第4話:欠陥魔術士は工夫する
俺は職業訓練所を出て、再び秘密の訓練場へとやってきた。
川がせせらぐ中、地魔術で小石を生み出し、向こう岸にある木に向かって小石を投げる。
動かない的であれば、十回投げれば八回から九回は当てられるし、いくつかの小石は木にめり込んでいる。
やや精度不足だが、背丈に恵まれたことと、持ち前の筋力で、威力はなかなかのものだ。
「ムカつくなぁ。ローウェンの事となると行動の早いクソ親父め」
誰が呼んだのか、俺とローウェンがいがみ合ってる所にクソ親父が来た。
そして卒業試験までは各々自主訓練。
職業訓練所にも行かなくていいと言い出したため、秘密の訓練場にやってきたのだ。
卒業試験は来週。
職業訓練所にいる者だけでなく、ノースリーフの者なら誰でも観戦自由にして、盛大に卒業試験を行う。
そのメインイベントとして、俺とローウェンの模擬戦が行われることとなった。
もちろん、俺が負けた場合の条件は継続だそうだ。
俺を派手に倒せば、後継ぎとなるローウェンの凄さを、町の人たちに見せられる。
そのうえ、邪魔者の俺は追い出せる。
どうせ「弟に負けたのが悔しくて、勝手に出ていった」とか真実を捻じ曲げるに違いない。
「考えれば考えるほどムカつくな」
俺はさらに力強く小石を投げた。
とはいえローウェンは強い。
どの属性も使いこなすが、特に得意とするのは氷魔術。
遠距離から氷柱を無数に飛ばされれば、石や氷を投げるだけの俺に勝ち目はない。
どう距離を詰めるか……
ローウェンは魔術の発動速度も速い。
無策に突っ込めば、返り討ちに遭うのは明らか……
頭の中で、何度も何度もシミュレーションするが、何をやっても殺される。
「くっそぉ……ダメだ……」
大きな岩の上に寝転がり、空を見る。
昼か。
そういや昼飯まだ喰ってなかったな。
「腹が減っては戦はできぬってな」
俺は悩むのをやめて、腹ごしらえをすることにした。
森に入り、拾ってきたのは長くて太い木の枝と、火炎草と呼ばれる赤い炎のような草。
可燃性が高く、よく燃える性質を持っている。
川辺にある大きめの石を集めて組んで、そこに枝を無造作に投げ込む。
いくつかの長く真っ直ぐな枝を残し、枝の隙間に火炎草をねじ込んでマナを練り、炎魔術を発動。
手を炎で覆い、指先を火炎草に当てて着火。
火炎草は、ボォっと音を立てながら燃え上がり、一気に燃え広がる。
「放っておいてもいいけど、少しだけやっておくか」
手をかざして、風魔術を発動。
そよ風を送って、空気の巡りをよくすることで、火の回りを加速させた。
「普通のウィザードは地魔法で石窯作ったり、焚火を用意しなくても炎魔術で調理できるんだろうな」
嘆いても仕方がないか。
俺は気持ちを切り替え、マナを練り、氷魔術を発動。
指よりも長くて細いくらいの硬い氷の棘を作り出した。
「ほい、ほい、ほいっと」
川の水面に泳いでいるレインボーウィッシュに向かって氷の棘を三本投げて、全弾命中。
ワイルドラットのように素早くないから余裕だ。
自画自賛をしながら靴を脱いで川に入り、浮かび流れるレインボーフィッシュを拾い上げる。
氷魔術は便利だ。
地魔術で生み出した石の棘だと、仕留めた獲物の体内に、石の欠片が残ることがある。
しかし、氷なら体内に残っても溶けてくれる。
それに石の棘を使うと、刺さったまま重さで沈んでいくため、回収するのが大変になる。
「これに気づくまで、何度苦労したことか」
沈んだ獲物を取りに川に潜って、ずぶ濡れになったことを思い出しながら、再びマナを練って氷魔術を発動。
小さな氷の刃を生み出して、粘り気と鱗を取って、腹を裂いて腸を出す。
残しておいた長く真っ直ぐな枝に魚をくねらせながら刺して、火の傍に添えた。
そして濡れた足を焚火に向け、乾かしながら魚が焼けるのを待つ。
「どうやったら勝てるかなぁ」
魚の焼ける匂いを嗅ぎながら、頭の中でローウェンを倒すシミュレーションを再開。
石や氷を投げつけて、注意を逸らしながら近づき、雷を纏った拳で全力で殴る。
できることはこれだけ。
しかし、頭の中で何度投げても様々な魔術で撃ち落されるし、防がれる。
そして近づくことすらできずに炎で焼かれ、雷や風で貫かれ、氷漬けにされる。
石と氷かぁ……
せめて火とか雷を投げられればなぁ……
焚火を見つめてボーっと考える。
ん?
待てよ。
これ使えるんじゃないのか?
俺が目を付けたのは、火を起こすときにねじ込んだ火炎草。
閃きと同時に、頭の中を思考が駆け巡る。
よし!
いけるぞ!
「才能に恵まれぬ者を舐めるなよ。才能に恵まれないからこそ工夫を凝らすんだ!」
急いで平らげ、行動を開始。
森の中を数時間彷徨い、火炎草をかき集めて来た。
「これだけあれば足りるだろう。半分は投げる用だ。その前に……」
俺はある実験をするために、マナを練って地魔術で石のコップを作り出した。
コップに川の水を入れ、そこに数枚の火炎草を漬け込む。
「よし。これはうまくいけばラッキーくらいに思って放置だ」
火炎草を漬けているコップを倒れないように置いて、今度はもっと小さなコップを地魔術で作る。
小さなコップには水を入れず、火炎草をギュウギュウに押し込み、飛び出さないように地魔術で生み出した石で蓋をする。
石の蓋には穴を開けておいた。
ここに捩じって細くした火炎草を押し込めば……
できた!
導火線付きの、火炎草を詰め込んだ筒の出来上がり。
「試しに……」
炎魔術で導火線に着火。
少し離れた所にある岩に向かって投げた。
ん?爆発しないな。
失敗か?
あ、いや、導火線が徐々に燃えていってるな……
直後。
導火線が燃え切ると同時に、巨大な爆裂音と火炎が広がる。
「あっつ!あぶな!」
近づいてたら巻き込まれるところだった。
岩が欠けてやがる。
この威力……直撃したら怪我じゃすまないな。
魔物相手ならまだしも……
弟相手に使う訳にはいかないか。
「まったく……冷徹な弟と違って俺は優しいお兄ちゃんだな」
非情になり切れず、俺は威力を抑えるために、石筒のサイズを小さくして量産。
この新しい武器の名前は、ロックボムと名付けた。
「こっちもそろそろいけるかな」
俺は漬け置きしていた火炎草を取り出し、コップに残った水の匂いを嗅ぐ。
よし。
火炎草が燃える時と同じような臭いがするな。
マナを練り、炎を纏った手を近づけると、コップの水は炎が触れる前に着火。
勢い良く燃え上がり始めた。
「成功だ!燃える水の出来上がりだ!」
この燃える水をまき散らして着火すれば、広範囲に炎攻撃ができる。
ロープにしみこませれば、炎の鞭みたいにできるかもしれないな。
今まで散々見下されて迫害を受けて来たからな。
クソ親父とローウェンだけじゃない。
ノースリーフに住む全員の度肝を抜いてやるぜ。




