第7話:欠陥魔術士の友人
軋む体を引きずりながら、やっとの思いでノースリーフに戻ってきた。
まだ朝日は出ていない。
なんとか人通りが出る前に帰ってこられたようだ。
「ガンダイ!いるかぁ?」
木の扉を引いて開けながら中に入る。
ここは町の外れにあるガンダイというスミスが営む武器と防具の店。
会計を行うカウンターには誰も居ない。
鍵が開いてたってことは、起きているはずなんだが……
そう思っていると、奥から背が低く、手足が太い男性が出てきた。
「んん?誰でぇこんな朝早くに来やがって」
「ガンダイ。悪いんだけど、これで防具を作れないか?」
俺がそう言ってカウンターに丸めた魔物の皮と葉で包んだ肉を置くと、ガンダイはまじまじと見て言う。
「お、おい……これ……ダークベアーじゃねぇのか!?お前さんこいつをどこで手に入れたんだ!?」
「ダークベアーって魔物なのか?やっぱりブラックベアーじゃなかったか。昨日、町の外に出たら川辺で遭遇しちまったん……」
俺は答える途中で意識がかすみ始めた。
「あれ?どうしたんだ……ろ?」
そのまま気を失い、目覚めると長椅子の上に横たわっていた。
「ごめん。俺、倒れた?」
「ああ。見事にな。無茶しやがって」
俺が尋ねると、ガンダイは呆れたようにそう言うとカウンターに置かれた空瓶を指さしながら「体のあちこちに痣があったんで無理やり回復液を飲ませた」と教えてくれた。
「どうりで……全身の痛みがかなりマシだ。ありがとう」
この町で、俺を見下さずに普通に話をしてくれる唯一の人物。
ウィザードの道を諦めて、ウォーリアーやファイターを目指そうとした時に、馬鹿にすることなく真剣に色々な武器や防具の提案をしてくれた。
そのことについて感謝を伝えた時に、ガンダイは「儂は本気の奴には全力で答える。ただそれだけだ」と言っていた。
「どのくらい気を失ってた?」
「大した事ねぇ。まだ朝飯も始まらん時間だ。んで?このダークベアーで防具を作れって?」
俺はガンダイの言葉に頷いた。
「長袖のロングコートタイプがいい。腰回りに色々と武器を仕込みたいから隠せるようにしたいんだ」
「まぁこれだけあれば、コートもズボンも作れる。余るだろうから靴と薄手の手袋も作ってやるよ」
ガンダイの言葉を聞いて俺は安心した。
魔物の素材は状態が悪くなれば使い物にならなくなるし、この素材でどの種類の防具をどの程度の量作れるかもわかっていなかったからだ。
「ありがと。あ、それ差し入れ。こいつの肉。めちゃくちゃ美味かったよ」
俺がそう言うと、ガンダイは葉を解き中身を見て「気が利くじゃねぇか!晩酌しながら食わせてもらうとしよう!」と答えた。
「あと、今持ち合わせがないんだ。あとで家からお金を持ってくるよ」
「代金は要らねぇ……お前さんローウェンの奴とやり合うそうじゃねぇか」
俺の言葉に、ガンダイは笑みを消し、表情をしかめながら言った。
「ああ。ちょっと色々あってね……」
「ったく。バカヤロウが。あのガキはお前と違って才能に恵まれし者。勝ち目はねぇぞ」
そんなことは俺が一番わかってる。
それでも引くわけにはいかない。
だから臆さず勝機だけを見つめて挑もうとしているんだ。
いちいち言わないでくれ。
俺がそれらを言葉にしようとした時、ガンダイは一瞬早く口を開く。
「だが賢く下手に出て生きてる奴よりも、そんなバカの方が応援したくなる。間に合わせてやるから、当日の早朝に取りに来い」
「ガンダイ……ありがとう」
俺が嬉しくなりお礼を言うと、ガンダイは照れくさそうに「うっせぇ。さっさと帰って休め」と言い、追い出すようにして店を出させられた。
店を出ると、外には数人の人通り。
朝食を終えて、店の準備をしている人などもいる。
ボロボロの姿を見られるのはちょっと嫌だな。
急いで家に戻り、汚れを叩き落としながら家の中へ入る。
するとドアの向こうにはローウェンがいた。
「夜通し何をしているのかしりませんが、無駄な努力ご苦労様です。低能と汚れが移るので、そこをどいてください」
「無駄になるといいな。俺の努力が実るときはお前が這いつくばるときだもんな」
斬りつけるように言うローウェンに対して、俺が嫌味を被せると、ローウェンは「口だけは一流じゃないか!」と言い、怒りのままにマナを昂らせた。
とんでもないマナの量だ。
ローウェンが全力で魔術を使用するところを、職業訓練所で何度か見たことがある。
どの属性の魔術も、他のウィザードとはマナの量も、魔術の攻撃範囲も威力も桁違い。
十歳にして、すでにアークウィザードの領域に達している。
「なんだ?疲れ切ってる俺を相手にここで始める気か?そんなに万全の俺が怖いなら、模擬戦を取りやめにしてやってもいいんだぜ?」
俺は自身の衣類の乱れを見ながら、あえてローウェンを煽った。
するとローウェンはマナを落ち着かせた。
違う。
これは……制御したんだ。
炎のように立ち昇るマナを、高密度に圧縮して纏っているんだ。
いったいどれだけの制御力があれば可能なんだよ。
俺が観察していると、ローウェンは静かに言う。
「領民の前だ。できるだけ綺麗に勝とうと思っていたが……無事でいられると思うなよ。一族の恥さらしめ」
言い終えると、ローウェンは家を出てどこかへ行ってしまった。
力の差は……想像以上だな。
俺がどれだけ努力をしても、ローウェンはそのはるか先にいる。
そしてとんでもない速度で成長し続けている。
「あーやめだやめだ。考えたって答えは変わらない。全力で戦う。それだけだ」
水浴びをして、着替えてベッドに横になる。
ちょっと寝て、起きたらロックボムの量産。
それとポーチとベルトと糸を買いに行こう。
それから……それから……
そのまま爆睡。
丸一日眠り続け、目覚めたのは試験の前日。
俺は慌てて準備のために走り回った。




