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出発

勇者達は何時からか、トロール相手に一人で互角以上の戦いが出来るようになっていた。

今ではもう、騎士団でも上位の者しか勇者と互角に戦えてなかった。それ程に、強くなっていた。

それも、短期間で、だ。


これで、勇者召喚されてから六日である。

本来は数年間かけてやっと届くか、という所に、たった六日で辿り着いたのだ。


当然、「流石勇者様だ!」などと、褒められた。だが、褒められれば、勝手に自分が強いと錯覚してしまう可能性があった。

こんな事は、どんな世界でも普通だ。

騎士団の序列が高くなれば、嬉しい。そして、浮かれた状態でクエストに出れば、殺される。そんな、世界だ。

だが、いや、だからこそ、中にはそれを心配する者もいた。


心配する者、それは言って仕舞えば……姫だ。


国王には、二人の娘がいた。二人とも性別は女である。年齢は、一人は十四歳。もう一人は、十六歳である。とても仲の良い姉妹だ。


彼女らの心配する理由、それは……一言で言えば一目惚れであった。


勇者の中で唯一の男である一心は、同時に勇者のリーダーを務めていた。リーダーとして、他の三人に指示を出す。そして仲間の安全を第一に考えている良いリーダーであった。

それに、リーダーに相応しい戦闘能力を持っている。なのに、それよりも強くあろうとしていた。

いつもそれを二人で見ていた。物陰からこっそりと。


だってかっこいいんだもの……。姫は自分に言い聞かせる。


容姿は、まぁ当然、イケメンだ。それに、勇者のリーダーを務めるだけあって、戦闘力では、勇者四人中、一番だ。騎士団との模擬戦では、たった一人で大の大人十人と互角に戦っている。

一目惚れするのは、しょうがない……事だ。

……ただ、彼の一年前の姿を知らなければ、だが……。一心は、一年前は学校の教室で、


『う、ぅぐぅ、か、覚醒ッ!黒炎暴風撃ブラックファイア・ストーム・ブレイクッッッ!!』


とか叫んでいたのだ。これは辛い思い出である。だが周りからは劇か何かだと思われていた様で、異世界に来るまでに何度も「またあれやってみてよ」と言われたものだ。

……そう、イケメンだったからこそ、いじめにまで発展しなかったのだ。


最近もこの事を思い出すと、死にたくなる。

これは一心の秘密なのだが、以前モンスターと戦っている時に、「必殺、黒炎ブラックファイ……」まで言いかけていた。

封印したものが簡単に口から出てしまった事で、何度木に頭を打ち付けた事か。


恋するおとめ二人は、いつも眺めていた。だが、前には進めなかった……

なぜなら、勇者四人中、三人が、女子なのだから。まぁ、実際はある一名のせいだが。

勇者の残り三人は、亜紀、小鳥、綺音。この三人だ。


最近はこの三人も、一心に対する気持ちの変化があった。一人を除いて。

亜紀は、普通に惚れていた。驚く程に。

小鳥は、惚れるというよりも「お兄ちゃん」という感覚で接している様だ。

綺音は……もうベタベタである。アロンアルファぐらいベッタベタ。気付くと真後ろにいるレベル。


もうお分かりだろう。原因は主に綺音である。


これで、一心に好意を抱いていても前に進めない理由が分かっただろうか。

綺音が、もう、ベッタベタ。一時も離れてくれない。


まぁ、そんなで一人を四人が奪い合うという、ハーレムを作っていた。

一心はそんな事気付いていないが。

やっぱりというか、鈍感だった。


話が逸れ過ぎた。なぜ途中から一心の事とか話さなきゃならないのだろうか。あのハーレムの事を話す理由など、ない。



話を戻す。

勇者達は「流石勇者様だ」と、言われていた。だが、姫などの一部の人は、それによって油断しないかという懸念があった。


だが、勇者は油断などしなかった。たとえ褒められても、そこまで嬉しそうにする事はなかった。特に、一心は。



つい数日前。隣の村に行った時、ある人物が金毛の希少種と戦っているのをみてしまった。金毛の希少種というと、ドラゴンに匹敵するとも言われるモンスターだ。


それを、たった一人で倒してしまった。

自分では無理だ。

けど、彼はできた。


つまり、彼は俺より、強い。そう感じた。


その光景を見てから、自分が強いと感じたことは、一度もない。

それ程の、強さだった。


(いつか会えるといいなぁ……)


これは最早、憧れだろう。

彼こそ、一心の目標であり、憧れであり、通過点だ。


彼は、金毛の希少種の一撃に、耐えたのだ。

彼は、一撃くらいながらも、倒したのだ。


……強い。


そう思うと、自分が強いと感じる事はなかった。どうしても、彼には劣っている、と、感じてしまうのだ。


◇◆◇


召喚されてから、十日。丁度大和が勇者との共闘を決意した頃。

高さ二十メートルはあるかという大きな城門の前には、騎士団五十名と勇者四人が馬に乗っていた。


彼らは、これからあるクエストがあるのだ。


「目標は、グランベヒーモス一体……か」


亜紀が小さく呟く。

そう、これから戦うモンスターは、グランベヒーモスなのだ。

もう勇者は、ベヒーモス相手でも圧倒出来る能力を持っている。それこそ、創造魔法。


召喚されて十日で創造魔法を完璧に使いこなしていた。彼らはこの魔法で、無限に近い武器を作り出し、それで戦うのだ。

だが、例え無限の剣があっても武器の性能はそこまで強い訳ではない。オリジナルの武具の能力ちからを創造する事は出来なかった。


彼らの創造魔法は、模倣コピーするものではないのだ。その為、その武器に付与された能力を創造は出来なかった。

いや、正しくは創造出来ないというより、創造し難いのだが。

創造する事は出来る。だが、それには多くの魔力や、時間が必要となる。特に魔力は多く必要な為、出来ないのだ。


「そいつ……凄い凶暴、なんだよね……」


小鳥は言った。

グランベヒーモスは、他のモンスターを遥かに凌駕する、威圧や凶暴さがある。

ベヒーモスと同じ種ではあるが、通常種の能力とは、桁違いに強い。

その為、騎士団五十名もクエストに同行する。


下手すると、というより恐らく、勇者でもグランベヒーモスとは互角には戦えないだろう。


もっと能力のある者達がいれば、と思った。

特に、大和……という者がいれば……と思った。

これはジャックに聞いた。確か、トロールを一瞬で十六体倒したとか。それもまだ初心者だった頃に、だ。


「えぇ、とても凶暴だそうね……けど、これだけの実力者が揃えば、なんとかなる……と、思いたいですわね……」


綺音は自分の中にある恐怖に負けない為に、そう言った。

確かに騎士団五十名いればなんとかなるとは思ってしまう。なんせ、騎士団五十名は、上位五十名なのだから。

一人一人が大きな戦力となるのだ。

特に、上位十人の強さは、他とは別格だとも言われている。


「ま、油断はするなよ。まだ、相手がどれ程の力を持っているのか不明なんだからな。最初から全力で戦おうぜ」

「「「了解」」」


最後にリーダー、一心が絶対に忘れてはいけない事を言った。

『油断はしないこと』

これだけは、絶対に忘れてはいけない。もし、油断したのなら、真っ先に殺される可能性があるのだから。

そこで、一心は考えた。初めから全力で戦い、なるべく素早く殺す、と。

つまり、短期決戦に持ち込みたいと、考えた。

それなら、勝てると考えて。


「では、最後に確認する!」


一心は、全員に呼びかけた。


「我々の目的地は、青龍領だ!

青龍領、セキエイの街にて、青龍領の騎士団五十名と合流! キリの街にいると言うグランベヒーモスを討伐する! では……出発ッ!」

「「「「「「ォォォォォォォォォォォォオオオオオオッッッ!!!!」」」」」」


大きな雄叫びと共に、目の前の城門が開き始める。


姫二人は心配そうな顔で見ていた。姫達は、国王や、王妃達と共に、城の最上階から俯瞰していた。

雄叫びは城の最上階まで響いた。最上階と言うと、城門よりもさらに高い位置だ。軽く百メートルは越すだろう。だが、そこに居てもうるさいと感じてしまうほどの音量であった。それ程のクエストなのだと嫌でも分かってしまう。

だが、勇者なら大丈夫だと、どこかで感じていた。

それ程の実力を、勇者はもっているのだ。


城門が大きく開かれるのに、さほど時間はかからない。すぐに馬が数匹並んでも通れる広さになった。


「行くぞぉぉぉぉぉッ!!」

「「「「「「「ォォォォォォォォォォォォォォオオオオオオオオオオオッッッッッ!!!!」」」」」」」


先程よりもさらに大きな雄叫びと共に、城門を駆け抜ける。

城門の先には、街の外まで続く広い一本道がある。その周りには、多くの人がいた。

ほぼ全員が、勇者を見るためだ。


勇者はグランベヒーモスを討伐する為に呼ばれた。逆を言えば、グランベヒーモスを倒すまでは国の言いなりになるということ。

それによって、勇者はまだ街をほとんど見た事はなかった。つまり、街の人も勇者を見た事はなかった。


観客は勇者を見て、「頑張れ」「応援してるぞ」と言った声をかける。ただ、それが聞こえていたかは定かではない。

中には、「いつか俺の店に来てくれ」なんて笑いながら言う者もいた。

信頼されているのだ。

勇者四人は、嬉しくなった。自分を信じてくれている人がこんなにいると。

声援は勇者の力になった。これじゃ死ねないな、と思えた。


街に出てからは、勇者のリーダーである一心と、騎士団のリーダー、アーサーが並んで馬で走っていた。

アーサー。騎士団での序列一位にして、歴代最強とすら言われる者だ。今の勇者でも勝てるか分からない。それ程の実力者だ。


勇者と騎士団。


街の人の声援が一際大きくなった。それは、もう街の外縁部に近いからだ。

そして、そう思ってからすぐに、街の外へ飛び出した。街から一歩出ると、急に静かになった様に感じた。それ程の声の大きさだったのだ。


街から出てすぐに、これからの日程を聞いた。


街から三日かけて、青龍領まで行くとのこと。もしかすると、朱雀領の方まで来ている可能性もある為、なるべく体力は消耗せずに移動する為だ。

もし、徹夜で走った後の戦闘では、高確率で負ける。それ程の相手だからこそ、ゆっくり移動するのだ。

普通なら二日あれば着く距離に三日かける。


戦闘は、早くとも三日後だ。


◇◆◇


一心は、思った。


(グランベヒーモスを倒したら、どうしようかな)


と。少し気になったら、つい、他の勇者にも聞いてしまった。

ちなみに今は馬車の中に勇者はいる。ガタゴトと揺れたり、急に揺れなくなったりしながらゆっくり進んでいる。

席は、馬車の中の右側と左側にあり、そこに四人で座っている。右側には、一心と綺音。左側には、小鳥と亜紀がいた。


一心は、三人に向かって、聞いた。


「なぁ、このクエストが終わったらさ……どうする?」


これに即答したのは、綺音だった。


「デート、でもしませんこと?」


それに負けじと、亜紀も言った。


「じゃあ……だ、だだ……ダブルデート、でもしない?」


小鳥は、と言うと……


「えー、私も連れてってよー!」


三人のを纏めると。

『デートしようぜ!』

だった。

一心は予想外の答えに、赤い顔で「お、おぅ…」としか答えられなかった。だってデートなんて初めてであるし、面と向かってデートしようと言われたのは、初めてだからだ。


(ありゃりゃ、こりゃまた死ねないなぁ……)


一心は、そう思った。

デートの約束、しちゃったもんな。


決戦まで、後、三日……


◇◆◇


その頃大和達は、まだ、グランベヒーモスのいる所を知らない。

実際はサイカのいた屋敷にいるのだが、サイカはその屋敷から外に出た事がない為、屋敷の位置をほぼ覚えていない。

つまり、どこに行けばグランベヒーモスに会えるのかが情報不足なのだ。


もし、グランベヒーモスの情報があるのならそれは…


アクシス。


そう、アクシスに行くしかないのだ。そこには騎士団がいる。なら情報だってあるはずだと考えた。

そして、すぐにアクシスに向けて、移動を開始した。


だが、その頃にはもう、勇者達は青龍領に向かって移動を始めていた。


グランベヒーモスは青龍領にとどまっている。つまり、戦闘は三日後。

大和達がアクシスに戻るまでに、二日かかる。


それから追いかけたのなら、時間が足りない。

全くと言っていい程、足りないのだ。

勇者、騎士団の動き……青龍、キリの街へ三日かけて移動。


大和たちの動き(予定)……アクシス(大和たちが連れてこられた街)に二日かけて移動→グランベヒーモスの情報を得る→勇者を追いかける。

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