第47話:氷炎の双頭大狼 -オルトロス-
慌てて振り返ると炎に照らされた森から、巨大な双頭のオオカミが姿を現した。
深く暗い紫色の体毛に覆われ、片方は赤い瞳、もう片方は青い瞳をしている。
その魔物は炎をものともせずに、悠然と跨ぎ、涎を垂らしながら俺たちに近づいてきた。
頭の位置がフリードよりも高く、身体は荷馬車よりも大きい。
あまりの光景に、俺たちは思考を奪われ、立ち尽くしてしまった。
次の瞬間。
「きゃぁぁぁぁっ!」
家から様子を見に出てきた女性が叫び声を上げる。
その声を開戦の合図とするかの様に、一斉に時が動き出す。
巨大な双頭のオオカミは、身を竦めると、赤い瞳側の口から炎を揺らめかせた!
「セレナァ!」
咄嗟に俺がそう叫ぶと、セレナがすかさず防御魔術を発動。
オオカミが音を立てながら吐き出した炎を、光の壁が遮った。
「ガルッ!?」
防がれたことに驚いている!?
こいつかなり高い知性があるぞ!
「う、動けぇ!」
セレナのおかげで命拾いした。
安堵するよりも、礼を言うよりも、先に俺は叫んだ。
「うわぁぁぁっ!」
「逃げろぉぉっ!」
村人たちが長槍を捨て、一目散に家へと走って行く。
それを巨大な双頭のオオカミは目で追うが、そうはさせない。
俺たちは気を引くために、少しでも村人たちが逃げる時間を稼ぐために、スキルを発動。
俺は拳に雷を纏わせ、リズは迸るマナを身体と石の双剣に圧縮。
フリードは弓と矢にマナを込め構えた。
俺たちの様子を見て、巨大な双頭のオオカミも臨戦態勢に入る。
すると、俺たちの後方へと移動したセレナが小声で言う。
「お、おそらく、オルトロスという魔物です。赤眼からは炎、青眼から冷気を吐き出す強力な魔物です」
そしてセレナは「だ、大規模討伐の魔物リストに載っていました」と続けた。
大規模討伐の魔物?
こっちに逃げてきたってことか。
ってことは、相当強いんだろうな。
でも……
「歯牙に掛けたってことは、俺たちに脅威を感じてるってことだ」
俺はそう言い、拳の雷を強めた。
出し惜しみは無しだ。
今!
俺が決死の覚悟で青眼側へと駆け出すと、リズが合わせて赤眼側へと間合いを詰める。
すかさず、フリードは首の付け根へと矢を放つ。
「ガルゥッ!ガァル!」
俺たちが二手に分かれたことで一瞬戸惑ったが、オルトロスは赤眼側で矢を噛み砕き、青眼側から冷気を吐き出した。
俺は素早く外套に包まり防御した。
「ルークさんっ!」
「「ルーク!」」
「大丈夫だ!青眼は俺に任せろ!」
氷属性への高い耐性を持つダークベアー装備で助かった。
俺は霜を払うように外套を叩き、オルトロスを見た。
「セレナ!炎を防ぐことを最優先に頼む!」
「はい!」
俺はそう指示を出し、狙いを定めさせないために、オルトロスの後ろ脚の方へと移動。
青眼側が俺を追おうとしたことで、赤眼側が引っ張られる。
「ガルゥッ!」
「ガァルッ!」
すると、赤眼と青眼がいがみ合い始めた。
何とも不思議な光景だが、今のうちだ。
俺は地魔術を発動。
穴の空いた石を作り出し、燃えるロープを結び付けて思い切り投げつけた。
するとオルトロスは、素早く尾を振り、ロープを切り裂く。
とんでもなく強力な尾と強靭な体毛だ。
リズもチャンスを逃さず、駆け抜けるように前脚に連撃を入れるが、クラウドフォックスの時と同じように体毛に阻まれてダメージには至らない。
そんな中、唯一ダメージを与えたのがフリード。
リズが攻撃を仕掛けた隙に、地を這うように矢を放ち、急上昇させて体毛の薄い内腿へと突き刺した。
「ガルゥッ!ガァルッ!」
怯んだ!
「リズ!尾を頼む!俺は顔!フリードは確実にダメージを稼いでくれ!」
「「わかった!」」
俺は氷結息を引き付けつつ、投擲。
時折、噛みつきを躱しざまに雷の拳をお見舞いする。
炎はセレナが防ぎ、尾の斬撃のような強力な攻撃をリズが《《いなす》》。
そして、出来た隙を逃さずにフリードが矢を突き刺してゆく。
様々な攻防を繰り返し続けること数分。
七本……八本……
どんどんと内腿に刺さる矢が増えていき、オルトロスの機動力が徐々に下がり始めた。
しかし、致命傷には至らない。
もう一手。
もう一手何かないか。
時間がない。
後方からはセレナの息遣いが聞こえてきている。
フリードの矢も残り少なくなってきている。
俺もリズも、いつまでも攻撃を躱しきれない。
ロックボムはあと二つ。
絶対に無駄にできない。
落ちつけ!考えろ!
焦りの中、俺は赤眼の喉元に傷があることに気が付いた。
肉が見えて血が滲んでいる。
おそらく大規模討伐で負った傷だ。
「フリード!赤眼の喉を狙え!」
俺は長槍を拾い、そう叫びながら一直線に赤眼側に向かって走った。
「ガルゥッ!ガァルッ!」
双頭で俺を噛み砕こうとするが、それを俺は地面に長槍を突き立て、オルトロスの頭上へと大跳躍。
素早くロックボムへと着火。
俺を見上げてたことで、露わになった喉元の傷口へ、フリードが射抜く。
「ガルゥッ!?」
オルトロスが怯んでいる頭付近に、俺はロックボムを投げつけ、地面に転がり落ちた。
直後。
俺が地面にはいつくばっている間に、ロックボムの炸裂音が響き渡る。
俺は無理やり立ち上がり、さらにもう一発。
後ろ脚へと投げつけた。
炸裂音が響き渡り、業火がオルトロスを焦がす。
後ろ脚が歪むオルトロスを見て、俺は叫ぶ。
「この機を逃すなぁぁ!」
俺は数本の長槍を手に持ち、叫びながら突進するようにして長槍を突き立てた。
フリードは残りの矢を放ち終えると、俺の目的を察知したのか、長槍を持って走ってきた。
そして体格と体重を生かし、オルトロスに突き立てた。
オルトロスの体毛は硬く刺さりにくい。
さらに筋肉の密度が高く、体毛を超えたとしても肉に深く刺さることはない。
「押せぇぇっ!」
「うおぉぉっ!」
俺とフリードが声を上げながら押し込む。
そこへオルトロスの尾が襲う。
「させるかぁぁっ!」
すかさずリズが間に入り、石の双剣をハサミの様に交差させて、尾を切り落とした。
くそ……力が入らない……
もう一息だって言うのに……
俺が失敗を覚悟した時、俺たちの身体を暖かな光が包んだ。
セレナの回復魔術!?
しかも三人同時に!?
体力が回復して力が漲る。
「「「うおぉぉぉっ!」」」
「ガルゥッ!?ガァルッ!?」
俺たちの力が増し、オルトロスが驚きの声を上げると同時。
ドサッ!
後方で何かが倒れる音がした。
「セレナ!?」
俺がそう叫びながら振り返ろうとすると、すぐさまセレナが言う。
「だ、大丈夫です!ゲホゲホッ!しゅ、集中を!」
そう言われ、俺たちは雄叫びを上げながら、花の位置までオルトロスを押し込み続ける。
すると家から村人たちが飛び出してきた。
「待ってろよ!今行く!」
「お、俺たちの村だ!俺たちも戦うぞ!」
自分たちを鼓舞するように長槍を手に叫び、走ってきてオルトロスに突き立てて行く。
「この村は、儂の全てなんじゃ!魔物なんぞにやられてたまるかぁ!」
「「「おおおおおおおっ!」」」
老人の言葉に呼応するように、村人たちが声を上がる。
「リズ!そっちを頼む!」
「まかせろ!」
フリードと村人たちに押し込み役を任せ、俺とリズはスキルを発動。
俺は渾身の力を込めて、雷の拳で前脚付近を連打。
リズはマナを圧縮した石の双剣で、後ろ脚付近に超連撃。
「「「うおぉぉっ!」」」
俺たちは雄叫びを上げながら押し込み、なんとかオルトロスを落とし穴へ落とすことに成功した。




