第43話:農村
初クエスト完遂から七日後の早朝。
毎日のように採取クエストを完遂し、順調に貯金が増えて来た頃。
俺たちは討伐クエストに挑戦するために、冒険者ギルドにやってきた。
自在扉を押して中に入ると、ロビーは閑散としていた。
俺たちは顔を見合わせ、不思議に思いながら受付へと足を運んだ。
「おはようございます」
「あ、皆さん。おはようございます。ちょうどよかった」
俺が挨拶すると、フレイはそう言ってから「そろそろ討伐クエストを受けてみませんか?」と続けた。
「え、ええ。いいですよ」
「丁度、今日から討伐クエストに出ようと思っていたところなんです」
俺とセレナがそう答えると、フレイは「それはよかった!助かります!」と明るい表情で答えた。
「何かあったんですか?」
「実は……強力な魔物の出現報告があったので、昨晩から大規模討伐が行われてるんですよ」
俺が尋ねると、フレイはそう答えた。
聞けば、グランダルムの遥か南東。
ベヒーモス大陸の少し手前にある村が魔物に襲われて壊滅状態。
騎士団と冒険者の合同編成で、大規模な討伐が行われているそうだ。
「居合わせたブロンズランク以上の冒険者はみんな駆り出されてしまったので、冒険者不足で困ってるんです」
「なるほど。じゃあ、先にこれ。昨日の採取クエストです。報酬ついでに、俺たちに合いそうな討伐クエストの提案をお願いします」
フレイの言葉に、俺はそう答えながら薬草などをカウンターに置いた。
するとフレイは「ありがとうございます。ちょっと待っててくださいね」と言って、デスクへと向かった。
その間に、俺は昨晩用意したロックボムや燃える水、燃えるロープなどを再確認。
フリードは弓と矢の調整を行い、リズは準備運動。
セレナは、他の受付女性から魔物の図鑑を借りて、目を通している。
少しすると、フレイは採取クエストの報酬と、クエストの書かれた羊皮紙を持ってきた。
「こちらが報酬です」
そう言われて、俺が報酬を受け取ると、フレイは早速「これなんてどうでしょうか?」と言って羊皮紙を見せてきた。
「どうでしょうかって……」
「も、もうパーティー名が書かれてるね」
俺とフリードがそう言うと、フレイは可愛らしく笑ってごまかした。
書かれていたのは、畑を荒らすモフモフォックスとコンキツネという小型モンスターの討伐クエスト。
弱い魔物だし、初回には打ってつけだな。
場所は……大規模な討伐が行われている村の遥か手前。
グランダルムから数時間程度の小さな農村。
討伐希望数は合計で十匹。
報酬は15万ダルム。
期限は四日以内。
かなり好条件な上に、素材の持ち帰りは自由なため、素材屋かギルドで買い取ってもらえば、さらに金が手に入る。
これが終われば、双剣と大弓を同時に買うことが出来そうだ。
断る理由はないな。
そう思い俺が三人を見ると、三人とも頷いてくれた。
「わかった。初めての討伐クエストだから、同時受注はしないでおくよ」
俺がそう言うと、フレイは嬉しそうに「ありがとうございます」と答えた。
「こちらこそ」
俺が羊皮紙を受け取りながら言うと、セレナは魔物図鑑を返しながら「いつもありがとうございます」とお礼を言った。
「初の討伐クエストですので、採取クエストとの違いを説明しておきますね」
フレイはそう言って流れを教えてくれた。
討伐クエストの完遂報告には二種類ある。
一つ目は、討伐の証明として指定部位を持ち帰る場合。
二つ目は、その場で依頼主に討伐証明としてクエストの書かれた羊皮紙にサインをもらう場合だ。
「今回は村に出る魔物の討伐ですので、魔物の死体を依頼主に見せてからサインをもらってください」
「わかった。もし魔物が遠くに逃げたのを追いかけてから仕留めた場合は、どうすればいい?」
俺がフレイに尋ねると、フレイは「臨機応変な対応となります」と答えた。
「りんきおうへん?」
「はい。討伐した場所に依頼主を連れて行くもよし、依頼主と信頼関係が気付けているのであれば死体を見せなくてもよしです。依頼主が納得しているということが重要です」
リズが機微を傾げながら言うと、フレイは真剣な表情で教えてくれた。
「なるほど!わかった!初の討伐クエストだ!必ず完遂させてみせる!」
「うん!頑張ろう!」
リズとフリードは意気込みを言葉にした。
「行ってきます」
フレイに会釈をして受付を後にすると、フレイは笑顔で「はい。行ってらっしゃいませ」と言って見送ってくれた。
フレイやゴウゼンがいる冒険者ギルドの本部は、グランダルムの北門付近。
そこから南下してグランダルムの中心地に向かい、大通りを巡回している馬車に乗り、数時間揺られて南東門まで移動。
プレートとクエストの書かれた羊皮紙を見せて、グランダルムの外に出る。
南東門から農村までは、荷馬車で移動。
「移動で半日。討伐で一日として、帰ってくるのに半日。二日で15万以上稼げる。フレイに感謝だな」
「ああ。そのうち礼をしないとな」
俺の言葉にリズがそう答えると、フリードが「そ、それだと賄賂とも受け取れるから規約違反になるかも」と続く。
「ふふふ。そうですね。なのでご用意いただいたクエストを連続完遂して、それを恩返しと言うことにしましょう」
セレナの言葉を聞き、俺は「そうだな。連続完遂のための第一歩だ。気を引き締めていこう」と答えた。
そんな話をしながら荷馬車に揺られること数時間。
腹が空く頃に農村に到着した。
丘と森の間にある平地に、十軒程度の民家と、見渡す限りの畑。
トマトやキュウリ、ナスにピーマンにトウモロコシが種類ごとに育てられており、少し離れた所では金色の草原のように稲が風に揺れている。
カタカタカタカタッ……
優しいそよ風で、張り巡らされた鳴子が歌う。
まるで歓迎されてるみたいだな。
聞き心地がよくて落ち着く音だ。
「思ってたよりも規模の大きな農村だな」
「う、うん。僕もそう思う。畑の規模に対して民家が少ないくらいだね」
俺とフリードがそう話していると、腰が曲がった老人を先頭に、数名の村人がゆっくりと歩いてきた。
「あんたら、冒険者か?」
老人は無愛想にそう尋ねてきた。
「はい。モフモフォックスとコンキツネの討伐に来ました」
俺はそう答えて、クエストの書かれた羊皮紙を見せる。
「パーティー名がアンギフテッド……はぁ……ハズレをつかまされたか」
羊皮紙に書かれたパーティー名を見るや否や、老人は明らかに残念そうな表情を浮かべ、さらに「まぁいい。とにかく倒してくれ」と続けた。
「今のところクエスト完遂率100%だから安心してくれ。早速だけど、被害のあった場所を見せてほしい」
俺がそう言うと、老人は「わかった。こっちじゃ……畑を荒らすんじゃねぇぞ」と言って案内してくれた。
何だこの態度。
イラっとするなぁ。
俺がそう思っていると、リズは牙をむき出しにしたオオカミの様に怒りの表情を浮かべて、セレナとフリードは困った表情を浮かべていた。




