第44話:お人よし
「一番多いのはここ。次に多いのはあっちのはじゃ」
老人が案内してくれたのはトマト畑。
そして指さしたのはトウモロコシ畑だ。
「決まって夜になると荒らしに来よるんじゃ」
「わかった。リズとフリードであっちを見てきてくれないか?」
俺がそう言うと、リズとフリードは頷き、村人の一人が二人を案内してくれた。
「こっちはこっちで情報収集だ」
「はい!」
俺とセレナは並んでしゃがみ、足跡と齧られたトマトを見る。
「小さい足跡と、それよりも一回りくらい大きな足跡があるな」
「はい。齧られているトマトも、小さな齧り跡と、少しだけ大きな齧り跡のものがあります」
俺たちはさらに続ける。
「こっちの茶色の体毛はモフモフォックスだよな?」
「ええ。こっちの黄色っぽい体毛がコンキツネです」
クエスト内容と、魔物の情報は一致している。
しかし、不可解な点がある。
それは、二種類の小さな足跡の数倍ある大きな足跡と、白くて長い体毛が落ちていることだ。
「白くて長い体毛……肉球のある魔物……コンキツネとモフモフォックスの群れ……」
セレナは情報を整理するように呟くと「思い出しました。クラウドフォックスという魔物です」と言った。
「クラウドフォックス?」
「はい。水魔術で水蒸気を発生させ、姿をくらませる厄介な魔物です。頭がよくて統率能力もあるので間違いないかと」
俺の質問に、セレナは端的にそう答えてから「図鑑に載ってました」と笑顔で続けた。
「頼りになるよ。教えてくれてありがとう」
俺はそう言ってから立ち上がり、老人に尋ねる。
「討伐依頼のあった魔物はモフモフォックスとコンキツネでしたが、実際に目撃はしたんですか?」
「い、いや、見とらん。あ、ああ、あ、朝見回りに来たらこの有り様でのぉ」
ん?
なんだ?
明らかに動揺してるぞ……
俺が確認を深めようと口を開くと、言葉にする前にリズとフリードが戻ってきた。
「おーい!ルーク!セレナ!聞いてくれ!明らかに大きな足跡と白い体毛があったんだ!」
リズはそう言いながら歩いてきた。
そしてフリードは傍に来てから「クエスト依頼外の魔物もいるんじゃないかなぁ」と言う。
「ギクゥッ!」
「じいさん……今『ギクゥッ!』って言った?」
俺が尋ねると、老人は思い切り首を横に振る。
「いや、言っただろ」
「あ、明らかに言いましたね」
リズとセレナがそう言うと、フリードは「今のを誤魔化そうとする根性は凄いね」と続く。
「んで?何か知ってることがあるんだろ?」
俺がそう言いながら白く長い毛を見せた。
すると老人も村人たちも、視線を向けられたものは皆一様に首を横に振り始めた。
「はぁ……なぁ、じいさん」
俺がため息をついてから呼ぶと、老人は口を両手で押さえながら体をびくつかせた。
いや、別に「ギクゥッ!」って言わなきゃ良いって問題じゃないんだよ。
そして老人は平静を取り繕いながら言う。
「な!ななな、なんじゃ?」
「俺たちに何か隠し事してないか?」
俺が老人の目を見ながら尋ねると、老人は「うっ……な、なにも隠しとらんぞ!」と答えた。
どうも怪しい。
そう思い全員でじっと見続ける。
老人が目を反らしたから、俺たちは村人に視線を移した。
すると村人たちも目を反らす。
「そうか。好きにしてくれ。俺たちの受けた依頼はモフモフォックスとコンキツネの討伐だ。他の魔物が出ても対処する必要はない。それであってるよな?」
俺がそう言うと、老人は「そ、そんな……」とだけ答えた。
さらに俺は続ける。
「例えば仮にだ。クラウドフォックスとか他の魔物が出た場合、俺たちは討伐しない。モフモフォックスとコンキツネだけを討伐して帰る」
そして俺はさらに続ける。
「その場合、クラウドフォックスは後日この村に報復に来る可能性がある。今隠し事をしていると、取り返しのつかない事態になるが、それでもいいってことだな?」
「ぐぬぬ」
俺の問いに、老人は黙り、村人たちも目を反らしたまま。
するとセレナが言う。
「私たちはアイアンランク。クラウドフォックスは、ブロンズランクやシルバーランクの冒険者パーティーが挑む魔物です。もし存在を知っているのに隠して依頼したのであれば、冒険者の暗殺を企てたに等しい行為です」
そしてセレナは「そうではないと信じていますので、どうか本当のことを教えてください」と続けた。
セレナの真っ直ぐな言葉と瞳に、老人は「す、すまなかった」と答えた。
「そこまで考えておらんかった。すまない。この村には、これ以上出せる金がなかったのじゃ」
老人がそう言うと、村人たちも口々に謝罪を言葉にして頭を下げた。
「た、頼む。なんとか助けてくれ。金は出せんが野菜でよければたくさんある!丹精込めて作った野菜じゃ!」
まったく……どうしたもんかな。
俺の一存じゃ決められないし、ギルドにも報告しないといけないし……
俺がそう思いながら仲間を見ると、三人ともが笑顔で頷いてくれた。
本当にお人よしの仲間たちだ。
俺は嬉しさを抑えながら、険しい表情を作ってから言う。
「じいさん。俺たちの受けた依頼は、モフモフォックスとコンキツネの討伐だ」
俺がそう言うと、老人や村人たちの表情は暗くなる。
「だからといって困ってる人を見殺しにはできない。勝てるか分かんねぇけど、やれるだけのことはやってみるよ」
俺がそう言ってから「ギルドには帰り道に遭遇したって報告して誤魔化しておく。その代わり、少しは一緒に戦ってもらうぞ」と続けた。
「ああ、わかった!感謝する!ありがとう!ありがとう!」
明るく涙ながらに感謝を言葉にする老人に、俺は口調を丁寧に戻して「お礼を言うのはまだ早いです。準備物について説明するのでよく聞いてください」と切り出した。




