心。
きっと挙げればキリがないほどある。
それほど圧倒的であったのだ。“彼”は。
そして、それはつまり、彼を目標としていると言ってもいいだろう。無意識に彼の様になりたい と、思ってしまう。心の奥深くで思ってしまうのだ。
人間が自身で認知出来る『意識』は全体の僅か四パーセントだと言う。そして残りの九十六パーセントは『潜在意識』と呼ばれる。
その潜在意識が「大和の様になりたい」と言ってしまえば、行動は何時からか勝手に変わる。自分から近付こうと無意識で思うのだ。
(……全く……とんだ化け物だな……)
ゼウスはそんな事思った。
ーー……これなら、異世界へ招いても問題無いな……
◇◆◇
何か は、大和を観察していた。
そして、こう思った。
(面白い。面白いぞ。やはり彼は逸材だ!それも、天賦の才を持つ者の中での、逸材だ!
ははは…本当に彼は人間か?もう既に、人間の域を超えているのではないのか?!
……なんと……彼は周りの者さえ変えるのか…… あぁ!楽しみだ!!全く…
ーー早く殺したくなっちゃうじゃないか……
早く来てくれよぉぉ…大和ぉぉ…ここまでぇ…)
これは、何か が、思った事。
無意識下の宣告。
文字通り、誰一人認知していない言葉。
◇◆◇
ゼウスは最後に大和に向かって、こう聞いた。どうせ帰ってくる言葉は決まっているのだが、それでも、だ。
『では、大和よ……異世界へ行きたくはないか?』
先程聞く事が出来なかった答えだ。保留となっていた。
……当然答えは決まっているわけで。大和は間髪入れずに、答えた。
「行く」
とても短く、とても力強い一言だ。
『……ふふふ、これで決定か。異世界行きは四人だ』
「早く連れてけ。もう、飽きたからな」
『ははっ!そう急ぐな』
大和はもうウズウズしている。まるで遠足の前の日の小学生の様に。いや、小学生もびっくりのウズウズっぷりだ。
『異世界に言ったら、我とはもう話すことはできない。これだけは覚えておけ!わかったな。よし、では、 こう言え!《我は-転生者-なり!》と!』
「分かった。《我は-転生者-なり》」
大和は言った。
「《我は-転生者-なり!》」
蓮司が続ける。
「わ、《我は-転生者-なり!》」
揚羽が、続ける。
「…《我は-転生者-なり》」
白百合が、続ける。
〈転生/開始〉
瞬間、音も無く、彼ら四人(神二人も)が光となって、消えた。その光は霧散し、宙に溶ける。
この世界から。存在ごと、消えた。
不思議な感覚に包まれる。
浮遊しているような、感覚。
ゆっくりと、移動しているように、感じる。ジェットコースターに乗っている様だ。些か遅い様にも思えるが。
そして、
気付いたら、
そこは、
異世界だった。
地球のようで、地球ではない。
異世界に、いた。
◇◆◇
まず、今あった事を話そう。
《我は-転生者-なり》
その掛け声と共に、変な浮遊感に包まれた。
空を飛んでいる様な感覚に近い。いや、これは空に浮かんでいる、という方が正しいだろう。
それからすぐ、視界が光でいっぱいになった。
パチッ……何かが弾ける様な音が響く。恐らくは、それが転移 (かどうかは不明だが)完了直前の合図だろう。
目を、ゆっくりと開けてみた。まだ光のせいで視界がチカチカする。だが、大和はその目で確かに見た。
そこには、五つの地球の様な星があった。
上を見上げると、太陽が、 回っていた。そう、地球の周りを、回っていた。
(スゲ……)
すぐにわかった。その五つの星は目的地なのだと。
なんて考えていたら、唐突に、引き寄せられる様な、感覚。意識が海面に引き揚げられる。
気付いたら、大和は、異世界にいた。
そこは街だった。
なぜ分かるのか?
それは、彼らは塔のような所の頂上にいるからだ。
半径十五メートル程の丸い空間で、無数の円柱によって屋根が支えられている。
窓は、ない。いわゆる、吹き抜けだ。そこから街並みを見渡せる。だから、すぐに街だと分かったのだ。
全て石で出来ていて、微細な彫刻が彫られた高級そうな彫刻品が所狭しと並んでいる。
その彫刻品と彫刻品の間にランプらしき物が置いてある。中には炎が灯る。それによって、明るく照らされている。
足元には魔法陣が広がる。よく見ると円柱にも魔法陣が描かれていた。
四人はやはり驚いている。
転生するのだと言われていても実際に転生してみると当然、驚く。なんせ、自分の知り得る世界とは全く別の世界に来たのだから。
だが、驚きの後には感動があった。
とても綺麗な街の光に、感動した。そう、今は夜だ。
夜景がとても綺麗だった。それも虹色の夜景である。街灯以外にも光源がある様だ。
塔の高さは大体二百メートルぐらいある。その為、夜景が見渡せるのだ。街の中心部から、外縁部まで。
そして街の中心部には、よりきらびやかなものがあった。それは、城だった。
あまりに巨大で、あまりに美しい。
「うわぁ……」白百合の感想。
「綺麗……」揚羽の感想。
「すげぇ……」蓮司の感想。
「……すごいな……」大和の感想。
四人がそれぞれ感想を言う。だが、目の前の景色を上手く言葉で表せなかった。
その後白百合、揚羽、蓮司は街について話し合った。
大和は、たった一人で円の外側に座って夜景を見ていた。足を宙にぶらぶらさせながら、ただ、見ていた。
いや、大和は夜景から目が離せなくなっていたのかもしれないが。いや、大和は三人の中に入り辛かったと言うのもあるのだが。その隣にはブラフマーとシヴァが座る。
夜の風は、とても心地よかった。心が、落ち着く様だった。思わず宙に体を放り出したくなってしまう。……自殺願望がある訳ではない。決して。
数分後、三人が大和の方に来た。どうやら話し合いが終わったらしい。
そのうち二人、白百合と揚羽が大和に近づき、蓮司は二人の一歩後ろにいた。
白百合が言う。心配そうな顔で、だ。
「あのさ……さっきの事、なんだけど……」
揚羽は言う。とても話辛そうで、所々区切っていたりはしたが、それでも言葉を紡ぐ。
「さっきは……助けてくれて、ありがとうね。……それと……」
白百合と揚羽が申し訳なさそうにしている。その様子を見て大和はすぐ理解した。
あぁ、あれか。と。
「あぁ、どうせ俺が蹴られまくった話だろ?」
「……うん……」
「別にいいよ。慣れてるから。親にも……あぁ、今のなし」
「「「え?」」」
大和の最後の言葉に三人は驚愕する。
「親にも」……されていた、とでも続ける気だったのだろうか。それは、つまり、虐待されていたということだ。
「あ……その……ごめん……」
「白百合……さんが謝る事じゃないだろ? 別に白百合さんは何も悪くないんだから」
「そうだけど……そうだけど! いや、私にも謝らなくちゃいけない事あるよ! だって、君が蹴られるのをただ見ていただけだもん……」
白百合は頭を下げる。
その姿を見て二人、蓮司と揚羽は驚愕する。
その表情が何時にない程に歪んでいたからだ。これ程までに悲しそうな表情を二人は見たことはなかった。
大和も薄っすらであるが、そんな感覚はあった。
彼女は、優しい。
……筈なのに、つい、魔が差してしまった。
それが、悔しいのだろう。
「ごめん!助ける事が出来なくて……」
「いや、あんなの親からのに比べ……れ、ば……」
『ごめん 助ける事が出来なくて』
その言葉を聞いて、
大和はあの時の事を思い出した。
辛いような、そうでもないような、記憶。
自分が自分でなくなったように錯覚した、記憶。
… …… …………ごめんね、
声。優しく、同時に悲しさも孕んだその、声。
大和の目が見開かれる。
「や、まと……くん……?」
白百合の声で呼び戻された。今の状態はまさしく、心ここに在らず だっただろう。
(あーやべ、がっつり無視してたのか)
急いでなんて言葉を返すか考えていたら、
「ごめんね……」
白百合が突然抱きついてきた。少し、どころか大いに驚いた。びくんと大和の肩が大きく跳ねる。
「思い出させて、ごめんね……」
(思い出させて?なんでわかる?)
大和は訳が分からなくなってきていた。混乱しているのかと感じていた。
が、思ったよりもすぐに答えは出た。
大和は涙を流していた。
記憶を思い出していた事で、無意識に泣いていた。
だから、気付いたのだ。
(なんで泣いてる?俺は、なんで泣いてる?)
「い、いいよ、大丈夫……虐待の事は全部俺の事、なん、だから……白百合……さんは、気にしなくても……」
「ううん、気にするよ……だってこれからは、仲間なんだよ? 一緒にこの世界で暮らしたりする、仲間なんだよ? 仲間の事を気にして、悪いの?」
白百合は大和に言う。
「そうだよ! 私達は仲間だよ? 気にするのは当然だよ!」
揚羽が続けた。
そして、蓮司はある提案をする。
「なぁ、その、虐待の事、話してくれないか? 別にその記憶を自分だけのものにしなくていいんだ。仲間なんだし、皆で共有しようぜ? お前だけ辛い思いするなんて、不平等だろ?
…………まぁ、話したくない、んなら話さなくてもいいけどさ」
話す、か。
(誰かに話した事なんて、なかったな)
大和は過去を振り返る。すると、ある事に気が付いた。
自分は、あの出来事を境に大きく変わったのだなと。
あの出来事から、人と話さなくなった。理由は転校したから、それだけではないだろう。もっと深く、苦しい理由がある。
「記憶を思い出す事は辛いかもしれない。けど、話してみれば、少しは辛くなくなるかもしれないぜ?」
皆の言葉を聞いて大和は話す事にした。
三人は俺の為に……ここまで、してくれるのか。と、ふと思う。
特に、俺の事を傍観していた二人がこうも必死になっている。正直、嬉しかった。
「そうだな……じゃあ、話すことにする。けど、思った事そのまま言うかもしれないから、辛くなったら言ってくれ。すぐやめるから。それだけは約束してくれ。そうじゃなきゃ、話さないからな」
「「「わかった」」」
三人の強い意志を感じられる。
これから一緒に暮らしたり、旅とかするかもしれないし、あの影とかモンスターとかと戦う事になるかもしれない。
なら、少しでも共有したほうがいいのかなと、大和は思った。
「んじゃ、話すか。俺の過去を。
……………………と、その前に……白百合さん?離れていただけますでしょうか?」
「あ……ごめん……」
「いや、謝らなくてもいいんだけど」
顔を真っ赤にして、後退りしながら離れた。その姿を見て揚羽が密かに笑っていた事を大和は分かっている。
大和もクスッと、笑った。
「じゃ、始めるか」
が、すぐに表示を引き締め、過去を振り返る。
あの思い出を、思い出す。
ここ数年の記憶が流れる。
◇◆◇
大和の家族は、父と母との三人で暮らしていた。
けど、三人で楽しく暮らせていたとは言えない。
父はほとんど外に行って遊んでいて、まともに話した事はなかった。見た事すら殆どない。その数など片手で事足りる。
母は、ずっと部屋にこもっていた。それには父が関係しているのだろうが、この時の大和には気付くことなど出来なかった。
その大和はというと、いつも近くの公園のブランコで遊んでいた。暗くなるまで、一人で。時々、近くを通り過ぎる同年代の子とその親を見ると、羨ましいなと思った。
この時、大和は小学五年だった。
この時はまだ、平和だった。大和にとっては。
丁度 中学の一年の時、父になにかあったらしく
ただ、意味もなく母を殴っていた。
ただ、意味もなく、ずっと、殴っていた。
大和が学校から帰ってきた時、居間から変な音がするなと思い、覗いた。その変な音は、母を殴る音だった。
必死で助けようとした。けど、助けられなかった。
それから一週間後に、母は死んだ。
カミソリで、『切った』のだ。
大和は中学から帰って、洗面所へ向かった。手を洗っていると、異臭がした。風呂場からだ。
何だろう、と、風呂場を見たら、
真っ赤な水の中で死んでいた。
よく見ると、壁にも赤いシミがあった。
母は、手首と首の両方を、切ったのだ。
大和は叫んだ。ただひたすら。声が枯れるまで。
途中で、胃の中のものを吐いてしまった。
「どうかしましたか?!」
隣の家の人が来た。額に汗を浮かべ、玄関を急いで駆け上がる。
そこまで見届けて、大和は気絶した。
目が覚めると、そこは自分の部屋だった。
今までのは夢かなと思い、二階の自分の部屋から一階まで行ったら、夢じゃなかった。
隣の家の人がいたから。真っ青な顔で。
そして、母の死体も見えた。
けど、何にも感じなかった。『死』を見てもどうも思わなくなっていしまった。
この時からかな、『死』をどうでもよく感じるようになったのは。
その後、父と二人暮らしだったが、今度は大和が父の標的となった。
父は母の事をどうとも思っていなかった。
ストレス発散の為に殴られ続けた。毎日ではなかったが、もう学校には行ってなかった。いや、正しくは、
学校に行けるような顔ではなかった。
顔は、痩せ細っており、さらに所々に痣があったりしていた。体にはまだ真新しい傷が目立つ。
中学二年となり、また学校には行けるようになった。
父の怒りがおさまったらしい。殆ど顔を会わせることが無くなった。
が、不幸な事はまた起きた。
中学三年を間近に控えたの中二の三月頃。夜、家に強盗が来た。
丁度その時は父が家にいた。が、なぜか父が大和の部屋に来て、大和を起こした。
そして、強盗が部屋に来た。
その時父は言った。
「こいつを殺せ!」
そう言って、大和を強盗のほうに蹴飛ばした。
強盗は当然、大和を殺そうとするわけで。
大和の腹にナイフを突き刺した。
「……ッ?! かふっ……」
そして、大和が倒れた。口には鉄の味が広がり、腹部から赤い液体が水たまりの如く広がる。
が、まだ意識はあった。
倒れた大和は目の前で父が強盗を殴っている姿が見えた。どうも思わなかった。
強盗が動かなくなった。
バキッ
そしたら父はバットで強盗の頭を叩き割った。
が、どうも思わなかった。
「……とぉ …… さ……」
声を出してしまった。
そしたら父は、大和に馬乗りになり、
「見てたんなら、お前が死ね。ガキ」
といって、腹のナイフを無理矢理引き抜いた。
と、その時、棚の上から本が落ちてきた。
それが父の頭にあたり、少し怯んだ。
大和が手を動かすと、強盗の持っていたリボルバー銃があった。まだ使ってすらいない新品の様だ。
その銃を持って、
父の方に銃口を向けて、
撃鉄を全力で引いて、
引き金に手をかけて、
目を閉じて、
そして、引き金を引いた。
撃鉄の音が鳴り響く。
銃の反動で大和は脱臼した。
が、そんなに痛くなかった。
閉じていた目を開けると、丁度額の中心に穴の空いた父がいた。そして、覆い被さってきた。
けど、もう何も感じなかった。
父が死んでいる。だからどうした?
こんなの、ただの肉片じゃないか。
まるでゴミをどかすように、父の死体をどかす。腹部からの出血が止まらない。
頭が、原型を留めていない強盗を、まるで歩道に捨ててあるゴミを避けるように、平然と横を通った。
足の裏は血で真っ赤。
顔と服は父の血で真っ赤。
腹を突き刺されて、下腹部は真っ赤。
肩は脱臼。
なぜか、痛みがなかった。
父の死、強盗の死を見ても、どうとも思ってなかった。思った事と言えば、邪魔だなという事だろう。
この頃からだろうか。心が壊れたのは。
それから少しして、警察がきた。
警察と少し話をしたあと、急に意識が暗転した。
気付いたら、病院にいた。二日眠っていたらしい。
それから、警察の人とかに話を聞かれたりした。
大和に罪は無いと言われた。
父を殺したのは、正当防衛だということになったらしい。自分の親を正当防衛で殺すなど、と大和は一人で笑った。引き攣った笑顔で。
それから少し経って、高校受験があって、志望校に合格した。
ちなみに、この時大和は、ちょっとした母の知り合いの家で暮らした。
大和と同じくらいの歳の人もいたが、事情を知っているのか、あまり話をしてくれなかった。結局今の今まで数回程度しか話してない。
けど、こう、言ってくれた。
『ごめんね、助けられなくて』
『もう、大丈夫だよ』
と……。
けどもう、俺の心は壊れてる。
遅かったのだ。
助けようと思ってくれた事は嬉しかったけど、遅かった。
そして、今に至る。
加筆修正しました。




