第49話:報酬
オルトロス討伐から二日後。
俺たちは様子を見に冒険者ギルドへとやってきた。
「こんにちは。少しは落ち着きましたか?」
「皆さん!ちょうどよかったです!少し待っててくださいね!」
フレイはそう答えると、奥に走って行き、すぐに戻ってきた。
「どうぞこちらへ!」
俺たちは奥の部屋に案内され、中に入るとゴウゼンと見知らぬ女性がいた。
服装と杖、体格からして騎士団のウィザード。
整った綺麗な顔立ちに、美しく波打つ緑色の髪。
澄み渡る湖のような品のある碧色の瞳。
たしか、凱旋時にゴウゼンと話をしていた人だな。
「いいところに来たな。まぁ座れ」
俺たちがソファーに座ると、ゴウゼンが口を開く。
「すまなかったな。あの村で死者が出なかったのは、お前たちが居合わせてくれたおかげだ。改めて礼を言う」
ゴウゼンはそう言って頭を下げた。
「気持ちは受け取っておくよ。それでそちらの方は?」
俺がそう言って視線を向けると、見知らぬ女性が口を開く。
「私はグランダルム騎士団で部隊長を務めているマーリン・ゼノフォードという者だ」
「ぶ、部隊長!?」
「そ、そんな凄い方だとは存じ上げず……」
フリードとセレナが驚くのも無理はない。
グランダルム騎士団は、近接攻撃部隊と遠距離攻撃部隊。
そして支援部隊の三部隊からなる数千人規模の騎士団。
実力はゴウゼンと同等か、それ以上だろう。
「俺はルーク」
「セ、セレナです」
「リズだ……です」
「ぼ、僕はフリード」
俺たちがそれぞれ名乗ると、マーリンが言う。
「そう硬くならないでくれ。実はちょうど今、君たちへの報酬の件で話していたところなんだ」
「本題に入る前に、まず今回の騎士団と冒険者合同の大規模討伐について説明しておく」
ゴウゼンによれば、ベヒーモス大陸に生息しているオルトロスの上位種。
ケルベロスという強力な魔物の出現が原因だったそうだ。
通常、ケルベロスは群れに一体だけ。
しかし、今回は三体のケルベロスが、それぞれオルトロスを従えてルミナス大陸とベヒーモス大陸の間にある防魔砦を襲撃。
群れの一つが防魔砦を越えて、ルミナス大陸に侵入したため、緊急事態として合同での大規模討伐が行われたそうだ。
「防魔砦は我々騎士団が管理している。実に情けないことだ」
マーリンはそう言って深く頭を下げた。
「頭を上げてください。それで逃れてきたのが、俺たちが倒したオルトロスってことか?」
「ああ。そう言うことだ」
俺が尋ねると、ゴウゼンはそう答えた。
「言い訳と説明は違う。ちゃんと話してくれ。あんたが《《あの程度》》の魔物を仕留め損ねるわけがない」
俺がそう尋ねても、ゴウゼンは口を開かない。
その様子を見てマーリンはため息をついてから言う。
「まったく……強情な男だ。君の察した通り、彼が仕留めそこなったわけではない」
マーリンによれば、ゴウゼンは最前線でケルベロスを打ち取った。
オルトロスを逃す原因となったのは、後衛にいた某冒険者パーティ。
あろうことか、援護の矢を放つことなく、持ち場を離れて、倒れた魔物の素材集めに躍起になっていたそうだ。
「な、なんて馬鹿なことを……」
同じアーチャーであるフリードは、呆れた表情で言った。
「攻撃の薄いその部隊の所から、逃げて来たのがあのオルトロスってことか」
俺はそう言ってから「そんなこったろう思ったよ」と続け、ゴウゼンを見た。
するとゴウゼンは腕組みをして言う。
「ふん。冒険者の責任は、長である俺の責任だ」
「責任感が強いのはよいことだが、説明はきちんとするものだ」
マーリンはそう指摘してから、俺たちを見て言う。
「ここからが本題だ。君たちが倒したオルトロスは、群れの中でもかなり強い部類だった。アイアンランクが倒せる相手じゃない」
おそらくこの後に続く言葉は「どんなイカサマをしたんだ?」の様に実力を否定する言葉。
才能に恵まれぬ者だから。
俺がそう警戒していると、マーリンが続ける。
「君たちの活躍をダンテ王が高く評価されている。直接、報酬をお渡しになるそうだ。早速で悪いが、明日城に来てくれ」
「「「「え?えええええ?」」」」
俺たちの様子を見て、ゴウゼンは「綺麗にハモるじゃねぇか」と茶化してきた。
「ダ、ダンテ王に会えるってことか?」
「ああ。そうだ。謁見の間にて、望みの報酬を尋ねられる。即答できるように考えておいてくれ。もちろん常識の範囲でな」
マーリンの返答を聞き、震えが止まらない。
ダンテ・フォン・ルシフェール王。
魔術を統べる者と称されている、勇者パーティで後衛を務めた伝説のウィザード。
まさかこんなに早く会えるなんて……
「どうした?ビビってんのか?」
「う、うっせぇな……俺はウィザード。夢は大英雄になること。そんな奴がダンテ王に会えるとなって、緊張しねぇわけがねぇだろ!」
ゴウゼンの言葉に俺がそう答えると、マーリンは「ちなみに、今パッと浮かぶ希望はあるか?」と尋ねてきた。
「え、えっと……そうだな……オルトロスの素材を使った装備かな。とくにリズの双剣とフリードの大弓」
俺がそう答えると、マーリンは視線をセレナたちに移した。
「私は……ま、魔物や植物がたくさん載っている図鑑がいいです」
「あ、あたしも装備だな」
「矢を安く作ってくれる鍛冶屋を紹介してほしいです」
全員の答えを聞き、マーリンが笑い声をあげる。
「ははは。まさか揃いも揃って金や地位を望まないとはな」
「「「「それは自分で手に入れるものですから」」」」
マーリンの言葉に、俺たちが言葉を合わせると、マーリンは目を丸くした。
そしてゴウゼンを見て「君が彼らを気に入る理由がわかるよ」と言った。
「うっせぇ。別に気に入ってねぇよ」
「明日、早朝。君たちの宿に迎えを向かわせる。寝坊しないような」
ゴウゼンの言葉を聞き流す様に、マーリンがそう言うと、フレイは「では皆さまこちらへ」と言って俺たち受付へと連れ戻してくれた。
俺たちは平静を装いながらギルドを出て、少し歩いたところで叫ぶ。
「よっしゃぁぁぁ!」
「す、凄いことになりましたね!」
「ふ、服はどうしたらいいんだ!?」
「きょ、今日は早く寝ないと!」
抑えていた感情を爆発させ、話しながら宿に戻る。
報酬を考え、宿の風呂を借り、日が暮れる前にベッドに入る。
そして眠れないまま朝を迎えた。




