第5話:欠陥魔術士絶体絶命①
それから数日間。
早朝から夜遅くまで、俺は秘密の訓練場である川辺で、新しい武器の検証と、戦闘訓練に磨きをかけた。
ロックボムを投げた時の最大速度と最長距離の確認。
導火線の長さを調整して、何cmなら何秒後に爆発するのかの確認。
走ったり跳躍したり、岩を飛び移ったりしながら投げて、自分の戦い方にあった爆発までの秒数の確認。
そしてどんな体勢でも正確に的を狙えるようにする投擲技術の向上。
何度も何度も作っては投げ、検証を重ねる。
的は川辺の岩々。
木を的にすると、山火事に発展するかもしれないからだ。
道具に頼るだけではだめだ、より素早く動き、一撃で沈められる筋力が必要だ。
過去に剣も試してみたが、剣に炎や雷を纏わせることができなかったため、剣の腕を磨くことは諦めた。
地魔術や氷魔術で剣や槍を作ることも考えたが、作り出すのに時間がかかるし、重くてまともに振るえなかったため、戦闘では使い物にならない。
生み出す礫の形状をナイフにして投げつける方がよほど合理的だ。
そこで俺が選んだのはファイターの真似事。
ファイターのスキルは武術。
武術の効果は幅広く、身体能力の向上、洞察力の向上、脚運びや体捌き、重心移動や攻撃の受け方や躱し方など多岐にわたる。
ウォーリアーのような武器を用いた力技での戦闘とは対照的で、ファイターは己の拳脚を武器とし、最小限の動きで最大限のダメージを与えるような技術的な戦い方をする職業だ。
「はっ!はっ!やぁ!ふぅ……こんな感じだよな」
職業訓練所で盗み見たファイターの動きを思い出しながら、雷を纏わせた拳を突き出す。
俺はウィザードだから武術のスキルを使えないが、動きを真似ることくらいしかできない。
「拳を突き出すよりも、脚運びが重要かもしれないな」
俺の魔術は手に纏うだけで、全身や足先に纏うことはできない。
そのため、どうしても攻撃の主軸となる拳に力が入ってしまうが、それだと攻撃をはずした時に勢い余って倒れてしまったり、体勢が崩れて次の攻撃に移れなかったりする。
拳には炎や雷を纏わせているから、力いっぱいぶん殴るよりも、六割七割くらいの力で殴るようにして、その分、脚運びや体勢の維持に意識を向けた方がいいかもしれない。
「よし。次は蹴りの練習だ」
脚には魔術を纏えないため、ただの蹴りの練習だけど、やらないよりはやっておいた方がいい。
何がいつ役に立つかわからないからな。
そう思い、空を蹴る。
この数日間で、最も貴重な経験となったのは、川の水を飲みに来たホーンラビットやグリズリス。
木にとまっていたフクフクロウなどの小型の魔物を相手にできたことだ。
やっぱり動かない岩ではなく、こちらを襲ってくるモンスターとの戦闘経験は、緊張感が違うな。
敗北は死に直結する。
逆に勝利は生と成長を実感できる。
それに肉は美味いし、素材を売れば金になる。
「ふぅ……ちょっと休憩しよう……」
才能に恵まれぬ者の俺だが、幸いなことにマナ量は少なくない。
通常よりも著しく劣るのは、魔術の制御能力だ。
手を覆う炎も雷もそれなりの威力があるし、投げる石や氷もそれなりの硬度がある。
つまりマナを魔術に変換する魔力と呼ばれる力は、人並みにはあるということだ。
それを遠くに飛ばしたり、広範囲に発動できないだけ。
ただそれだけ……ただそれだけだ。
「大丈夫。弱みは使い方次第で強みに変えられる……ん?」
そう自分に言い聞かせ、岩に腰かけて革袋の栓を抜いて水を飲んでいると、向こう岸の茂みから黒い何かが出てきた。
クマ……じゃないな……ブラックベアーか?
いや、ブラックベアーは四足歩行だけど、あいつは六足歩行。
それに毛並みも普通じゃないし、体格も倍近く大きい。
間違いなくブラックベアーよりも上位の魔物だ。
俺が咄嗟に隠れて様子を窺っていると、闇のような体毛の魔物は、ゆっくりと川へ近づき、音を立てながら水を飲み始めた。
気づかれる前に逃げないとな……
俺がそう思っていると、闇のような毛並みの魔物は、二本の太い脚で立ち、周囲を見渡し始めた。
立ち上がると足が二本と腕が四本って感じだな。
ってかでかすぎるだろ。
3m……いや3.5mはあるんじゃないか?
待てよ……あいつ鼻をヒクヒクさせてる……
まずい!今俺がいるのは風下だ!
匂いで気付き始めてるんだ!
とにかく逃げないとな……
そう思い逃げるチャンスを窺っていると、闇のような毛並みの魔物はおもむろに、俺がよく的にしていた傷だらけの木に近づいた。
そして……
「グオォォォッ!」
「っ!?」
耳をふさがなければ、鼓膜が破れるのではないかというほど大きな雄たけびを上げ、大きな腕を振るい、一撃で木をなぎ倒した。
木が折れた!?
どんな筋力だよ!
驚き戸惑いながら、後ずさりをすると、さっき食べた魚の串を踏んで音を立ててしまった。
「グォッ!?」
「やばい!気づかれた!」
俺に気づくと同時。
雄叫びを上げながら突進してきた。
川の流れなどものともせず、勢いを増しながら近づいて来て、勢いをそのままに二本の太い左腕を大きく振り抜いた。
斧で大岩を割ったかのような音が、川のせせらぎを吹き飛ばす。
俺は咄嗟に跳躍して、宙返りをしながら少し離れた場所に着地。
見失う訳にはいかないため、慌てて闇のような毛並みの魔物に視線を向けると、傍には巨大な爪痕が付いた岩があった。
木はなぎ倒すし、岩をえぐるなんて……あんなの喰らったらひとたまりもないぞ。
怖い。
なんとか逃げなきゃ。
手元にあるのはロックボムが三つと、燃える水が入ったコップが一つ。
そして燃える水をしみこませたロープだけ。
やるしかない。
こんなところで死ぬわけにはいかないんだ!
「ふぅ……落ち着け……勝たないといけないんじゃない。逃げて生き残るだけでいいんだ」
俺は目的を見失わないために、深呼吸をしてから、自分にそう言い聞かせながら拳を構えた。




