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金毛の希少種

ベヒーモス娘が仲間になりました。


ここでベヒーモス娘……ではなく、椿の容姿を説明しようか。


髪は黒髪で腰までの長さがある。今は髪を(ブラフマー達の真似をして)ポニテにしている。

髪はサラッサラで全くボサボサしていない。ベヒーモスと言うと、言っては悪いがあまり髪を整えたりはしない様に思っていた。これは絶対、全女性の憧れのレベルな気がする。いや、そうだ、絶対にそうだ。大和はそう確信する。

瞳はオッドアイ。右が黄金で、左が青。とても綺麗だ。見ていると、本当に引き込まれそうになる。

顔はとても整っている。白百合に勝るとも劣らない造形だ。妹ではあるのだが、ドキッとしてしまう。

今の服装は革鎧だ。村に着いたら服は買う予定である。何故なら白百合と揚羽が、『これはお洒落しなきゃ駄目だよね! するっきゃない!』だとか。

武器は、大鎌。感想は『強そうだし頼りになりそうだけどやっぱり怖い』


けど、一番怖いのは、大鎌持っているのに異常なくらいに椿は可愛いのだ。大鎌の恐ろしさを押さえ込むほどの可愛さ、いや、美しさだ。

その要因として考えられるものの中で最も大きなもの、それは……頭の耳。即ち、ケモミミである。形状からして、猫耳だろう。

そう言えば、というかベヒーモスはネコ科である。ライオン大きくした感じだ。

椿を人型の状態の時に猫耳を付けた理由は、『可愛いじゃん?』だそうだ。確かにそうだねと即答したくなるが、結局言えていない。


「ゴブリン発見!倒しちゃうよーッ!」


椿は敵を見つけると、こう叫んで走っていく。それはまるで、ネズミを見つけた猫の様。

それが可愛くてしょうがない。


とまぁ、こんな感じだ。一言で纏めるなら、

『サラサラ黒髪ポニテのオッドアイ猫耳美少女だけど大鎌もってて怖いのだけれど、矢張り可愛い』

と言う感じだろう。


◇◆◇


実は大和がまだ知らない事がある。

魔法を使えるのは人間のみ。

なのに、なぜ、椿が、ベヒーモスが、魔法を使えたのか。


それは、椿も神によって転生させられた存在だからだ。


大和が転生した次の日、椿は違和感を感じていた。

家に確かに兄は帰ってきた。だが、どこか変だと感じていた。まるで、人形のような、そんな感覚。


そしてそれを考えていると、赤の信号に気付かなかった。


ばきん。その音が最後に聞こえた。綺麗な入道雲が最後に見えた。季節外れな入道雲。が。


気付くと、辺りが真っ白な所に椿はいた。

そこでいろいろ質問された後、転生した。

実はここでベヒーモスになったのだが、神によって、神獣の位まで上げてもらった。


神獣とは、数千年に一度だけ産まれる、神の加護を受けたモンスターの事だ。見た目は変わってなくとも中身は他とは全く違う。人間並の知識がある。それと、人間の姿になれる。この二つが神獣に与えられた能力だ。

だが、それだけでは魔法は使えない。


では何故?


そんなものはとても簡単だ。ゼウスがそう仕組んだ。それだけ。たったの、それだけだ。


だから魔法を使えたのだ。

それが、椿だ。


正直に言うと、あの夜に大和と椿ベヒーモスが出会ったのは、まさに奇跡だ。もしくは、偶然だろう。

ベヒーモスだけでも人間世界に数万といる。そのなかで、たまたま出会えたのだ。


いや、もしかするとこれは奇跡や偶然ではなく、


必然だったのかもしれない。そういう運命だったのかもしれない。


だが、それを知るものは、いない。何処にも。


◇◆◇


今は村に向かっている最中だ。


実は、大和が遂に魔法と武術の両立出来た。


……まぁ、炎魔法しか出来ないが。

……練習は二百八十五回したが。


それぐらい難易度の高い技なのだ。


だが大和がその練習している内に椿が大鎌の扱いをマスターしていた。

もはやゴブリンが椿を中心とした半径三メートルにまったく入れてない。圧倒的だった。


そんなこんながあって、今、村に着きました。


時刻は、十二時四十三分。


◇◆◇


早速、武器屋……じゃなかった。先に服屋に行くと言っていた。が、


「この街に服屋はねぇぞ?」

「えっ?」

「武器屋と一緒に服は売ってるからな」


……と言う事で結局、武器屋に。


武器屋に服が売っていました。あら。どうやらあまり大きな町ではない様で、服屋兼武器屋のこの店にしか服は売っていない様だ。

で、見ていると……一つ、目に留まった。


「こ、これは……ッ!!」

「「「「!!」」」」


女子四人の動きが止まる。白百合、揚羽、ブラフマー、シヴァである。


それは、鎧とおしゃれが合わさったものだった。

ちゃんと防御できて、さらにおしゃれになる。

あかん。大和はそう零してしまった。これは駄目だ。混ぜたら危険なやつだ。駄目だ。やばいやばい。と思っていたら、椿は……

レジに持っていった。


「これ買いまーす!」

「お?嬢ちゃん可愛いね!サービスサービスゥ!」

「「「「あ」」」」


女子が固まった。石像のごとく、一瞬たりとも動かない。

あかん。どうやら三十万はするはずの装備をまさかの十五万で購入。店主のサービスが予想外に凄かった。……それは同時に椿の美しさも表しているのだが。

それと店主は気がきく様で、帽子もくれた。椿の猫耳は目立ち過ぎるからだろう。

当然すぐ着た。


結果は……凄かった。それはもう本当に、凄かった。蓮司が鼻血出してぶっ倒れるぐらいに。

武器屋兼服屋からでると、村の人の目(男がほとんど)を惹きまくりだった。


それからは、椿が魔法付与能力高めの大鎌を買った。

その後は、村を少し歩いた。

村にはちらほらと冒険者の姿も見えた。


◇◆◇


このチームの人達は、凄かった。

椿はつい先程説明した為、言うまでもない。白百合や揚羽は、学校で美少女ランキングナンバーワン&ツーだった実績を持つ女子だ。ブラフマーとシヴァは、まだ小学生くらいだが、十分可愛い。蓮司は、まぁ眼鏡イケメンだ。


だが。


それに比べて、大和はどうだろう?

学校でも特に誰の目にも止まらなかった大和だ。顔は平凡。イケメンではない。声も平凡。

誰の目を集めない。それはまるで金魚の糞や、人の影を思わせた。

周りからは、大和の悪口が聞こえた。大和はつい最近覚えたばかりの聴覚強化を使用し、その悪口を自分から聞く。


『あいつだけ普通だな』

『一人だけ馴染めてねぇな』

『なんであんな奴が』

『邪魔だなぁ』

『あんな奴が仲間なら俺も仲間になれんじゃね?』

『それあり得る』

『一人めっちゃ浮いてるー』

『うわー寂しそー』

『俺が話しかけて励ましてやろうかなー!』

『それ傷付くだけだろ』

『何処からどう見ても金魚の糞。絶対弱いな』

『あいつ、弱そー』

『真っ先に死ぬだろうね』

『ぷぷ……ぶふっ』

『お、おい失礼だろ、聞こえちゃうだろーぶふっ』

『俺、あのチーム入ろっかなー。あの人と入れ違いにして!』

『それ名案』


好き放題に言ってくれるよ。全く。

大和にだけははっきり聞こえていた。別に苦しくはなかった。寧ろ、自分を見ていてくれていると言うことに嬉しさすら感じている。


と、そのとき大和は何かを感じた。地鳴りのような、音が。ただ、大和にしか聞こえていなかったが。聴覚強化の賜物だろう。

すぐ分かった。近くにトロールのような強力な一撃を持つものがいると。

いや、トロールよりも更に凶暴だろう。


これから昼食だが、危険なモンスターがいるならそっちの方が大事だ。

そう考え、音を出さずに、一人、駆け出した。

出来れば、一人で終わらせたかった。白百合達に迷惑をかけたくない。


嫌な予感がしていた。

相手はベヒーモス並の様な気がしてしょうがない。

トロールならいいのだが……と、思いながら、駆ける。


『うわ、逃げた』

『聞こえたみたい』

『よえー』

『あれで冒険者?』

『弱虫じゃん』


そんな声も聞こえたが完全に無視した。


◇◆◇


白百合が言った。


「これから昼食だけど、大和は何食べたい? ……って、あれ……大和?」


そう言った時には、大和は消えていた。

音もせずに、まるで雲が音を立てずに消えていくように。


全員が、驚いた。なんせ、いなくなった事に気付かなかったのだから。

その時、まわりにいた男達の声が、少しだけ聞こえた。


『なんで一人だけあっちに走ってったんだろうな?』

『さぁ? 居心地悪かったんじゃねぇの』

『かもな。一人だけ普通とか俺じゃ耐えらんねぇわ』


白百合は、真っ青になった。

今聞こえた言葉の中に、気になったものがあったからだ。


『居心地悪かったんじゃねぇの?』

『耐えらんねぇわ』


白百合は思った。


まさか大和はそう言う風に思っていたのでは?

まさかずっとそう感じていたのでは?

だから、急に消えたの?

ここに居たくなくて、消えたの?

私達と居るのは、辛かったの?

私達は、迷惑だったの?

大和は、苦しんでいたの?


嫌な予感が心を埋め尽くす。来てほしくない未来を鮮明に想像してしまう。


その時、村の外で、爆発が起きた。

大きな、爆発が。


「大和……大和ッ!!」


白百合はそう叫び、ただ、走る。

魔力を足に付与させ、地面を一歩ごとに丸く陥没させながら、走る。


それから五秒ほど遅れて他の人達も走り出した。


白百合の目には、涙があった。

心配で、しょうがなかった。

見放されたのではないかと、怖かった。


初めて会った時はあんなに見下していた筈なのに。なんで、こんなにも心配だと思ってしまうのだろう。


ただただ走って、走って、走って、走って、走って、


走った。


「はぁっ、はぁっ、やっ、大和っ……!」


走った。


◇◆◇


丁度大和が駆け出す少し前。


村の入り口には、八人の人の姿があった。

額を汗で光らせながら走っていた。というか、逃げていた。

顔には絶望しかなかった。

一人がこう言う。


「あんな化け物にッ、敵うわけッ、無いっだろうがッ!」


後ろには、普通のものより大きな猪がいた。


ボアと言うモンスターがいるが、それは地球の猪と同じぐらいの大きさだ。

だが、稀に、変化する個体がいる。これを希少種と言う。

猪(ボア)の希少種は、突撃する悪魔 《アサルトデビル・ボア》と呼ばれている。

希少種は通常種とは、比べものにならないくらいに、強い。それも、ゴブリンとベヒーモスの違いぐらいに。

アサルトデビル・ボアは、下手するとベヒーモスと同格、いや、それ以上の戦闘力を持っている。


だが、その上がある。それは、金の毛を持つ希少種だ。

これは、希少種をさらに上回る戦闘力を持つ。

最強種と呼ばれる龍(ドラゴン)と同格だとも言われている。ドラゴンとなると、ベヒーモスなど、瞬殺である。


そして、彼ら八人は、その金毛の希少種に追われていた。


大和は、『トロールのような強力な一撃を持つ』と考えたが、大和をそう思わせたのは、金毛の希少種の走っている音だったのだ。


つまり、金毛の希少種の脚力がトロールの一撃レベル以上なのだ。

しかも大和は近くにそのモンスターがいると思っていたが、実際はそれより遥かに遠かった。遠かったにも関わらずトロールの一撃レベルだと思った。

それは、トロールの一撃より、更に強いという事。


とんだ、化け物だ。


そんなモンスターに追われているのだ。


逃げるのは当然だ。この様なモンスターは騎士団数百人が強力して倒す様なモンスターなのだ。


死に物狂いで逃げていた。

助けを求めて逃げていた。


「みんなっ……走れ! もう直ぐ街に着く! そこまで行けばあいつは来れない筈だ!」


リーダーらしき女性が叫ぶ。



村の入り口が見えた。

その入り口の前に、一人の男が立っていた。


黒髪に黒い瞳、平凡な顔で、片手に槍を持つ、少年だった。


◇◆◇


大和は、今、戦うべきモンスターを直視した。

分かった事は、ただ、『強い』という事。


そして、すぐ思う。


(お前は、練習台だ)


と。


瞬間、大和が消えた。

これが今の大和の全力疾走。

移動しながら、魔法の準備をする。


八人の横を高速で通り過ぎる。八人の内それを認識出来たのは二人だけだった。


金毛の巨大猪の目の前で大和は急停止する。

恐らくあと一秒後には衝突するであろう位置だ。だが、そこで止まったのには当然理由がある。

それは、後一秒以内に敵を倒せると言う確信があったからだ。



大和はしゃがんだ。

そして、極力槍を長く持ち、大きく薙ぐ、薙ぎ払いである。猪の前足に当たった瞬間のインパクトに、全力で力を注ぎ込む。そして、魔法発動。


使用したのは爆発魔法。威力は地球で言う爆竹レベルのものから、ダイナマイトレベルのものまで沢山ある。それ以上の威力の魔法もあるが、大和はまだ使えていない。今回使うのは当然、ダイナマイトレベルだ。

異常なレベルの瞬間的な集中力により、槍の全面ではなく、猪の足に触れている部分だけに魔法を発動させる。爆発で脚を攻撃する。おもったよりも威力は上がらなかったが、脚を一本、猪の右前脚を、斬った。


右脚を斬った様に、左脚も斬る。

すると当然、前脚という支えを無くしたのだから、前に倒れてくる。


倒れる猪がスローモーションで見える。

集中する。


ゆっくりと、大和に向けて猪は顔を近付けてくる。

更に集中する。


極限まで威力を上げた爆発魔法を発動させる。

だが、それは猪に触れた瞬間ではなく、猪を上に吹き飛ばす為の魔法。

爆発の威力を使って、槍を音速を軽く超えて振り上げる。


猪の顎に思いっきり槍を当てた。

バキバキ……と、顎の骨が粉砕するのが槍越しに分かる。だが、それでは槍の勢いは止まらないし、止める気もない。

そのまま、全身全霊をかけて、


上に吹き飛ばす。


死ななかった。ここまで猪が到達出来なかったから。

大和は、一秒後に迫る「死」に耐えた。


だが、まだ猪は死んでいない。


槍を投擲する構えをとる。


力を腕に込める。魔力で腕を強化させる。魔力を出来るだけ圧縮し、さらに込められるだけ魔力を込める。

腕が弾き飛びそうにすらなる。


まだだ。まだ、力を込め続ける。

猪は落ちてはこない。落ちてくる気配もない。相当上空に上がった様だ。


力を最大限込めた。あとは、投擲するだけ。

この時、大和の知らない能力が発動する。

《能力付与》属性と違い、戦いに大きな影響を与える能力を付与させる能力。

大和は、すぐに思い出す。自分の中には、ヴィシュヌがいた事を。すぐにそうだとは思いつかなかったが。


大和が力の正体に気づくと同時に、ヴィシュヌは大和に語りかける。

『あなたなら……きっと……』

その後、何を言ったのかは、分からなかった。


付与させた能力それはーーーー神話の武具。


大和は全力で槍、蜻蛉斬りを投擲する。

そして、付与させた能力を叫んだ。


「《能力付与ーーダブル》心の臓を穿て!〈ゲイ・ボルグ〉〈ブリューナク〉!」


大和は二つの能力を付与させた。

一つは、ゲイ・ボルグ。

一つは、ブリューナク。

二つ共【敵を必ず貫く】や、【敵を必ず殺す】といった能力がある。

ブラフマーストラの【必ず勝利する】に比べたら若干劣るが、それでも強力な一撃である事は変わらない。


蜻蛉斬りは赤と白の軌跡を空中に残しながら、一直線に猪に向かう。

投擲より若干遅れて、大和の周囲に衝撃波が発生する。地面にヒビが入り、あたり一面に暴風を撒き散らす。


二つの能力の同時付与には、ある効果がある。それは、『相乗効果』である。

単純に、二つの能力を「+(足す)」のではなく、「×(掛ける)」のだ。


これによって、威力は更に跳ね上がる。


空中に赤と白の光を残しながら、速度を落とす事なくその槍は猪へ向かう。

猪は、空中では逃げる事などできる訳などない。バタバタと足を動かすが、空を切るばかりだ。


猪の目が、見開かれる。真っ赤な瞳が、大和を睨みつける。


そして、槍が猪に触れた瞬間、


大爆発が起こった。

鼓膜が破れるのではないかと言うほどの、轟音が鳴り響く。大和は咄嗟に耳をふさぐ。

勝った、と思った。確信すらあった。




だが、それでも、猪は死ななかった。

そう、死ななかった。


爆煙の中から、突然現れる一つの影。


それが地面に着地した瞬間、大和にも見えない速度で突進してきた。


あまりの威力に為す術なく、吹き飛ばされた。

村の入り口には高硬度の石で作られた壁があったのだが、それをまるで砂の城を壊すかのように、簡単に貫通して、吹き飛ばされた。街の空を舞う。


(?! 息が、出来…ないッ?!)


壁に衝突した事で、息が出来なくなっていた。


「ぐッ……ゴハッ……ゲホッ、ゲホッ……」


油断していた。

呼吸の事で一杯だった為に、猪が突進してきた事に気付けなかった。


また、吹き飛ばされた。

しかも今度は、先程よりも威力が高い。

それを、無防備な状態の大和がくらってしまった。


軽く、三百メートルはぶっ飛ばされただろうか。

街中の人は猪を指差して、「なんだあれは」「全く気づかなかった」などとほざく。そして、逃げ惑う。


猪はまだ突進して来ている。


危うく死にかけた。いや、

ここで終わりか?


そう感じたとき、一人の少女が大和の前に現れる。


空の様に青い髪の毛で、髪の一本一本が光っているようだった。太陽の光を反射して光っている。

その少女が、大和の方を向く。

その瞳は、まさしく宝石だった。

顔はこれはまたとても綺麗に整っている。

そして、身長は百四十センチ程。


あぁ、そうか。と。一瞬で分かった。


君が、ヴィシュヌか。


「初めまして。私は……ヴィシュヌです」


そう、言ったと思ったら、消えた。

そして、ある能力が発動する。その感覚は、ブラフマーストラや、トリシューラを発動させた時の感覚に近い。


発動した能力は、【アヴァターラ】。十の能力を大和自身に付与出来る能力。


勝てる。そう、確信した。


「【アヴァターラ Ⅱ】クールヤ発動。」


そう言って、盾を作る。

それは、堅牢な盾。真っ黒な盾。大きさは大和の身長よりも若干小さい程だ。

それを、突進する猪に向けて構える。


その盾は、猪の突進をいとも簡単に止める。


「【アヴァターラ Ⅲ】ヴァハーラ発動」


そう言った瞬間、身体能力が異常な程上がる。体がとても軽い。

そして、初めに猪に突進した時の数倍の速度で動く。


猪の側面にまで動き、脇腹に槍の振り上げをくらわせる。

そしたら、枕でも持ち上げるように、簡単に空高くにまで打ち上げた。

まだ、全力じゃないのに。


直後、猪に着いて行くように大和も空中に向けて跳躍する。


そして、猪の元にすぐに近づき、全力で突きまくった。

疾風突きを音速を超える速度で繰り返した。


突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く、突く。


気付いたら、猪は穴だらけになっていた。

体のそこら中に穴があり、そこから青空が見える。


倒した。

金毛の希少種を倒した。



街から、歓声が上がった。


◇◆◇


大和が地面に落ちてくるのとほぼ同時に猪も落ちてきた。ぐしゃりと不快な音を立てて地面に当たる。大和の頬に一滴の血が付く。

流石は冒険者の多い街。驚く人が少ないの。

穴を開けまくった結果、原型をとどめていなかった。

だから、ほとんど地面は揺れなかった。少しは揺れたが。

だが、大和はその揺れで尻餅をついた。

それ程、疲れたのだ。


そこに、先程の少女が現れる。空中から突然。


「大和さん。これからよろしくお願いします」


そう言ったら、ヴィシュヌは大和の方に倒れてきた。

何事かと思ったら、寝ていた。

ヴィシュヌは大和より疲れていたのだと分かった。


そこに、後ろから、白百合の声がかかる。

振り向くと、びっくりした。なんせ、凄い速度で突っ込んでくるのだ。

すぐに察した。


(あ、俺、今避けらんねぇわ。足が動かね)


そうして、白百合の全力タックルをくらって、気絶した。


「もぅ、大和ぉ……え?大和ッ?!やまとぉッ?

!」


白百合は、一人でオロオロしていた。


それから約、一分後、蓮司達が来て、白百合は落ち着いた。

すぐに宿をとって、寝かせてくれたらしい。


ヴィシュヌもいっしょにだ。(同じ布団で)


大和の目が覚めたのは、次の日の朝だった。

だが、それまで白百合はずっと大和の近くにいた。

白百合は、大和に聞きたいことが、あったから。


大和の事が、心配だったから。

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