第3話:欠陥魔術士は負けず嫌い
この世界の名前はライフォジア。
この大陸はルミナス大陸。
世界人口のほとんどがこのルミナス大陸に集約している。
この町ノースリーフからはるか南。
ルミナス大陸の中心にあるのが大陸最大にして世界最大の都グランダルム。
ルミナス大陸の南東側には地と雷の大魔獣ベヒーモスが支配するビースト大陸。
南西側には炎と風の大魔竜ニーズホックが支配するドラゴン大陸。
北側には氷と光の大魔妖ヨルムンガルドが支配するブリザード大陸がある。
そして、各大陸はこのルミナス大陸とのみ陸つなぎになっている。
海は水の大魔蛇リヴァイアサンが支配しているため、船は沖へと出られない。
そのため、移動は陸路でしかできない地形になっている。
地図の説明を終えた教官が、黒板を叩き声を張り上げる。
「いいか!今、世界で最も求められているのは戦力だ!冒険者やグランダルムに仕える騎士団員になれる戦闘職だ!」
教官はそう言うと「なぜだか分かる者は!?」と問う。
そこに手を上げるのは決まって……
「おお!流石はローウェン様!」
「ここではただの訓練生です。様はお止めください」
ローウェンは立ち上がると、そう前置きをしてから言う。
「世界で最も求められているのが戦闘職である理由。それは我らが世界の王。ダンテ王にかけられた忌まわしき呪いを解くためです!」
「その通りだ。ではそのまま答えてくれ。ダンテ王にかけられた呪いはどうやったら解ける?」
するとローウェンは黒板に書かれた地図や魔物の名称を見ながら言う。
「はい!四大魔物を倒すことで、呪いが解けるとされています!」
ローウェンの言葉に、教官は「うむ。簡潔で分かりやすい答えだ」と言いながら深く頷いた。
いやいや、もてはやしすぎだろ。
そんなことは、この大陸に住んでる者なら誰でも知ってるっての。
俺が心の中でツッコミを入れていると、ローウェンが席に着き、教官は雄弁に語り始める。
「ダンテ・フォン・ルシフェール王。ウィザードの頂点にして、魔術を統べる者と称されているお方だ」
ダンテ王が呪いを受けたのは数千年も昔のこと。
当時、あまりにも強く勇者と呼ばれたウォーリアーがいた。
ダンテ王は、その勇者パーティで後衛を務めたウィザード。
勇者パーティは、世界を滅ぼそうとする凶悪にして強大な力を持つ闇の魔物。
魔王とも呼ばれたナイトメアという魔物に戦いを挑んだ。
そして死闘の末に、見事討伐。
しかし、ナイトメアが死に際に強力な闇魔術を勇者に放った。
勇者を庇い、ダンテ王が闇魔術を被弾。
その日を境に、ダンテ王は老いることがなくなった。
そして数千年経つ今もなお、グランダルムで生き続けている。
「被弾した闇魔術のもう一つの強力な拘束の呪いにより、ダンテ王はグランダルムから出ることすらできない。なんとお労しいことか」
教官は、そう言い終えると、微かに浮かべていた涙を拭った。
そして教官はさらに続ける。
「ダンテ王は解放を望んでおられる!安らかなる眠りを!心から望んでおられるのだ!」
不老不死とは、終わりのない強制的な旅のようなもの。
精神の限界はとうに超えており、ダンテ王は呪いから解放されて安らかに眠ることを望んでいる。
その悲願を叶えた者。
つまり四大魔物の討伐に成功し、呪いを解いた者には、大英雄の称号と、貴族以上の地位が与えられるというお触れが出ているのだ。
何度も耳にする話。
知っていて当たり前の話。
しかし、何度聞いても、この話は俺の心を躍らせる。
「絶対に俺が大英雄になってやる」
俺が意欲に駆られて言葉にすると、誰かがあざけ笑うように言う。
「石ころを投げるくらいしかできないアンギフが何か言ってるぜ」
「大英雄どころか家事手伝いか雑用係になれるかどうかも怪しいぜ」
今に見ていろ。
俺は必ず合格してやる。
強制退所じゃなくて卒業だ。
そのために諦めずに俺は、秘策を練り、鍛え続けてきたんだ。
そう思い睨みつけると「おお、怖い怖い。流石はウォリアーだな」とどこからか聞こえてきて、それを聞いた者たちが笑う。
ウィザードらしからぬ体のでかさも、筋力の高さも、弱みじゃなくて強みだ!
我慢の限界に達した俺は立ち上がり、拳を鳴らしながら近づき、一番口数の多かった奴の胸ぐらを掴む。
「近寄られたら何もできない雑魚が……そんなに見下すなら、卒業試験の実技を的当てから模擬戦にしてもいいんだぜ?」
そしてゆっくりと持ち上げると、そいつは足をぶらつかせ、怯えながら「お、おおお、おい!暴力はいけないんだぞ!」と言い始めた。
喧嘩を売っておいて被害者ぶるとはな。
全く理解に苦しむ。
「おい!やめ……」
「その模擬戦とやら……僕が相手になってやるよ」
教官が止めに入ろうとすると、ローウェンは立ち上がり、遮るように言った。
「なんだ?お兄ちゃんに遊んでほしくなったのか?」
「一族の恥さらしが、恥を重ねる前に処分する。それだけだ」
兄弟とは思えないほどの冷徹な視線。
家族愛も、人としての礼節もない。
よくもまぁそんな視線を人に向けられるもんだ。
「いいぜ。やってやろうじゃねぇか」
俺はそう言ってから「許可を出せ」と言わんばかりに教官を見た。
するとローウェンは「僕からもお願いします。領主である父には僕から説明しておきますので」と続く。
「ロ、ローウェン様がそうおっしゃるのであれば……」
同じ領主の息子なのに、俺は邪魔者扱いで、ローウェンには様付けか。
まったく胸糞悪い奴ばかりだな。
「んで?模擬戦の形式は?」
「そんなものは不要だ。お前は殴るもよし、投げるもよし。なんでもありで来い。僕はお前がどんな攻撃を仕掛けてこようと、本物の魔術で否定してやる」
なんでもありか……
魔術合戦なら勝ち目はないが、なんでもありならまだ勝機があるかもしれないな。
「ただし、条件がある」
「あん?なんだ?今更ビビッて自分に都合のいい条件を出そうってのか?」
俺の言葉にローウェンは、静かに、そして冷徹さを増しながら答える。
「僕が勝ったら、お前は自主的に職業訓練所を退所。この町からも出て行け。そしてこの先一生アルベルトの名を騙ることは許さない」
「条件多すぎんだろ」
それに騙るって……
騙ってるんじゃなくてアルベルト家の長男だっての。
「んで?お前が負けたら?」
俺が呆れながら言うとローウェンは、たった一言「死んでやるよ」とだけ答えた。




