第42話:トラウマ
街の中を進み冒険者ギルドへと入る。
昨日の朝よりも人が多く、受付が混雑している。
しばらく並んでいると「おい!そこのデカ物!」と言う声が聞こえて来た。
振り返るとそこにいたのはアーチャーと、その仲間と思われる者たち。
男性アーチャー二人に、男性ウィザード一人に男性プリースト一人。
なんて偏ったパーティーだ。
俺がそう思っていると、アーチャー同士で話し始めた。
「おい!見てみろよ!やっぱりデブリードだぜ!」
「ん?本当だ!ウサギもろくに狩れない奴がこんなところで何してんだ?」
その二人を見て、フリードは少し怯えた様子で「イディ……オット……」と呟いた。
こいつらの名前か?
俺がそう思っていると、二人のアーチャーは馬鹿丸出しで話しかけてくる。
「おい!聞いてんのかデブリード!イディ様が話しかけてんだ!何とか言えよ!」
「まさかこのオット様を忘れたんじゃねぇだろうな!」
その耳障りな言葉に、フリードは「デブリードじゃない……フ、フリードだ」と返す。
おそらくこいつらがトラウマの元凶だろうな。
よし決めた。
殴ろう。
俺がそう思い炎を拳に纏わせると同時に、リズは全身と双剣にマナを漲らせ、セレナは杖を強く握り締めた。
「お、おおお、おい!なんだよ!俺様達とやり合おうってのか!?」
「い、いいい、いいぜ!相手になってやるよ!」
慌てふためく様まで不細工だな。
「先に喧嘩を売ってきたのはお前らだろ?なに被害者面してんだよ」
「全くだ。それに遠距離特化のパーティーが、屋内でウォーリアーのいるパーティーに喧嘩を売って無事で済むと思っているのか?」
俺とリズの言葉にセレナは「フリードさんです!変な呼び方したことを誤ってください!」と続く。
「み、みんな……」
フリードがそう呟くと、下賤な二人組はさらに醜態をさらす。
「おいおい!可愛い顔してんじゃねぇか!俺らのパーティーに来いよ!」
「そんなにひょろっこくてウォーリアー?雑魚過ぎるだろ。あ、ウォーリアーなんか全員脳筋ばかりだから理解できねぇか」
この手の馬鹿は、どうしてこうも数が多いんだろうな。
遺伝子レベルで消滅してほしいものだ。
俺がそんなことを考えていると、フリードが切れる。
一人片手ずつ胸ぐらを掴み、二人を同時に宙づりにした。
そして咆える。
「ぼ、僕は自分のことを言われても、が、我慢できるけど!仲間の事を悪く言うなら我慢しないぞ!」
持ち前の剛力と体格に加えて鬼の形相。
威圧感は半端じゃない。
「じょ、じょじょ冗談じゃねぇか。な、なぁ?」
「あ、あああ、ああ。そうだぜ。フリード……本気にならないでくれよ」
言い訳をしても遅い。
俺が炎を覆った拳を構え、後方の男性ウィザードを牽制。
リズも男性プリーストに睨みを利かせた。
「そこまでだ。こんなところで揉め事は許さん」
声の主はギルドマスターのゴウゼン。
ゴウゼンは悠々と俺たちの所まで来て言う。
「話は聞いていた。お前らを咎める気はねぇが、先にスキルと発動したのはいただけねぇ」
「……その点については俺たちに非があることは認める。言い訳はしない」
ゴウゼンの言葉に俺がそう答えると、リズも「ああ。私もだ」と続く。
「そ、そうだぜ!俺たちは身の危険を感じて対処しようとしただけだ!」
「あ、ああ!悪いのはそいつらだぜ!」
その言葉を背に、ゴウゼンは俺たちに「あいつらと違って利口な対応だ」と言ってから振り返った。
そして大剣を抜かないまま、全身にマナを漲らせてスキルを発動。
巨体を覆っていた燃え盛る炎のようなマナが、一気に圧縮された。
同じ人間とは思えないほどのマナ量。
以前に俺たちを威嚇した時は、全然本気じゃなかったことがよくわかる。
これがギルドマスター。
冒険者を束ねる長の実力か。
そう思い見ていると、ゴウゼンはゆっくりと二人組に近づき言う。
「さっきウォーリアーを悪く言ったのはどっちだ!?」
すると、すぐさま見るに堪えない擦り付け合いが始まった。
下劣で無様。
下品で低俗。
人間のダメなところを寄せ集めたような奴らだな。
「生かしといてやるからとっとと消え失せろ!」
ゴウゼンの咆哮のような言葉を浴びて、アーチャー二人は立てないほどに震えて失禁。
ウィザードとプリーストに肩を借りながら、おめおめと退散した。
ゴウゼンは怒りとマナを落ち着かせながら振り返り、受付に向かって声を上がる。
「ふん。クソどもが。おい!フレイ!こいつらの完遂報告が終わったら、あいつらの情報を持ってきてくれ!」
「か、かしこまりました!」
フレイは慌ただしくデスクに向かい、書類を集め始めた。
「仲間を思ってのことだ。今回の事は不問にしといてやる」
ゴウゼンの言葉に俺が「感謝するよ」と言って会釈をすると、ゴウゼンは奥の通路へと歩いて行った。
見送り、すぐさまフリードが口を開く。
「ご、ごめ……」
言いかけた言葉を俺たちが遮る。
「謝るなよ」
「謝罪は受け取らんぞ」
「フリードさんは悪くありません」
するとフリードは「あ、ありがとう」と答えた。
「しかし、見たか?あいつらの怯えよう」
「ああ。フリードにビビり倒してたな」
俺とリズがそう言うと、セレナは笑いながら「ダメですよ。弱い人たちを笑っちゃ」とチクリと刺す言葉で続く。
「どうだ?ちょっとはすっきりしたか?」
「う、うん!凄く!」
俺の言葉に、フリードは明るい表情で答えた。
話を終えて、受付に向かうとフレイはにこやかに言う。
「おかえりなさいませ。約束通りご無事で何よりです」
「ただいま戻りました。クエストの依頼内容分がこっち。それと多く採れすぎたのでこっちの分は買取をお願いします」
するとフレイは「こ、こんなにたくさん」と驚きながら言う。
「あたしが群生地を見つけたんだ!」
「取り過ぎてはいけないと思ったので、採取は群生地の半分程度にしています」
リズの言葉にセレナがそう続くと、フレイは「素晴らしいご判断です」とにこやかに答えた。
「では全部でスベリヒユが三十個と、オオバコが二個。ハコベが一個。解毒茸が十個ですね」
フレイは数え終わると、デスクに向かい、すぐに戻ってきた。
「一番のクエスト分としてオオバコとハコベとスベリヒユを使用してクエスト完了。二番の解毒だけ十個のクエストも完了。残ったスベリヒユが二十三個あるので三番のクエストも完了です」
フレイは読み上げると、さらに続ける。
「残ったスベリヒユが十八個。ちょうどスベリヒユを十個お求めのクエストがあるので、それに当てておきますね。なので四つのクエスト完了と、残った八個のスベリヒユを買取処理します」
その言葉を聞き、俺たちは意味が分からずに顔を見合わせた。
するとフレイは「あ、この人たち、絶対に理解が追いついてない」と思ったのだろう。
俺たちを見て「あ、えっと。いい感じで処理しておきますね」と言ってくれた。
その言葉を聞き、俺たちは激しく頷き、フレイに任せることにした。
受け取った金額は締めて28800ダルム。
宿代を差し引いても、数日は食べていける額だ。
「初クエスト!無事に完遂だな!」
「ああ!やっと前に進んだ気がするぞ!」
俺の言葉にリズがそう続くと、セレナは「凄く達成感がありますね」と言い、フリードは笑顔で「うん。凄く嬉しいね」と言う。
「よし!貧乏暇なし!早速次のクエストだ!」
俺がそう言うと、フレイは「討伐クエストですか?」と尋ねて来た。
「いえ、あと数回は採取クエストに行きたいです。おすすめの提案をお願いしてもいいですか?」
「かしこまりました。少々お待ちください」
フレイは笑顔でそう言って、クエストを確認しに行ってくれた。




