第50話:謁見
早朝。
まだ街に人通りが出来る前。
俺たちは馬車に揺られ、グランダルム城へと向かっている。
俺たちの目の下には特大の《《くま》》。
馬車に揺られているというか、意識朦朧としながら項垂れている状態だ。
「あ、えっと……大丈夫か?」
俺たちがあまりにも暗い雰囲気なことを心配したマーリンさんが尋ねてきた。
「ええ。なんとか……まぁご察しの通りです」
俺がそう答えると、マーリンさんは「無理もないか。王の前でだけ意識を保ってくれ」と笑みを浮かべて答えた。
街並みや空を眺めている間に意識が飛び、気が付けば城門。
馬車を降りる時には、かなり回復した状態になっていた。
「お、顔色がよくなってきたな。ははは。さぁここからは、しゃんとしてくれよ。こっちだ」
マーリンさんはそう言って俺たちを先導してくれた。
城内の通路は、馬車が三台並ぶほどに広く、天井も高い。
当然ながら街以上に整備されており、段差ひとつない石畳。
壁や柱にも細かな装飾が施されている。
「凄い装飾だな」
「ええ。いったいどれほどの時間をかけて作られたのでしょうか」
俺たちがきょろきょろと見回して話していると、マーリンさんが言う。
「私も入団したときに、同じ質問を当時の部隊長にしたんだ」
マーリンさんはそう言ってから、振り返った。
そして誇らしげに言う。
「数千年前。ダンテ王がお一人で、しかも一夜にして地魔術で作り上げた城だそうだ」
「ひ、一人で!?」
「そ、それも一晩でだなんて」
俺とセレナがそう答えると、リズは「人知を超えた存在だな」と続き、フリードは「す、すごい」と言葉を漏らした。
「それ以降は、補修作業程度だそうだ。まったく恐れ入るよ」
マーリンさんは困ったように笑って言うが、恐れ入るなんてもんじゃない。
これほどの規模、これほどの精度の魔術がこのように存在するなんて……
俺がそう思っていると、マーリンさんが言う。
「さぁ。進もう。まだ少し歩くからな。はぐれないようについて来てくれ」
静寂の通路に、俺たちの足音だけが響く。
歩くこと十数分。
騎士団員が守る大きな鉄扉の前でマーリンさんが止まる。
「ここだ。中に入ったら私の真似をすればいい。あとは王が退室されるまで、跪いて受け答えをするだけだ」
マーリンさんはそう言って俺たちの表情を見渡すと、騎士団員に「開けてくれ」と指示を出した。
目に飛び込んできたのは煌びやかなステンドグラスに彩られた神々しい空間。
赤い絨毯の続く先に、大きな玉座。
そこには濃藍色の髪と瞳の青年が座っていた。
まだ十代だろう。
細身で小柄。
俺と、そう歳の変わらないウィザードに見える。
しかし、滲み出ているマナの量が、この人が生きる伝説。
魔術を統べるものと謳われるダンテ・フォン・ルシフェール王その人であることを物語っている。
雰囲気に飲まれそうになるが、マーリンさんが進み始めたため、慌てて続く。
両壁際には、騎士団員と、様々な体格、様々な服装の貴族や従者たち。
知っている顔はゴウゼンだけ。
視線を浴びながら進み、マーリンさんに合わせて立ち止まり、そして跪く。
「遠距離攻撃部隊!部隊長マーリン・ゼノフォード!アンギフテッドの一団をお連れしました!」
「ああ。ご苦労。君たちも楽にしてくれ。私はダンテ。まずは名を聞こう」
ダンテ王にそう言われ、俺たちは顔を上げ、跪いたままで答える。
「私はアンギフテッドのパーティリーダー。ウィザードのルークと申します」
「プリーストのセレナです」
「ウォ、ウォーリアーのリズです」
「アーチャーのフリードです」
俺たちが名乗り終えると、ダンテ王が言う。
「実にユニークな集まりだね。ゴウゼンから聞いた通りだ」
ダンテ王は俺たちの顔を見渡してから、さらに続ける。
「ケルベロスの討伐時に逃したオルトロスを撃破。死人を出さずに村を救った。この活躍と功績を評価して、特別にシルバーランクへの昇格を」
ダンテ王がそう言うと、脇にいた女性がこちらに向かって歩いてくる。
「さぁ立て。そしてプレートを出すのだ」
俺たちは言われるがまま立ち上がり、鉄板の着いたネックレスを首から外した。
すると女性がそれを回収。
代わりに銀板の着いたネックレスを俺たちの首にかけてくれた。
「よく似合っているぞ」
ダンテ王がそう言い、拍手をすると、謁見の間を拍手が包んだ。
耳と目を刺激する幸福感に、鳥肌が立つ。
今までこれほど満たされる感覚に見舞われたことはない。
拍手が鳴り止むと、ダンテ王が言う。
「次にクエスト報酬だ。依頼分に加え、クラウドフォックスとオルトロスの討伐報酬も上乗せしてある。受け取れ」
ダンテ王がそう言うと、別の女性が布袋を持って歩いてきた。
「ありがとうございます」
代表して俺が会釈をしてから受け取る。
すると再び拍手が起こる。
女性が戻り、拍手が鳴り止むと、ダンテ王が笑みを浮かべて言う。
「そのままでよい。答えよ。一人ひとつ。褒美に何を望む?」
「はっ。代表して申し上げます。願いは三つ。より貢献するために、優れた装備と魔物や植物の図鑑を頂きたく存じます」
俺がそう答えると、ダンテ王はゴウゼンを見て言う。
「ゴウゼン。本日中に図鑑を届けさせる。この者たちに渡してくれ」
「はっ!」
ダンテ王の言葉に、ゴウゼンは跪いて短く、はっきりと返事をした。
「それと、腕のいいスミスを紹介してやってくれ。素材には今回討伐したオルトロスを……いや、ケルベロスを与える。費用はすべてこちらで負担する」
「はっ!承知しましたっ!」
こんなに畏まったゴウゼン初めて見た。
俺がそんなことを思いながら見ていると、ダンテ王は俺を見て言う。
「三つと言ったな。残りの一つは何を望む?」
「はっ!この度、オルトロスが現れた農村は貧しく、冒険者に依頼を出すための資金繰りが大変だったと話していました。とても上質な野菜です。高値で買い取れるようにご一考いただけないでしょうか?」
俺の言葉に、どこからか聞こえてくる。
「き、貴様ら!陛下に対してそのような交渉!無礼と思わんのかっ!」
「まったく。これだから冒険者という輩は……」
その言葉に、ダンテ王は冷たく言う。
「今言葉を発した者は、己の浅慮を恥じよ。この者たちは、自らの私腹を肥やすためではなく、村を豊かにするために言っているのだぞ。実に素晴らしいことではないか」
その言葉に、視線を向けられたものが委縮する。
「すまなかった。村民の意向を聞き、適切に処置しておくことを約束しよう」
「はっ!ありがたきお言葉!」
俺がそう言って跪き、仲間たちが続く。
「うむ。ではこれにて閉幕。マーリン。その者たちを城門へ案内してやってくれ」
「はっ!」
王が退室し、それに合わせて両脇にいた者たちが解散していく。
「我々も移動しよう」
俺たちはマーリンさんと共に城を出て、冒険者ギルドへと向かった。
城内のある部屋。
闇に包まれ、笑みを浮かべる者がいた。
「くくく。面白い者たちが現れたものだ。これもルミナスの導きか?くくく。無駄なことを」
その者の、底知れぬ思惑をまだ誰も知らない。




