波乱の予感
サイカと出会ってから、三日目。サイカにはもう、目立った外傷はなくなった。これは白百合達のお陰だ。白百合の回復魔法は強力で、殆どの傷を消す事が出来た。傷跡を残さずに。
サイカが回復したなら、これからする事はアクシスへの移動である。
これは、アクシスでグランベヒーモスの情報を得る為だ。
そもそも大和達は、グランベヒーモスの居場所を知らない。実際は、サイカのいた貴族の屋敷の屋根にいるのだが、サイカは貴族の屋敷の場所をよく知らない。
逃げる時は、周りが見えないほどに焦っていた為、どこから逃げてきたのか知らないらしい。
貴族の屋敷に連れてこられた時は、窓のない馬車で来た為、どちらの方角に来たのか知らない。
つまり、サイカは自分のいた屋敷が何処にあるのかさえ知らないのだ。知らない、というより、知らされていない。
それが、奴隷と言うものらしい。
殴りたい。ただ、大和はそう思った。生きていれば、であるが。
◇◆◇
移動方法は、初めは徒歩の予定だったが、椿が
「おーーい!」
と叫んだと思ったら、ベヒーモスが木を薙ぎ倒しながら来た。
(って、このベヒーモスって、サイカを連れてきたベヒーモスじゃないか!)
椿がベヒーモスに話を聞いた所、
『自分がサイカを連れてきたのだから、協力したい』
……だ、そうだ。
まぁ、協力してくれるってんなら、有り難く。
「ねぇねぇ! 大和! 褒めて!」
「自分で褒めてって、言っちゃうんだ……まぁ、助かったよ。ありがと」
「むふー」
椿の頭を撫でてやったら、なんか変な声出した。何この子可愛い。あと、忘れているかもしれないが、椿の頭には猫耳が付いている。その猫耳もピクピク動いていて可愛い。
猫耳触りたい。
「ふにゃっ?!」
つい猫耳を触ってしまった。椿が変な声を上げる。
「むむむ…」
白百合は揚羽の背中で唸っていた。
「白百合ちゃん…もう、大和の事襲っちゃえば?」
「襲う?」
「うん。性的な方で」
「ごめん無理」
◇◆◇
ベヒーモスの登場のお陰で、移動が相当楽になった。
ベヒーモスは相当早く走る為、あっという間に一日目
のノルマを達成した。だが、それでは止まらず、二日目のノルマの半分まで、走りきった。
二日かけてアクシスに着く予定だったのだが、大幅に短縮して、一日と少しで着ける日程に。
いつグランベヒーモスに襲われるのか不明な為、しっかりと休養はとった。当然見張りをつけながら交互に。ちなみに今日は、ぐっすり寝れた。
いつもは、白百合、ブラフマー、シヴァ、ヴィシュヌの四人に囲まれて、最早 (言っちゃ悪いが) 地獄だった。いや、怒った事はないけども。
けど、今日はサイカ一人でした。
どうやら、サイカが一番懐いているのが大和らしい。それに、大和といると、貴族の屋敷にいた頃の事を忘れられるらしい。
と、いう事で、サイカと一緒に寝た。
(あの、俺って癒しキャラですか?)
大和は自分がそうなのではないかという様に思えてきたのだった。
……大和は何時からか誰かと一緒に寝る事が当然の様になっているが、それは普通ではない。だが、大和はそれに気付くことはこの先、一度としてないだろう。
サイカは、大体中学一年か、小学六年ぐらいの平均的な背丈。
現在の服は揚羽が (なぜか) 持っていた服を着ている。大きさも丁度だ。なぜか、丁度だ。
髪はもうボサボサではなく、綺麗に整っている。あと、所謂「アホ毛」らしきものが頭のてっぺんに確認された。ピコピコと左右に揺れる。
瞳は、出会った頃よりも綺麗に見えた。なんというか、瞳の輝きが増している、というような感じだ。
そして、忘れてはいけないものは、猫耳と尻尾だ。椿と同じような耳と尻尾が付いていた。それはつまり、椿と同じ神獣か、もしくは獣人のどちらかという事だ。
消去法で探せば、すぐにわかる。サイカは獣人だとわかった。……うん。猫耳美少女。
サイカは、今この時を必死に生きているように思える。俺達とは、違って。
俺達は、今この時を楽しく生きている。ただ、自分のしたい事をして、自分の見たいものを見て…そうして生きている。
けど、サイカは違う気がする。自分でしたい事を我慢していて、見たいものも我慢して…そうして、毎日辛い思いをしながら生きているように感じる。
(そんなに、辛い思いをしていたのか? 辛い思いをさせたのは……人間、か。つまりは、サイカの主人に当たる貴族か。
その貴族……絶対に殴ってやる。……ん?)
……サイカはどこかの貴族の屋敷に居たと言っていた。そこには、サイカ一人しか奴隷は居なかったのだろうか。……否。きっと貴族なら数十人の奴隷が居てもおかしくはない。と言うよりも奴隷はほぼ確実に二桁はいる。多いところは三桁を超える。
いつから俺は奴隷が一人しか居ないと勘違いしていたのだろうか。
まだ、屋敷に、居るのか? そこに居た、奴隷達は? まだ、取り残されているのではないか?
そこに、サイカの友人がいるのではないか?
人間と獣人は戦争している。人間は、獣人を恨んでいる。もし、騎士団の人が獣人の奴隷を見たら……殺される可能性がある事を、大和は知らない。
だがその大和でも、サイカの友人が殺される可能性があるのではと思い始めていた。
駄目だ。それだけは、駄目だ。
これは、相当やばい状況なのではないか?
(……助けなきゃ。獣人を、助けなきゃ)
そう、大和は決意して、眠りについた。
◇◆◇
次の日の朝は、皆早起きだった。
時刻は、五時半。
男がテントを片ずけ、その間に女が朝食を作る。
パパッと朝食を食べて、すぐに出発。
これは、大和が昨日の夜に考えた事を、全員に伝えたからだ。
『アルテミス』のメンバー数人が少し嫌そうな顔をしたが、協力してくれた。
急がなくては、という事で、大和と白百合でベヒーモスに身体能力強化を施した。
実は大和は、白百合に次いで魔法の力、つまり魔力が高いのだ。大和はあまり魔法を使わないが、使える魔法は結構多かったりする。
あと、無言詠唱していた大和と白百合にびっくりしていた『アルテミス』だった。普通は呪文を唱える事で発動する魔法を、まさかの無言で発動するさせているのだ。正直、大和達はこれが普通だったので、真実を知って驚いた。
ベヒーモスに施した魔法によって、昨日の二倍近くの速度で疾走した。
それによって、通ってきた道には例外なく、ベヒーモスの足跡がくっきりと残っていた。いや、足跡と言うより、丸い陥没と言ってもいいのだが。
お陰で昼過ぎにアクシスに着いた。
そして、そこで聞いた。
青龍へ向けて、勇者四人と騎士団五十人が……昨日出発したという事を。
これは、いよいよやばいかもしれない。
さらにサイカに聞いた所、その屋敷には二十人ぐらいの奴隷がいて、さらにその全員がサイカの知り合いだそうだ。同じ村から連れてこられたのだとか。
いつも、屋敷の地下にいたから、グランベヒーモスに殺されてはいないだろう、との事だったが、全く安心出来ない。
なぜなら、騎士団五十人も向かったからだ。
もしグランベヒーモス討伐隊と、生存者捜索隊みたいに分けられたら、本当にやばい。
グランベヒーモスを倒して、さらに奴隷も助ける。
こりゃ大変だ。




