第8話:欠陥魔術士のクソ親父
早朝。
空が霞を覚える頃。
服を着て、布袋に荷物をまとめて部屋を出る。
今日は卒業試験の日。
ダークベアーの装備を受け取るために、ガンダイの店へと行かなければならない。
準備を終えて部屋を出て玄関に向かう。
「ほほう。今日はやけに早いじゃないか」
廊下を歩いていると声をかけられた。
振り返って見てみると、そこにいたのはクソ親父。
無視をしてもいいが、今日でこいつに会うのも最後だ。
俺は試験に合格してもしなくても。
つまり、ローウェンに勝っても負けても、この町を出るつもりだからだ。
「これはこれは。どちらかが死ぬかもしれないという兄弟喧嘩を、止めるどころか見世物にしようとしているクソ親父様じゃありませんか」
俺がそう言うと、クソ親父は一瞬表情をしかめたものの、すぐに穏やかな表情を作り、俺の肩に手を置きながら「まぁそう怒るな」と声をかけてきた。
なんだ?
いつもなら罵声を浴びせてくるのに……
どういう風の吹き回しだ?
「今更なんだよ。気持ち悪い」
「これでお前がローウェンに勝てば、お前を後継ぎにしようと思っている。今まで辛く当たってしまって悪かったな」
俺が肩に置かれた手を払いのけて言うと、クソ親父は穏やかな表情でそう答えた。
そしてクソ親父は「今日は二人の父親として、中立な立場で両者を応援すると約束する。楽しみにしているぞ」と続け、言い終えると自室へ消えていった。
あのクソ親父がそんなことを言うなんて……
いや騙されるな。
人の本質は、そう簡単に変わるもんじゃない。
きっと何か裏があるはずだ。
俺はそう思い、これ以上何か干渉を受ける前にガンダイの店へと急ぐことにした。
「ガンダイ!来たぞ!」
俺が扉を開けながらそう呼ぶと、ガンダイはすでにカウンターで腕組みをして立っていた。
「おう。来たか。こっちだ。入れ」
ガンダイはそう言うと、奥にある武器や防具を作るための工房へと入っていった。
後に続き中に入ると、正面にある木製のスタンドに、漆黒のロングコートがかけられていた。
その傍の作業台の上には、ズボンと靴と手袋が丁寧に置かれている。
「かっこいい!流石はガンダイだ!」
「へっ。あったりめぇじゃねぇか。さっさと着てみろ」
照れくさそうに言うガンダイを背に、早速着替える。
ズボンを履き替え、昨日買ってきたベルトを通す。
そして同じく買ってきたポーチを腰に付け、そこにロックボムなどの新アイテムをセット。
靴を履き替え、手袋をつけて、最後にロングコートに袖を通す。
サイズ感はぴったり。
普通の服よりも少し重いけど、その分、頑丈。
それに動きにくいほど重くはない。
俺は動きやすさを確認するために、少し体を動かしてから、姿鏡を見た。
か、かっこいい!
ロングコートにしてもらって大正解だ!
ウィザードのローブというよりも、冒険者のような服装だ!
「最高だよ……なんてお礼を言えばいいか……」
「なかなか似合ってるじゃねぇか」
俺が感動しながら言うと、ガンダイは少し嬉しそうな表情でそう答えた。
そして、真剣な表情に変えて「礼は要らねぇ……高慢ちきなやつらに一泡吹かせてやれ」と言ってから笑みを浮かべた。
「任せといて。ガンダイも見に来てくれるんだろ?」
「ああ。もちろんだ。装備の出来栄えを確認したいからな」
俺の言葉に、ガンダイはそっぽを向きながら答えた。
まったく……素直に「心配だから見に行く」って言えばいいのに。
様子を見ていると、ガンダイは俺の腰回りを見て言う。
「で?その腰に付けたのが新しい武器か?」
「うん。まぁそんなところ。俺はウィザードだから、道具はあくまで補助として使うだけだけどね」
俺はそう答えながら雷を纏わせながら拳を握ってみせた。
「雷属性の拳か。その手袋は薄いが頑丈に作ってある。思い切りぶん殴ってやんな」
「ああ。そうさせて……もらう……よ……あ……れ?」
ガンダイの言葉に答える途中。
俺は目の前が急にかすみ、床に倒れ込んでしまった。
めまい……?
なんだこれ……
「おい!どうした!」
ガンダイが慌てて近寄ってきた。
でも立ち上がることも、返事をすることもできない。
いったいどうしたっていうんだ……
「ルーク!おい!ルーク!」
ガンダイが叫ぶ声が聞こえたが、徐々に聞こえなくなり、目の前が真っ暗になった。




