奴隷
「なぁ、ヴィシュヌ」
大和はヴィシュヌと話していた。
大和には、ヴィシュヌに聞きたい事があった。覚えているだろうか。
「俺、前にヴィシュヌにさ、『いつかもっと気軽に話をしたいな。ヴィシュヌ』って言った事あったじゃん?」
「あ、はい……ありましたね」
「あの時、ヴィシュヌがなんか言おうとした気がするんだけどさ、なんて言おうとしたの?」
ヴィシュヌは大和から顔を背け、
「ひ、秘密……です……」
と、一言だけ言った。真っ赤な顔で、言った。
実はあの時、ヴィシュヌはこう思っていた。
(ぁ…………かっこいい……)
こんな事、言えなかった。人見知りのヴィシュヌには流石に辛かった。
ヴィシュヌはうずくまってしまった。あの時の言葉を思い出して恥ずかしくなったのだ。
なんせ、一目惚れですから。
急にうずくまったヴィシュヌに大和がびっくりして動けなくなっていた時、ヴィシュヌはとんでもないこと言った。
「大和さんの……えっち……」
「待て、待て待て、落ち着こうヴィシュヌ。どこが? 俺のどこにそんな要素があったの? あぁ、まって白百合そんな目で見ないで」
「いつも……夜……抱いているじゃないですか……(ブラフマー達を抱き枕の様に)」
自然と、無自覚に、爆弾を投下していった。原爆顔負けの、爆弾を。
「ちょ?! 何言ってるのこの子?! はっ、ちょ、待て待て待て待て! 俺をそんな目で見るな蓮司!」
「大和……そうか……」
「やめろやめろやめろやめろ」
「お前……」
「やめてやめてやめて、やめて下さい、痛い、視線が痛い!」
(助けて神様ぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!)
大和は叫んだ。いつもは[自主規制]神とか呼んでいた神に結構真剣に助けを求めていた。
一応言っておくが、大和が抱いているのではなく、ブラフマーたちの方から勝手に抱きついているのだ。
大和は何も悪くない。はず。
ヴィシュヌの爆弾発言は十四人を驚かせた。
八人の同行者も含めて。
勿論、誤解はすぐに解けた。
怨み妬みらしきものはあったが。誰だとは言わない。
◇◆◇
「って、まだ、自己紹介したなかった!!」
八人の内の一人が言った。恐らくリーダーだ。
「「「「「「「あ……」」」」」」」
他の七人もがっつり忘れていたようだ。あぁ、そんなものもあったな、と言うような表情だ。
「じゃ、自己紹介しようかね。今更だが。 私はアルテミスと言う。このチームのリーダーをしている。そしてこのチームの名は、私の名を取って『狩猟パーティ・アルテミス』と言う。これからよろしく頼む。まだ現界してから日が浅くてな……すまないが余り力になれない。許してくれ」
誰かと思っていたら、神だった。
金髪を肩の辺りで切り揃えている。とても綺麗な金髪だ。白百合の銀髪と並べても違和感がなさそうだ。
顔は整っているが、目がやけに鋭いように思えるのは気のせいではないだろう。流石、狩猟の神といった感じだ。キリッとしているというか。
口は見事なぐらい綺麗な一文字だ。そのせいか、あまり表情豊かではない。
服は、動きやすさ重視で、ほとんど装飾が無い。鎧すらも着けていない。
背中には、大きな弓を背負っている。
なんと言うか、かっこいい。男よりも男らしい、というか、そんな感じだ。
アルテミスと言うと、ゼウスとレトとの間に生まれた双子の内の一人だ。もう一人はアポロンである。
アルテミスは、可憐で誇り高い月と狩猟の女神である。アルテミスと言うと弓の名手として知られている。
それと、女神アテナを尊敬して、純潔を誓った事でも有名である。
男性に対して容赦がないと言うことでも有名だ。
アルテミスは以前、水浴びを覗き見た狩人を鹿に変えて、猟犬に食い殺させた。らしい。
おぉ、怖い怖い。
二人目の自己紹介が始まる。
なんだか終わりが見えないな。
「俺はスサノオ。アルテミスに協力している。武器は刀だ。よろしく」
なんとも奇妙な組み合わせだな。もはや神話の舞台が全く違うよ。と思ったが心の中に止める。
スサノオは、とてもイケメンだ。そして、冷静だ。
髪は、黒髪のポニテで、結構長い。男がポニテとは誰得なのだろうか。
服装はと言うと、見事なくらいの侍だ。侍。
腰には刀が差してある。きっとすごい業物だろうとすぐに分かる存在感だ。
スサノオと言うと、月読と兄弟であり、姉にアマテラスがいる。父にはイザナギ、母にはイザナミだ。
スサノオは暴れ者だと言われているが、クシナダヒメを八岐大蛇から助けたあたりから気品のある神となっている。恋かな? 無性に確認したくなってしまう。
そういえば、スサノオって結構信頼されてなかったらしい。アマテラスに別れを告げるために高天原に向かったら、スサノオが国を乗っ取りに来たと勘違いして、完全武装で迎えられたらしい。
……ッ……
「おいお前。大和とか言ったか? 今何考えていた?」
「ごめんなさい、ごめんなさい、笑ってなどいません」
「そうか、笑ってたのか…」
「?!」
この『アルテミス』には、戦闘できる神が二人いるらしい。スサノオは正直に強そうだと思った。
他の六人は、冒険者らしい。
「私はアリア。後方支援してますの。よろしくですの」
「キサラギです! よろしく! 私も後方支援ですッ!」
「私は、ハルと言う。片手剣使ってる」
「私は……レイ……後方……支援です……よろしく、お願いします……」
「俺はショウ! 両手剣つかってる! よろしくッ!」
「俺は、リンキ。弓、使ってる。よろしく……」
男女比 三対五。男性はスサノオ、ショウ、リンキだ。
挨拶した順番に説明すると、
アリアは、赤髪で、カールしている。鎧は、すこし豪華な鎧。赤と白の鎧だ。いかにもお嬢様って感じがする。
キサラギは、白髪のストレートで、瞳が黒い。髪の先の方は、少し黒かったりする。鎧は、アリアとおそろい。というか、女性は、アルテミスを除いて全員同じ色に統一している。
ハルは、短い茶髪をサイドテールにしている。鎧は、アリアや、キサラギよりも鎧で保護している部分が多い。
レイは、頭のてっぺんの髪は黒くて、下に行くほどだんだん赤くなっているという、不思議な髪だ。その髪を、ハーフアップにしてある。鎧は、少なめで、肩からローブをかけている。
ショウは、灰色の少し長い髪を、ポニテにしている。鎧の面積は、少なめ。鎧の色は、真っ黒で、そこに白い線が引いてある。
リンキの髪は、少し長めで真っ黒。一瞬、女かと見間違えそうになる。鎧は、ショウとほぼ同じ。
こんな感じだ。
あはは。男のポニテって、誰得?
ま、こんな感じで自己紹介が終わった。それから、俺たちの自己紹介もした。一応、と言う事で。名前はもう知っているようだが。
椿は、黒髪で、ポニテ。鎌使い
白百合は、銀髪で、ポニテ。後方支援。
揚羽は、灰色の髪で、ポニテ。双剣使い。
蓮司は、若干茶髪で、ミディアム。メガネあり。両刃の剣を使う。
大和は、黒髪で、ショート。槍を使う。
ブラフマーは、白髪で、ポニテ。大和と契約している。
シヴァは、黒髪でポニテ。大和と契約している。
ヴィシュヌは、青髪で、(いつの間にか)ポニテ。大和と契約している。
てな感じだ。うん。
ポニテ多いな。なんでこんなにもポニテが多いのだろう。
実は大和が寝言で「ポニテが……いいなぁ……」と言っていたのを皆が聞いたのだが、それを大和に伝えようとした者はいなかった。、
「蓮司……君が、泣くまで、殴るのを、やめない」
「なんで棒読みなの大和? だが、その誘い、乗った!」
「……馬鹿じゃないの?」
白百合が溜息を壮大に漏らす。いや、これは溜息と言うよりも溜、溜、溜息、と言ったところか。
「すみません、馬鹿共が……」
「あははっ、いいんだ白百合よ。楽しいのはいいことだろう?」
「あ、アルテミスさん……!!」
旅を再開したのはこれから一時間後でした。
遊び過ぎたと気付いたのも、一時間後だった。
◇◆◇
で、一時間後。
なぜか、女性全員ポニテに。
理由は……不明である。
なんかキャーキャー言ってるなぁと思いながらチラッと見たら、ポニテだった。
訳が分からぬ。
もう、全面的に世界が悪い。こんな世界が悪い。
で、なぜか全員ポニテ状態で旅が再開したのだが、うん。何も無かった。
本当に何も無かった。
なんか今日はただ、歩いただけだった。
いや、あった事があるとすれば、ゴブリンが出てきて、
『ぎゃんぎぇぎぇんぎぃんぎょぎげきゃんぎゃぎぉぉぉ!!』
「(和訳)なんで全員ポニテなんだよぉ!」
とか言っていた事ぐらいだ。この時初めて椿がモンスターの声を聞ける事を知った。
それ以外は、何も無かった。
それからは、すぐ夜になり、テント張り、白百合の魔法で、安全区域を作って、寝た。本当にそれぐらい。
あと、寝る前に椿が秘密をバラした。
あまり、驚かれなかった。この時初めて知ったのは、椿が神獣の位まである事だ。「椿ー、なぜ教えなかった!」って言ったら『あ、忘れてた!』って返ってきた。
忘・れ・る・こ・と・な・ん・で・す・か?
……あ、いや、前言撤回!
超嬉しいニュースあった!
ついに一人でゆっくり寝れた!やった!
久しぶりの熟睡でした。
人数が多くて、二つのテントを用意する事になったからな!
自然と、男女別になった。
いつもは男子二人だったのに、今日は男子が五人になった。ショウと、リンキと、蓮司が意気投合していた。
スサノオは、少し外へ、と言って散歩に行った。
俺は、寝た。
◇◆◇
早朝四時三十五分。
空が薄っすらと明るくなる時間。だが、まだまだ夜の闇は消えない。
今は夏だが、早朝の風は涼しい。少し肌寒く感じる。
だが、その涼しさは、冬場の辛い寒さではなく、もっと心地よいものだった。
蓮司、ショウ、リンキは小学生のような格好で寝ていた。起こすのはいけないように思えた為、そっとしておく事にした。
そんな時間に……白百合に起こされた。
まだ白百合も眠そうに目をゴシゴシ擦っている。
だが、こんな事言った。
「朝の散歩……しよう? 大和……」
朝の散歩……か。……ま、いっか。
「くぁぁぁぁ…………よし、行こっか」
「ありがとっ」
何だろうか。最近白百合といると妙に楽しく感じる。
不思議だな。
朝の散歩。随分心地よい。
ただ、ぶらぶら歩いた。
地球とは違うなと、森を見て思う。今更だが。
だって、キノコが歩いてるんですもん。
キノコに足が生えたやつとか。
赤いキノコとか。
緑だったり、青だったり、妙にでかい黄だったり。
なんか食べたら大きくなれそうだ。
何処かで見た事あるような気がするが、思い出せないのでそのまま放置した。
だが、その時、視界の端に誰かが映った。赤い帽子を被った男性だ。
「逃げようぜ。白百合」
「へっ?!ちょ、」
そう言って、逃げた。理由は大和にも分からない。
けど、逃げた。
白百合をお姫様抱っこ状態で、逃げた。
なぜお姫様抱っこしたのかは、わからん。
わからん。
「ぜぇ、ぜぇ、ぜぇ、」
結構、走った。
結構森の中まで来た。なんか凄い神聖な力を感じる。
息を整えていたら、
「あ、あああああの……お、おお、おろ、おろ、おろろ、して、くださ……い……」
「あ、ごめ」
白百合が林檎のような顔で口パクパクさせていた。
「……どうした、白百合、顔赤いぞ」
「聞かないでよ……」
ぷいっと、そっぽを向いてしまったので、白百合が顔を背けた方に移動し、白百合の顔の目の前に立つ。そして、頬を軽くつねった。餅のように、柔らかく、すべすべだ。
「ふぁ、ん、んん……」
「笑ってた方が、白百合らしいぞ?」
「んんん………んっ」
すると白百合は、恥ずかしそうに笑った。
やっぱり、笑ってた方が、白百合らしいと思った。
……笑ってた方が、可愛い、と、思った。
今度は、こっちの顔が暑くなってきた。
それから五分ぐらい休んでから、また散歩を再開した。先程までは馬車とかが通る道を歩いていたのだが、今は、森の中。先程とは違う感覚。先程より、心地よい。
「綺麗な所だねぇ…」
「あぁ、確かにな。凄く綺麗だ」
今歩いている所には、水晶の様な、透明な石が所々にあった。その石一つ一つが光を発していた。それによって、まだ薄暗い森の中も明るくなっていた。
それからまた、歩いていた。
と、その時、人影が見えた。
アルテミスだった。だが、一人ではなかった。なぜなら、何かが隣にいた様に見えた……から……
「え、す、スサノ、むぐっ……」
白百合が叫びそうになったので、咄嗟に白百合の口を塞いだ。そして、白百合の耳元で囁く。
「静かに、しておこっか」
「……ふ、ふきゅ……」
気付かれたくなかったからな。いや、あれは知らないふりが一番だよな。
何故か。それは、
アルテミスがスサノオの肩に頭を乗せていたから。
どうやらスサノオは瞑想中らしい。そのスサノオの肩にちょこんと、頭を乗せるアルテミス。
((あ、邪魔出来ませんねぇ……))
そう思い、ゆっくりと、それでもって素早くそこを通り過ぎた。
◇◆◇
朝の散歩は、色々な事がある。いやこれ本当。
歩くキノコに。
赤い帽子の男性に。
アルテミスとスサノオに。
そして今、ベヒーモスに会った。
まぁ、椿の知り合いだったそうなので、襲われてはいない。
と言うか、背中に乗せて貰った。なんか久しぶりに何かに乗った。
そのままテントの所まで乗せてって貰った。ベヒーモスが優しすぎて泣ける。
テントに着いたら、蓮司が凄いびっくりしていた。と言うか、もうそんな時間か。
いつの間にか、空は明るくなっていた。
「蓮司がゴミの様だ」
「大和ッ……バルスッ!」
「ぎゃぁぁぁ!」
「うるさい、大和」
ドスッ
白百合め……全力で目潰ししてきやがった。危うく失明しちゃう所だった。
怖いよ。白百合さん。
「あぁー?! 白百合さん! 不可侵条約は?!」
「え? 椿? ん? …あ……え、えーと、ナンノコトカナー?」
「ずるい! 大和ーッ!」
と言って、椿が大和に飛びついてきた。ベヒーモスの高さって、かるく数メートルあるのに、それを軽々とジャンプしてくるとか、凄いな、椿は。
まぁ、椿の所為でベヒーモスの背中から落ちそうになったけどね。
まぁ、こんなで朝の散歩は終わりを告げた。
「た、助……けて……」
と思ったら、ベヒーモスの背中、それも大和達が乗っていた所より後ろから、声がした。
そこには、
地球で言うワンピースのような服はボロボロ。首には首輪。それ以外何も身につけていない、身体中にアザのある、。
猫耳の、獣人の少女が、いた。
黒い髪をボサボサにしている。顔は……まさに未来の美少女というべき顔……なのだが、すこし、痩せ細っているように見える。いや、明らかに痩せ細っている。
だが、それでも綺麗な瞳。
「た、助け……てっ……あっ………」
ドサッ……と、ベヒーモスの背中から、落ちてしまいそうになる。焦って大和が支える。
足の裏が、血だらけだった。
何かから逃げてきたという事は、一目瞭然だった。
それと、もう一つ、確実な事がある。
少女は、奴隷だという事。




