第2話:欠陥魔術士は嫌われる
職業訓練所は、社会の基礎知識を学ぶと同時に、エンブレム別でのスキルの習得や上達をサポートしてくれる機関だ。
五歳から入ることができ、十歳になる年から卒業試験を受けられる。
卒業試験は年に一回。
もし落ちたとしても、最長で十五歳になる年までは在籍が可能。
しかし、十五歳になる年の卒業試験に落ちた場合は、強制退所。
「後がない。何が何でも合格してやる」
俺は、今年十五歳。
もし強制退所となれば、どのエンブレムを持っていても、一様に『役立たず』のレッテルが貼られ、働き口が見つからなくなる。
それだけは絶対に避けないと……
俺が卒業後に目指しているのは、冒険者と呼ばれる仕事。
冒険者は、魔物を倒したり、誰かの護衛をしたり、薬草を取って来たりと、様々な形で人助けをする仕事。
危険は伴うが、とてもやりがいのある仕事だ。
しかし、強制退所で役立たずのレッテルを貼られると、一緒に戦ってくれる仲間は見つからず、一人で稼ぎの悪いクエストに行くことしかできない。
もしクエストの完遂率が悪いと、冒険者すら出来なくなり、そのまま農業や家事などの手伝いだけをして一生を終えることになる。
そんなのは絶対に嫌だ。
「大丈夫。今年こそは大丈夫だ。自信を持て」
俺は今まで行ってきた訓練を思い出し、自分を鼓舞しながら足早に進む。
町の中を進むと、すでに各お店が活動を開始していた。
「ウサギとキツネにミートボア!それに上質なクマベアーの肉が入ったよ!」
そう声を張るのは、骨付き肉の模様が描かれた看板の店の男性。
見たまんま、聞いたまんまの肉屋だ。
無害で弱い魔物よりも、凶悪で強い魔物の肉の方が熟成していて美味いため、価値が高い。
その隣の店からは「ホーンラビットの角とグリズリスの牙!クマベアーの爪と毛皮が入ったよ!」という声が聞こえてきた。
こっちは、ドラゴンの模様が描かれた看板の素材屋だ。
肉と同様に、素材も凶悪で強い魔物の物の方が高値が付く。
「それにしてもマーチャントは、みんな声が大きいな」
肉屋と素材屋の店主の右手の甲にあるエンブレムは天秤。
これはマーチャントとよばれる職業を示すエンブレムだ。
マーチャントのスキルは交渉術。
安く仕入れて高く売り、お金を稼ぐことが上手い。
まぁ、たまに暴利で売りすぎて交渉が上手くいかずに喧嘩になっている者もいるけど、基本的には頭のいい職業だ。そのため、どの店にも必ず一人はいる。
特徴としては、男女ともに背の高さは標準だが、声が大きくお腹が出ている人が多い。
他にも剣と斧の看板の武器屋や、盾や鎧の看板の防具屋などが並んでいる。
歩き進んでいると、店頭準備をしている野菜店から会話が聞こえてくる。
「お、アンギフ様のお通りだぜ」
「こら、あんた。聞こえるよ。あんなのでも一応は領主様のご子息様だからね」
才能に恵まれぬ者である俺に、期待をしていないのはクソ親父だけじゃない。
家族間同様、、領民の間でも、俺への迫害意識は変わらない。
それほどまでに、この世界での才能に恵まれぬ者への扱いは低い。
なんとも胸糞の悪い連中だ。
ドンッ!
「いったぁ……」
考えながら歩いていると、巨大な壁にぶつかった。
なんでこんなところに?
そう思い見てみると、壁ではなく、壁のように大きく屈強な体格の男性が立っていた。
でっかいなぁ。
200cmどころじゃないな……220……いや230cmはありそうだ。
エンブレムを見なくても分かるけど……
そう思いながらも見てみると、右手の甲には剣のエンブレム。
ウォーリアーという職業を示すエンブレムだ。
「気を付けやがれ!ったく……ファイターのくせに避けることもできねぇのかよ」
ウォーリアーは不機嫌そうに言いながら、歩いて行ってしまった。
背中には、俺の背丈ほどありそうな大剣。
ウォーリアーのスキルは強化。
マナを身体や武器、防具に纏わせて強化するスキルだ。
大剣や大戦斧などの武器を好み、技術や回避ではなく、強力無比な一撃に全てを賭ける傾向が強い。
大岩を砕き、大木を斬り倒し、中には地形を変えるほどの一撃を繰り出す者もいるらしい。
この町で見ない顔だし、銀板の付いたネックレスをしていた。
あれは、シルバーランクの冒険者の証だ。
行商人などの護衛クエストか、魔物の討伐クエストでこの町に来たのだろう。
俺も早くああやって旅して回ってみたいものだ。
「って……俺はファイターじゃねぇ。ウィザードだっての」
きっと、背丈や体格のせいで、武器を持たずに戦うファイターと呼ばれる職業と見間違われたんだろう。
まぁ、仕方ないと言えば仕方ないか。
ウィザードらしいローブを身に纏ってる訳でもないしな。
俺の戦闘スタイルは投擲と近接攻撃。
一般的なウィザードのように、ゆったりとしたローブではなく、動きやすい、服とズボンと革靴を装備しているのだ。
「もっとウィザードっぽい恰好した方がいいのかなぁ。でもローブは動きにくいしな」
そんな独り言を言いながら歩いて行くと、高い柵で覆われた建物が見えて来た。
ここが職業訓練所。
職業訓練所では、一階に生産職の訓練室、二階には戦闘職の訓練室がある。
生産職とは、武器や防具などを作る金槌のエンブレムを持つスミスや、学問に特化したペンのエンブレムを持つリサーチャー、先ほど町で見かけたマーチャントなどの総称だ。
俺は戦闘職であるウィザードだから二階。
そこでは座学のみが行われ、実技訓練は建物の裏手にある広場で行われる。
「たしか今日は朝から卒業試験の説明だったな」
頑丈で軋まぬ階段を上がり、ウィザードの訓練室に入ると、すぐに視線が俺に集まる。
「訓練室を間違ってますよぉ……ウォーリアーは隣の隣でぇす……くすくす」
「近距離ウィザードさんのお出ましだ……くすくす……」
微かに聞こえてくる陰口。
どの席の誰が言ってるかなどどうでもいい。
俺は聞こえていないふりをしながら席に着いた。
部屋の隅にはローウェンがいるが、こっちを見もしない。
他にもいろいろと話す声が聞こえてくるが、教官が静かにさせながら説明を始めてくれたおかげで、最後まで聞かずに済んだ。
「静かにしろ。今日から来週の卒業試験が終わるまでは、試験を受ける者のみで訓練を行う。気を抜いてると来年も受けることになるぞ」
教官は言い終えると俺を見て、不敵な笑みを浮かべながら「おっと。次がない者が一人いたな」と続けた。
まったく嫌味がお上手なこった。
俺は、いつか見返してやると思いながら無言で睨み返した。
「ふん。まぁいい。試験内容は実技。属性は問わん。遠方に置かれた的を破壊しろ。遠距離かつ高威力でなければウィザードの恥と思え」
バツが悪そうに教官はそう言うと、黒板に軽快な音を鳴らしながらチョークで簡易的な世界地図と、各大陸名、どんな魔物がいるのかなどを描き始めた。




