第48話:凱旋
落とし穴の杭に刺さり、もがき苦しんでいた氷炎の二頭大狼も、やがて絶命。
村人たちは大歓声を上げ、喜びを分かち合う。
俺たちは、すぐにセレナの元へと駆け寄る。
「大丈夫か?」
「す、すみません。マナ切れで……」
俺が手を差し伸べると、セレナはそう言いながらゆっくりと立ち上がった。
「まったく。無茶をする」
「三人同時に回復魔術をかけるなんて驚いたよ」
リズとフリードが笑顔でそう言うと、セレナは「負けてられませんから」と答えた。
きっと役立っていることが嬉しいのだろう。
「お陰で勝つことができたよ。リズもフリードもかっこよかったぜ」
「へへへ」
「ルークもね」
喜びもつかの間。
ガサガサッ!
森から音がして戦慄が走る。
「嘘だろ!?」
「も、もう矢が残ってないよ!」
咄嗟に、俺は拳を炎で覆い、フリードは長槍を構えた。
「や、やるしかない!」
「わ、私だって!」
リズが石の双剣にマナを流し込み、セレナは杖を強く握る。
ガサガサッ!
ガサガサガサッ!
緊張が走る。
「ん?お前らこんなところで何してんだ?」
すると森から出て来たのはゴウゼンだった。
「か、勘弁してくれよ」
「ゴウゼンさん……」
俺とセレナがそう言うと、リズは「お、驚かせるんじゃない!」と怒り、フリードは大きく安堵のため息をついた。
「いったい何だってんだ」
ゴウゼンは、そう言いながら俺たちや村人、そしてコンキツネなどの死体を見渡した。
「お、おい!クラウドフォックスじゃねぇか!しかもデカい個体だな!お前らが倒したのか!?」
驚くゴウゼンを見て、俺たちは顔を見合わせた。
そして代表して俺が落とし穴に視線を移しながら言う。
「そこにもっと大物がいるぜ」
「ん?大物?こ、こいつは!」
ゴウゼンはゆっくりと近づき、声を上げた。
「お、お前らが倒したのか!?」
「ああ。俺たちだけじゃない。みんなで力を合わせてなんとかな」
俺はそう答えてから、経緯を説明した。
すると、ゴウゼンの表情はどんどん深刻な物へと変わっていった。
「状況はわかった」
「ど、どうしたんだ?」
俺がそう尋ねると、ゴウゼンは何も答えず、大剣を納め、村人たちの前に立った。
「私は冒険者ギルドの長。ゴウゼンと申します。この度は、村にご迷惑をおかけし、誠に申し訳ございません」
ゴウゼンはそう言うと、村人たちに深く頭を下げた。
そして顔を上げ、説明する。
「この魔物は我々が大規模な討伐を行う中で、仕留めそこなった魔物です。村民に死者が出なかったことがせめてもの救いです。後日、必ずお詫びをさせて頂きます」
言い訳もなく最小限の説明。
そして深い詫びの言葉。
村人を代表して老人が「わかりました」とだけ返事をする。
他に責める言葉は出なかった。
「お前たちにも迷惑をかけた。もうすぐ他の連中も駆けつけてくるはずだ」
ゴウゼンの言葉通り、すぐに騎士団や他の冒険者たちがやってきた。
総出で、俺たちが倒した魔物を回収。
村人たちに挨拶を済ませ、クエスト羊皮紙にサインをもらう。
そして、俺たちも一緒に荷車に乗せてもらい、明け方にグランダルムへ凱旋。
巨大な門が開いての入門は、圧巻の光景だった。
「やっと戻って来れたな」
長い夜だった。
俺はそう思いながら、疲れて眠る仲間たちの寝顔を見て、安堵した。
「止まれぇ!」
大通りに着いたところで、号令がかかり全体停止。
「ん、んんー。着いたのか?」
リズが伸びをしながら言うと、その隣ではセレナとフリードが大きなあくびをした。
「ああ。もうギルドの傍だ」
俺はそう答え、先頭を見た。
するとそこでは、ゴウゼンが騎士団のウィザードの女性と、何やら話をしていた。
騎士団員の中でも上位の立場にありそうな人だな。
何を話してるんだ?
様子を見ていると、話し終わったゴウゼンが、隊列に向かって声を上げる。
「よし!野郎ども!降りろ!俺たちの仕事はここまでだ!」
ゴウゼンに言われ、俺たちは馬車を降りて、徒歩でギルドへと移動。
中に入ると、ゴウゼンが言う。
「報酬は三日後だ!受付に取りに来い!今日は生還者の確認だけだ!」
ゴウゼンはそう言うと、受付にいくつかのプレートを渡してから、奥の通路へと歩いて行った。
「あのプレートって……」
「ああ。おそらく討伐に失敗した冒険者のプレートだろうな」
セレナの言葉に俺がそう答えると、受付でフレイが声を上げる。
「皆さん!どうぞお並びください!」
その言葉で、全員が並び、順にプレートを見せて生還報告を済ませていく。
見ればわかる。
表情が明るいパーティは、全員揃っての生還報告。
表情が暗いパーティは、おそらく死者が出ているのだろう。
様子を見ていると、俺たちの番が来た。
「み、みなさん!?どうして大規模討伐の部隊と一緒に!?」
「あ、ただいまです。ちょっと色々ありまして」
驚くフレイに俺は事情を説明した。
「そ、そんなことが……わかりました」
フレイはそう言うと、周りを見渡した。
「すみません。今この状況ですので、クエスト完遂処理は進めておきますが、報酬は後日とさせてください」
「わかりました。とりあえず二、三日休んだら様子を伺いに来ますね」
フレイの言葉にそう答えてから、俺たちは受付を後にした。




