第51話:騎士団
マーリンさんと共に謁見の間を出る。
扉を閉め、俺は平常心を保つためにあえて静かに言う。
「報酬はとりあえずしまっておこう」
「そうですね」
「流石にここじゃあな」
セレナとリズがそう言うと、フリードはリュックを下ろした。
「一番奥に入れておくよ」
「ああ。頼む」
俺がそう答えて渡すと、フリードは嬉しそうにリュックの奥へとしまい込んだ。
きっと努力が実ったことが嬉しいのだろう。
「君たちがこの場で金勘定をしない品性を持ち合わせていて安心したよ」
様子を見ていたマーリンさんはそう言って笑った。
笑い合っているとすぐにゴウゼンがやって来た。
そして開口一番に、俺に「全く……お前ほんとにいい度胸してんな」と言った。
その言葉に、マーリンさんも「ああ。村の件は私も驚いたぞ」と続く。
「あ、やっぱりまずかった?村の人たちのおかげで命拾いしたから恩返しができればなって話し合って決めたんだ」
「不味くないさ。誉め言葉として受け取ってくれ」
俺の言葉に、マーリンさんはそう答えてから「それにしても……」と言って、仲間たちを見た。
「私、ダンテ陛下があまりにもお若い方でびっくりしちゃいました」
「あたしもだ。不老不死の呪いは本当だったんだな」
セレナとリズがそう話し、フリードは「緊張が解けてお腹が減ってきたよ」と続く。
「仲間たちも肝が据わっているな。いいことだ」
「がはは。全くだぜ。ギルドでたらふく喰わせてやるよ。俺のおごりだ」
マーリンさんとゴウゼンの笑い声が響く中。
俺たちは通路を進んだ。
城門に着き、馬車へ乗り込む直前。
「やぁ。こんにちは」
突如として背後から声をかけられた。
「「っ!?」」
「わっ!」
「ひゃぁっ!」
俺とリズが慌てて振り返ると、そこにいたのは騎士団の格好をした男性と女性。
「こんなところでどうしたんだ?」
「将来有望な若者を見に来ただけさ」
マーリンさんが尋ねると、男性はにこやかに答えた。
「紹介するよ。近接攻撃部隊の部隊長をしているギルバート・ナックラーだ」
「どうも」
茶色い髪と瞳。
二重でやや垂れ目。
軽い口調と人当たりの良い笑顔をしているが、全く隙が無い。
背丈も体格も俺と同じくらいなのに、体幹や重心にブレが全くない。
おそらくファイター。
俺のなんちゃって武術とは、比較にならないほど鍛え込まれているのが窺えるな。
「で、こっちが支援部隊の部隊長をしているティア・グレース」
「はじめまして。プリーストのティアです」
明るい空のように美しい水色の長い髪と瞳。
品の美しい顔立ち。
そして優しい口調。
清楚を形にしたような女性だな。
お上品でか弱そうにも見えるが……
やっぱり隙がない。
さすが部隊長だな。
そんなことを考えていると、ティアさんが俺を見て言う。
「ギルが驚かせてしまい申し訳ありません。そう警戒なさらないでください」
強さを探っていることに気づかれた!?
「すみません。つい、癖で」
「無意識で観察を行うのはいいが、気づかれるのはいただけないな」
どうやらギルバートさんにも気づかれてたみたいだ。
「なんで分かったんだって表情だな。仕方ない。若者に先輩が助言してあげよう」
ギルバートさんはそう言ってから「対人戦の経験を積むといいよ」と教えてくれた。
「対人戦?それとどう関係が?」
俺がそう尋ねるとギルバートさんとティアさんが言う。
「魔物ばかりを相手にしていると、自分が見定められる経験が乏しくなるんだ」
「人間のような知性ある戦いをする魔物は少ないですから」
たしかに見ることに集中して、見られることを考えたことはなかったな。
「も、盲点でした」
俺がそう答えると、ギルバートさんが言う。
「上位の魔物の中には、俺たちの実力や行動の癖を見定めて、作戦を立てたり攻撃を仕掛けたりする魔物もいる。覚えておくように」
ギルバートさんはまるで優しい先輩の様に、明るい表情でそう教えてくれた。
「ご指摘ありがとうございます。改善します」
「ふふふ。謙虚で素直。いい子ですね」
俺がお礼を言い、頭を下げると、ティアさんも優しい言葉をかけてくれた。
マーリンさんと同じで、いい人たちだな。
立場に奢ったり、人を見下したりしない。
あいつらとは大違いだな。
俺が家族を思い出していると、燃え盛るような赤髪の大男が近づいてきた。
背中には巨大な戦斧。
ゴウゼンと比べても、遜色ない体格とマナ量だ。
「貴様ら。こんなところで何をサボってんだ?」
「だ、団長!サボってないっすよ!将来有望な若者に唾つけに来たんすよ」
ギルバートさんの言葉を聞き、俺たちが顔を見合わせた。
「い、今……」
「ああ。団長って言ったな」
リズに俺が答えると、セレナとフリードはゆっくりと頷いた。
「ふん。将来有望なものか。少し早くに運よく成果を上げた。ただそれだけの小物だ」
言葉からも表情からも、俺たちを見下していることが分かる。
他の三人とは違って、こいつはムカつくな。
俺がそう思っていると、ゴウゼンがマナをほとばしらせながら言う。
「運も実力って言葉を知らねぇのか?騎士団長さんよぉ?」
「実力とは、作戦が上手くいかなかった場合に出た成果のことだ。今回のは上手く進んだ最善の結果。実力とは程遠いということが分からんのか?」
団長も負けじと、とんでもないマナを放出しながら答える。
今にも互いに武器を抜きそうなほどの迫力だ。
「お、おお、落ち着いて!」
「あ、あなた方が戦えば城が壊れます!」
ギルバートさんとティアさんが止めに入る。
その様子を見てマーリンさんが呆れながら言う。
「一応紹介しておくよ。騎士団長のベルゼクス・バージェス。見ての通りゴウゼンとは犬猿の仲だ」
「マ、マーリン!紹介はいいから、お前も止めてくれ!」
俺たちはギルバートさんの叫びに応じ、全員で二人を引きはがし、なんとかゴウゼンを馬車に乗せた。




