第46話:クラウドフォックス
準備を終えて、村人が作ってくれた野菜のスープを飲んでから小休憩。
子供たちは、一番大きな民家に集めて寝かせた。
屋内の守りは老人と女性陣に任せ、残り全員でトマト畑に息を殺して身を潜める。
村人の手にはフリードが用意してくれた木製の長槍を持たせた。
カタンカタンカタンカタンッ!
待つこと十数分。
鳴子が強く鳴り響いた。
徐々に足音と獣の息遣いが聞こえてきた。
緊張が走る。
すぐ傍にいた村人が震えているため、俺は小声で「作戦は伝えた通りです。怖かったら、穴に落ちた魔物を突き刺すことだけ考えてください」と声をかけた。
震えた声で「は、はい」と返事をする村人。
さらに緊張を高めるように、森の入り口が音を立てる。
ガサガサッ!
ガサガサガサッ!
飛び出して来たのは、コンキツネとモフモフォックスが十数体。
想定よりも少し多いが、それはいいとしてクラウドフォックスの姿が見えない。
様子を見ていると、一匹のコンキツネがトマトに近づき、一齧り。
怒りのままに長槍で突き刺そうとする村人を、俺が慌てて止める。
「なぜだ!?」と言わんばかりに俺を見る村人に、俺は人差し指を口元に添えて静かにするように伝えた。
すると、トマトを齧ったコンキツネが遠吠えを上げる。
その声を聴き、視線を森に向けると、ゆっくりと魔物が現れた。
月明かりに照らされ、美しく煌めく垂れ下がった白く長い体毛。
三つ股に割れた尾。
気品すら感じられる顔立ちと赤い瞳。
これがクラウドフォックスか。
かなりでかいな。
俺と同じくらい体高がありそうだ。
ゆっくり畑に近づくクラウドフォックス。
まだだ。
まだ早い。
クラウドフォックスが、あと数歩でトマトを齧れるということで俺が叫ぶ。
「今だ!」
「「うおおおおおおおっ!」」
リズはスキルを発動しながら先頭をかけてクラウドフォックスに迫る。
村人は雄叫びを上げ、長槍を突き立てながら畑から飛び出す。
コンキツネとモフモフォックスが数体刺さりもがく。
それを他の村人が槍を突き立てて止めを刺す。
その光景を横目に、俺はリズの後を追う。
「ッ!?」
リズが畑から飛び出し、石の双剣を振るうまでの数秒の間に、クラウドフォックスは水魔術を発動。
辺りが水蒸気で覆われてしまった。
「くそ!どこだ!」
リズの言葉から、剣が空を切ったことが分かる。
「フリードォォォッ!」
俺は叫びながら風魔術を発動。
少しでも水蒸気を晴らすために、手から送風を起こす。
そして村人には同士討ちを防ぐために「ゆっくり下がって畑の中に戻れ!」と叫んだ。
離れた所で身を潜めていたフリードが、矢に火を灯して溝の藁に打ち込み着火。
すぐさま森側が明るく照らされる。
すると、明るくなった方向から微かに「コーンッ!」という鳴き声が聞こえた。
炎!あっちが森側!
俺は瞬時に「リズ!伏せろ!」と叫び、ロックボムを炎で照らされている方向の上空へと投げた。
ロックボムの炸裂で、徐々に水蒸気が晴れ、クラウドフォックスの姿が見えて来た。
「見つけたぞ!」
リズがそう言いながら閃光の様に詰め寄り、石の双剣の連撃を浴びせる。
少しだけ持ちこたえてくれ!
俺はリズに加勢したい気持ちを抑えて風魔術を発動。
村人の傍に残っている水蒸気を飛ばして視界を作った。
「今だ!」
「「うおぉぉぉぉっ!」」
村人が、再び雄叫びを上げながら、畑から飛び出し槍を突き立てる。
取り乱したコンキツネとモフモフォックスたちは、次々に突き刺さっていく。
数匹が長槍を逃れるが、それをフリードが正確に打ち抜いてゆく。
振り返ると、リズとクラウドフォックスが戦闘中。
リズが舞い踊るように、クラウドフォックスの牙や爪を躱しながら、石の双剣を打ち据えているのが見えた。
しかし、石の双剣の切れ味では、打ち据えているだけ。
長く強靭なクラウドフォックスの体毛に阻まれて切り傷を与えられていない。
俺はリズとは逆方向から接近。
拳に雷を纏わせ、クラウドフォックスに殴る。
雷属性のダメージで怯むクラウドフォックス。
俺はクラウドフォックスの足元にロックボムを置き、リズに駆け寄り叫ぶ。
「セレナァッ!」
「はい!」
俺たちとクラウドフォックスの間に光の壁が生まれた次の瞬間。
ロックボムが炸裂。
爆炎と轟音がクラウドフォックスを襲った。
「や、やったか?」
「いや、まだ息がある。近づくのは危険だ」
リズの言葉に俺はそう答えてからフリードを見た。
するとフリードは察して、クラウドフォックスの額を打ち抜いた。
荒い呼吸音がなくなり、動いていた腹部が止まる。
クラウドフォックスの絶命を確認してから畑の方を見ると、コンキツネとモフモフォックスも全滅。
どうやら『雄叫びで怯ませて、長槍で突き刺す作戦』は大成功の様だ。
「か、勝ったのか!?」
「お、俺たちが倒したんだ!」
「やったぞぉ!」
村人が口々に感動を言葉にする。
その光景を嬉しく思い見ていると、フリードとセレナが近づいて来て言う。
「うまくいったね」
「ルークさん作戦通りでしたね」
その言葉を聞き、俺は「それぞれが役割を命がけで果たした結果。皆の勝利だ」と答えた。
そして俺はリズを見て言う。
「グランダルムに戻ったらすぐに双剣を買わないとな」
「そうだな。気に入っていたが、刃が通らないのは流石に困る」
俺が笑顔で言ったため、リズも笑顔でそう答えてくれた。
そして村人たちと喜びを分かち合っていると、老人が家から出て来た。
「窓から覗いておったが、実に見事な戦いじゃったぞぉ!」
走りながらそう声を上げる老人に、俺は「村長さん。転ぶと危ないですよ」と答えをかけた。
突如。
森から葉が揺れ、枝が折れるような音が響き渡る。




