戦闘不可避の未来
… …… …
大和は目覚めた。(なぜかヴィシュヌが右腕に絡まった状態で)なんだかデジャヴを感じる。そっとヴィシュヌから腕を引き抜く。そして、体を起こす。
ベッドの隣には白百合がうたた寝していた。椅子に座りながらベッドに上半身うつ伏せで寝ている。
体が動きにくい。多分筋肉痛だろう。いや、猪のせいだろうか。勢い良くぶっ飛ばされたからその所為もある、だろう。
お陰で腕が動かず白百合を起こせない。白百合の所まで腕を伸ばせないのだ。声は枯れているからあまり出ない。水が欲しくなる。
目覚めてからなんだかイライラするな。ちくしょう、体が動きにくいッ! あぁもうッ!
なんて思っていたのだが、たった一言でイライラが治るとは、正直びっくりした。
「あ、大和……おはよう」
白百合のおはようコール。
一瞬、天使かと思った。
なんて冗談は口には出すわけもない。
その代わり、「おはよう」と返した。
けどその後の白百合の笑顔にもう、ドキッとした。
はぁ……さっきまでのイライラは何だったの? と思える程に収まっていた。
それぐらいの、笑顔だった。
けどすぐ白百合の笑顔が無くなった。
……真剣な話だろうか? プロポーズかな……と、そこまで考えてすぐに思考を中断した。それは有り得ないと思ったからだ。
一瞬でも期待した大和は白百合が話し始めた瞬間に、ちょっとがっかりしていた。
◇◆◇
以前なら、がっかりなどするはずなかった大和がだ。大和は異世界に来て、皆変わったと思っている。実際はあの影の襲撃の際に初めて見た者達ばかりだが。まぁ、初見での印象と比べると、ではあるが。
だが彼は、彼自身は、気付かないでいた。
自分も、同じなのだという事に。
ーー間違いと言うものは、いつ、どんな時でも他人からの言葉で気付かされるものだ。だが、自分で自分の非を見つけられる者もいるにはいるだろう。だが、自分では見つけられない非が、必ず何処かに埋まっている。
人は、例え自分を客観的に見れたとしても、必ず心の何処かでは「自分が一番」なのだと、思っている生き物だ。それによる恩恵は確かにあるが、当然 損害もある。
……「人」という字は「人同士が支え合っている」と言うが、それはつまり「人同士が非を見つけあう事で、人として成り立つ」という事ではないだろうか。
……つまり、「人は一人では生きていけない」という事だ。それは同時に、「大和は今まで成長出来ていなかった」という事でもある。なんせ、語り合える友を作れなかったのだから。
きっと、今までの大和なら「プロポーズされる」だなんて考えるはずは無い。多分、こんな事考えるだろう。
『は?俺なんか悪い事したっけ? ま、いいや』
と。
変わっている。時間が経つにつれて、変わっていく。
今の大和には、もう、友情があった。
もう、きっと、仲間を見捨てる事など出来ない。
以前の自分では無くなっているから。
それは、とても、良い事。
ーーだが、必ずしも良い事とは限らない。時には、それが障害となる事も、あるのだろう。
きっと。
必ず。
◇◆◇
がっかりした大和は、次にはびっくりしていた。
白百合はこんな事言う。
「ねぇ……大和は、迷惑だったの?」
「………………えっ?」
何を、言っているのだろう、と。思った。
「私たちが、一緒にいる事が、迷惑だったの?」
白百合は続ける。
「村の人が喋っているのが聞こえたの……『あいつ一人だけ普通だな』とか……。大和は……大和は、どう思っているの? 私たちは、邪魔? 私たちの所為で、嫌な気持ちになってしまうの?」
声が出ない。
あの時の会話を、聞いてしまったのか。無性に、誰かを殴りたくなってしまう。
けど、それよりも前に。
言葉を、白百合に返せない。
「そんな事ないよ」って、返してやりたい。
「そんな訳あるか」って、言ってやりたい。
けど、声が出ない。
なんで。なんで。
なんで、こんなに苦しい。
なんで、なんで……なんで、こんなに胸が苦しい。
白百合は、続ける。
「もし私たちのせいで辛い思いをしているのなら、言って欲しい。私たちと一緒に居たくないのなら、そう言って欲しい。
私たちは大和の事が……好きよ。だからこそ、辛いのなら、大和の好きなようにしてもいいの。大和は…」
「ッ……止めろ……」
「……っ」
白百合が、固まる。
「もう……言わなくていい……言わなくて、いい、から……」
やっと声が出た。
やっと、伝えられる。
誤解してるのなら、解いてあげなきゃ。
「白百合……もう二度と、俺の心配はするな……」
「えっ、いや、そんな事……」
「俺は……お前ら全員好きだよ。お前らが俺を思う気持ちより、ずっと強い。それぐらい、好きだよ。
このチームで異世界に来て、本当に良かった。
このチームで異世界に来れたことで、毎日楽しいよ。
けどさ、俺はこのチームが好きだからこそ、心配はされたくない!」
俺は続ける。
「俺は、高校では、ぼっちだったけどさ、本当の友達ってどんなんだろうななんて考えてた事があってさ、その時出した答えは、『唯一無二であり、まわりに影響されない人』って思ったんだ。
そして、俺はこのチームの皆と、その、本当の友達になりたい。けど、これだけは守って欲しい。
俺の事は心配しないでほしい。もっと、俺の事を信じてほしい。俺はお前ら全員の事嫌だなんて絶対に言わねぇよ! その事を、絶対に忘れないでほしい!」
全部、言ってやった。
ぐちゃぐちゃかもしれないけど、全部言ってやった。
もう、自分でも何言ってるのかよく分かんないや。
けどもう、どうでもいい。
……俺の伝えたい事はたったこれだけ。
「俺はこのチームの事を嫌だとか思った事はない。そして今後も絶対にない。約束する。だから、さ。泣くなって…………白百合」
白百合は、泣いていた。
ありがとうって言いながら、泣いていた。
信じてくれていて、ありがとうって言いながら、泣いていた。
「さっきは勝手に一人で消えて悪かったね。
なんかさ、白百合たちがスゲェ楽しそうだったからさ、どうしてもその気持ちのまま一日が終われればいいなと思ってさ。けど、ごめん……本当に、ごめん……俺は白百合たちを守ったつもりで、傷付けていたんだな。ごめん。本当に、ごめん! あー、もうどうしよう、どうしたら……」
「もぅ、別にいいよ。そんな事、どうでもいい!」
そう言った白百合は、唐突に大和の顔に自分の顔を近ずけ、
大和の頰に、唇を当てた。
(…………………………っ、えっ?)
「これで、許すっ! ……皆には内緒だよ?」
くすり、と、意地悪そうに微笑みながら、白百合はそう言った。
(あ、あはは……あはははは……)
可愛いなと、思った。
まただ。
またこの感覚。
変な感覚。始めての感覚。奇妙な感覚、
だけど、凄く居心地がいい。
これは何だろうと考えていたら、ヴィシュヌが起きた。目を擦りながら、大和と白百合を交互に見る。
それと同時に、チームの皆が扉を勢いよく開けて部屋に入ってきた。
そして、
「「「「「大和最高っ!」」」」」
「うおぉっ?!」
「きゃっ」
勢いよく押し倒された。皆に。
一瞬柔らかいものが当たった気がするけど、気のせい……だよね。
なんて思ってたら、白百合が上に覆いかぶさってきた。気のせいじゃなかったらしい。顔面が心地よい。
……嘘、だ。冗談だ。お願いだから外に出させてくれ。暑い。顔が、暑い。
てか、あいつら盗み聞きしてたのかよ、とか思ってたけど、顔面に当たるなにかのせいで言葉には出来なかった。
はぁぁぁぁ……
幸せだな。
◇◆◇
いろいろ満喫した後、皆に謝った。
勝手な行動ごめん、と。
そしたら皆、笑って許した。
あかん! 優しすぎるやろ! そう叫びそうになってしまった。
本当にいい人達と出会えたなと思った。
あの日……影に襲われた日から、もう二週間と少し、たった。
この二週間は、本当に楽しかった。
始めての事ばっかりだった。
始めて、誰かと外を歩いた。
始めて、誰かと一緒に外食した。
始めて、本当の友達が出来た。
楽しくてしょうがない。
ずっと、終わらないでほしい。
そう、心から思った。
次の日、大和達はまた旅を再開した。
どうやら大和に恩返ししたいと言ってきた八人のチームと一緒に行動している。
また、始めてだ。
始めて、十人以上の人と仲良くなった。
はぁ、楽しいな。
そう思いながら、歩いた。
◇◆◇
大和が、楽しいなと、思いながら歩いてるいる頃。その街から出て、半日程の距離を歩いていた頃。
その街は、無くなっていた。
辺り一面炎。三六〇度、何処を見渡しても炎ばかり。
その中でも、さらに異常なものがあった。
村の中心辺りに、半径百メートル程の巨大な穴が開いているのだ。
そしてその中心に、それはいた。
その獣には、まだ、名が無い。
つまり、新種。
性格は、凶暴。ベヒーモスをより凶暴にした様な感じだ。もし、ベヒーモスを恐ろしいと思う人が見たのなら、間違いなく、ショック死するだろう。
その凶暴さは、耐性がある者にしか耐えられ無い様な恐ろしさがある。
その眼光は、見た者を動けなくする。
その触手は、回避不可能と言ってもいい程の高速で動く。
その鎧は、ベヒーモスの鎧の強度を軽く上回る。その硬度は、ダイヤモンドにも匹敵する。
その爪は、伸縮自在であり、避けられたと油断した者を容赦なく真っ二つにするだろう。
そのモンスターは、今まで存在しなかったもの。
名ずけるとしたら、ベヒーモス上位種、
その強さ、龍に匹敵する。
金毛の希少種を遥かに上回る能力。
即ちーーーー化け物、である。
半径百メートルのぽっかりと空いた穴の中心に、それは、寝ていた。
先程、それは無造作に自分の尻尾を地面に叩きつけただけなのだ。
それだけで、たったそれだけで、半径百メートルが消し飛んだ。音もなく、静かに、消えた。
音もなく、数千の命が消えた。
それ程の、強さ。
圧倒的であり、無敵を思わせる姿。
それは、炎を操る。
先程、尻尾を地面に叩きつけた。
その瞬間、炎によって半径百メートルが抉られたのだ。
だからこそ、静かに、消えた。
誰も、その出来事には、気付かない。気付けない。
きっと、今の大和には、勝てない。
断言出来る。絶対に勝てない。
そもそも、それの懐に入る事すら、不可能である。
それは奇跡的に、と言うか大和とは違う方向に歩き出す。
人間がいた。きっと、森かどこかに行っていたのだろう。籠を持った少女だった。
怯えていた。目の前の、化け物に。
目尻から涙を流し、尻餅をつき、足を小刻みに震わせ、挙げ句の果てには失禁までしながら。
怯えながらそれを眺める。
グランベヒーモスはその少女に近づき、
すぐに横を通り過ぎた。
少女は安心した。殺されなかった。よかった、と。
だが、足に違和感がある。
下を見ると、足が股関節の少し下辺りから無かった。
え?
そう思った時には、
少女は、粉々に砕け散った。これは比喩などではなく、現実。
まるで、体の中の爆弾が爆発したように、少女は砕け散った。
まわりが真っ赤に染まる。
黒を混ぜたような暗い赤色の液体によって、真っ赤に染まる。
見えない。
見えないのだ。
触手の動きをもはや、見る事が出来ないのだ。
大和は、知らない。
いつか必ずこのグランベヒーモスと戦わなければいけない事を。
そんな事知るはずもなく、大和は笑いながら、旅を続けている。
今も、続けている。
さて、グランベヒーモスとの戦闘は、明日か、はたまた数年後か。
いずれにせよ、いつかは戦う相手だ。
『死ぬなよ』
空で、静かにゼウスは呟く。
そして、椅子から立ち上がった。
『……大和』




