第6話:欠陥魔術士絶体絶命②
魔物は川を渡ったことで全身がずぶ濡れ。
闇のように揺らめいていた体毛が、水を含んで大きく垂れさがっている。
つまり炎が効きにくい。
逆に雷はよく通りそうだな。
そう思い、俺がマナを練って拳を雷で覆うと同時。
再び魔物が、突進するようにして二本の右腕で襲ってくる。
速い!
俺は咄嗟に後方へ退避。
すぐさまロックボムを投げつけた。
炸裂音と火炎が魔物を襲う。
「どうだ!?」
「グォォォッ!」
俺の期待は虚しく、魔物は無傷。
火炎を振り払いながら雄叫びを上げた。
多少毛先が焦げているようにも見えるが、血を流すほどの傷も皮膚が見えるほどの火傷もない。
ロックボムはあと二つ。
無駄にはできない。
まともに向かい合っちゃだめだ。
相手に合わせず、俺は俺の戦い方をする。
そう思い、俺は岩陰を隠れ移りながら、地魔術で生み出した石のナイフと、氷魔術で生み出した氷のナイフを投げつける。
体毛は見るからに闇属性。
本来は光属性の魔術が効果的だが、俺の光魔術は暗がりを照らす程度で意味がない。
雷は飛ばせないから、このどちらかが刺さるなら、まだ勝機はある。
複数本投げ、いくつかは叩き落とされたが、直撃した氷のナイフは刺さらずに地面に落ちたのに対して、石のナイフは突き刺さった。
よし!
微かに見えた勝機。
それを慎重に手繰り寄せるように、回避と投擲を繰り返す。
慌てるな、少しずつ確実に傷を増やすんだ。
血を流させて弱らせる作戦に出たが、石のナイフが刺さっている場所からの出血は少ない。
もう少し効率を上げないと……
そうだ!
あることを思いつき、目くらましのためにロックボムを投げつける。
「グオォッ!」
ロックボムの炸裂音と火炎に少しひるみながら、腕を振るい火の粉を散らしている。
ロックボムは残り一個か。
その隙に俺は岩に身を隠し、地魔術を発動。
作り出す石の形状をナイフから尖った細長い石筒に変えた。
長いと言っても30cm程度。
ウォーリアーやファイターほどの筋力があれば、槍くらい長くても余裕で投げられるだろうけど、俺にそこまでの筋力はない。
ナイフ形状の時よりも長い分、叩き落とされやすいし、しっかり刺しておかないと抜けやすい。
隙を作るために、砂利を作り出して手に握る。
「こっちだ!」
岩陰から飛び出し、あえて声をかける。
そして振り向きざまに目を狙って砂利を投げつける。
「グォォォッ!」
「今だ!これでも喰らえ!」
目潰しは成功。
いくつかの砂利が目に入り、俺に視線を合わせられなくなった瞬間に背後を取り、全力で投擲。
「グォォ!?グォォォッ!」
細長い石筒は魔物の背中の真ん中付近に深く突き刺さり、魔物の叫び声と共に一気に血が流れ出す。
狙い通りだ!
出血の量もだが、あの場所なら腕は届かず、咥えて抜くこともできない!
「もう一本!」
勝機を確信。
もう一本の尖った細長い石筒を投げつけようとした瞬間。
魔物は突き刺さった石筒などお構いなしに、突進してきた。
速い!
間に合わない!
「ぐはぁっ!」
俺は投げようとしていた石筒を咄嗟に構え、防ぎながら後方へと跳んだ。
しかし、大した意味はなく、衝撃をほんの少し軽減できただけ。
石筒は折れ、俺は遥か後方まで飛ばされて、転がり、大岩にぶつかって止まった。
意識が遠のく。
全身の感覚がない。
すぐそこまで来てる。
動け……動かないと喰われる……
「おおおおおおぉ!」
雄叫びを上げながら立ち上がる。
目の前には大口を開け突っ込んでくる魔物。
「グォォォッ!」
頭蓋どころか、上半身を食いちぎるのではないかというほどの大口を開け襲ってくる。
「俺の勝ちだ」
迫りくる大口に、そっとロックボムを投げた。
直後。
ロックボムは魔物の口内で爆発。
焦げる臭いと煙。
欠けた牙に、切れ切れになった舌。
顎を歪ませ血が流れ出るも、魔物は倒れない。
「う、嘘だろ……」
浅かったのか……
喉や腹に達してから爆発していれば、倒せたかもしれないのに……
意識が遠のき、俺はその場に倒れ込んだ。
……
…………
意識を取り戻し、目を開ける。
「生きて……る……」
周囲は暗くなり、空には月と星。
そしてすぐそばには、魔物が倒れていた。
暗いからよく見えないけど、俺がつけた傷以外はなさそうだ。
俺が気を失ってる間に、誰かが助けてくれたという訳ではなさそうだ。
おそらく、この魔物も絶命寸前だったのだろう。
数瞬速く俺が気を失っただけで、俺に続くように倒れたのかもしれないな。
「なんとも格好悪い勝ち方だな。でも生き残ったのは俺。勝ちは勝ちだ」
痛てぇ。
骨は折れてなさそうだけど、綺麗に余すことなく全身打撲だな。
卒業試験……ローウェンとの模擬戦までに回復させないと……
ん?
そういえば、この魔物には氷で作ったナイフを投げつけても刺さらなかったな。
ってことはこいつで装備を作れれば、多少はローウェンの氷魔術に対して備えられるんじゃないのか?
休んでる時間はない。
明かりと暖を取るために枝を集めて火を起こす。
地魔術で石のナイフを作り出し、俺は痛んだ身体を無理に動かして魔物を解体。
皮を剥ぎ取り、川で血を洗い流して、火の傍にある岩にかけて水を切り乾かす。
「さて、残りは肉だな」
乾くのを待っている間に、肉を切り分ける。
食べる分は切ってそのまま串に刺して焚火の傍へ。
食べきれない分は手を当てがって氷魔術を発動。
凍らせて大きな葉に包み、持ち帰れるようにして置いておく。
内臓は放置して腐れば環境汚染につながるため、燃える水をかけて燃やしておいた。
徐々に肉の焼ける匂いが広がり、急激に腹がすく。
「天の恵みに感謝しまーす!う、うまいっ!」
俺はあまりの美味さに、あっという間に大量の肉を平らげた。
「ふぅ……満腹。だいぶ痛みもマシになってきたな」
あとは、この惨劇があったのが見て分かる血だらけの川辺を少し綺麗にしないとな。
俺は水魔術を発動。
手から水を如雨露のように出して、魔物の血を洗い流した。
作業が終わったのは明け方。
人目に付くのを避けるために、朝日が昇る前に魔物の皮を担いで、ノースリーフの鍛冶屋へと運ぶことにした。




