第39話:出発
フレイに教わった通り北門へと向かい、門番にクエストの書かれた羊皮紙と冒険者のプレートを見せると、通行料が免除された。
入ってくるときにいた感じの悪い門番じゃなくてよかった。
初クエストで心躍ってるってのに、あいつらがいたら気分が台無しになる所だったぜ。
「たしか東の森って言ってたな」
「ああ。あそこじゃないか?」
俺が東を見ると、リズが遠くにある森を指さして言った。
「数キロくらいはありそうだな。昼までについて、すぐ見つかれば夕方には戻って来れる距離だな」
俺がそう言うと、セレナが真剣な表情で「いえ。戻るのは明日にすべきかと」と言う。
「ど、どうしたんだ?」
俺が戸惑いながら尋ねると、セレナは「野営すれば宿代が浮きますから」と答えた。
その言葉を聞き、フリードとリズが言う。
「ははは。セレナはしっかり者だね。賛成だ」
「ああ。そうだな。森の中で採取しながら、野営できる場所を探そう」
二人の言葉に、俺は「決まりだな」と続く。
「はぁ……はぁ……」
セレナの息遣いが荒くなってきてるな。
森まで半分ってところか。
「そろそろ休もうか」
俺が声をかけると、セレナは「だ、大丈夫です!」と答えた。
意気込みを汲んで様子を見ていたけど、そろそろ限界だろうな。
セレナは頑張りすぎる傾向があるから、無理にでも休ませないと。
俺はそう思い、リュックを下ろして、セレナに水の入った革袋を渡した。
「まぁ休むって言っても、日陰も無いし、川もないから少し立ち止まるくらいしかできないけどな。休息は大事だ」
俺がそう言うと、リズは「そうだな」と続く。
するとセレナは革袋を受け取り、一口飲むと、息遣いを誤魔化しながら言う。
「い、いえ……大丈夫……です……はぁはぁ」
「セレナ。無理はよくないよ」
「フリードの言う通りだ。もし今、魔物と遭遇したら、俺たちの事を守れないだろ?」
俺たちが明るい表情で言うと、セレナは「す、すみません」と答えた。
「こういう時は謝罪よりも感謝だぞ」
リズがそう言うと、セレナは「あ、ありがとうございます」と戸惑いながら言う。
「ははは。まさかリズに教えてもらう日が来るとは夢にも思わなかっただろうな」
俺は思わず声に出してしまった。
「むっ!」
リズは俺を睨み、スキルを発動。
マナを漲らせながら素早く俺の背後に回り込み、首に腕を回して締め上げて来た。
「ルーク。今の言葉はどういう意味だ?言ってみろ」
「お、おい!やめろ!暴力反対だぞ!ち、力強ぇな!」
俺がもがきながら言うと、リズは「私はウォーリアーだぞ?腕力で敵うと思うなよ?」と言って自信たっぷりの表情を浮かべた。
すると俺とリズの掛け合いを見て、セレナが言う。
「ふふふ。ありがとうございます。おかげで少し楽になりました」
「それはよかった。だが、無理はするな。もう少し休んでから進もう」
リズは、セレナの表情が明るくなったことで、安心したのだろう。
そう答えると同時に、腕の力が緩んだ。
今のうちだな。
俺は脱け出し、再び組み付かれる前にリズに続く。
「リズの言う通りだな。慌てる必要はない」
俺がそう言うと、セレナは明るい表情で「はい」と答えた。
「……」
「ん?フリード。どうした?」
何やら考えるような仕草をしていることに気が付き、声をかけるとフリードは「そうか。こうすればいいんだ」と言い、俺のリュックを手に取った。
「ちょっと借りるね」
フリードはそう言うと、リュックの肩回りを最大まで緩めて背負った。
そしてセレナを見て「僕が背負うから、セレナはこの上に座ればいいよ」と言う。
するとセレナは笑いながら「フリードさんったら」と答えた。
きっと冗談だと思っているのだろう。
「お、それはいいかもな」
「フリードの体格があってこその荒業だな」
俺とリズがそう言うと、セレナは自分以外は全員本気であることに気づき慌て始める。
「え?ええ?」
その様子を見てフリードが言う。
「遠慮しないで」
「そうだな。効率重視ってやつだ」
それから森に着くまで、セレナはぬいぐるみの様に、リュックの上に座っていた。
顔が真っ赤だから、かなり恥ずかしいんだろうな。
でも今は我慢してもらおう。
そう思いながら進み、腹が減る前に森の入り口に着いた。
「フリードさん。ありがとうございます」
「ううん。疲れたらいつでも言ってね」
セレナが恥ずかしさと申し訳なさを混ぜ合わせたような表情で言うと、フリードは疲れを見せずに笑顔で答えた。
「フリードが仲間になってくれて大助かりだな」
「ああ。帰りは俺たちも乗せてもらおうか」
リズと俺がそう言うと、フリードは困った表情を浮かべて言う。
「さ、流石に無理だよ。リュックが壊れちゃう」
その言葉を聞き、俺たちは顔を見合わせて渡った。
まさか、俺たち三人を担ぐことよりも、リュックの心配をするとは思いもしなかったからだ。
「笑って緊張がほぐれたぜ」
俺はそう言ってから、森を見て「早速行くとするか」と続けた。
「はい!」
「ああ」
「うん」
三者三様の返事を受け、俺は森に足を踏み入れた。
「俺の役割は、前方の警戒と、足場が悪いところなど危険の伝達。セレナはそれをリズとフリードに伝えてくれ」
森を進みながら俺が説明すると、セレナは緊張した様子で「はい!」と答えた。
「リズ。セレナのサポートをしつつ、両側を警戒してくれ」
「ああ。任せとけ」
リズの返事を聞いてから、俺はフリードに言う。
「フリードは、後方への警戒と、持ち前の身長で進行方向全域を見渡してくれ」
「う、うん!わかった!」
草木が生い茂り、木の根が足場を悪くする。
湿気が多く、腐植土の香りがする。
しばらく雨は降っていないのに……
進みながら上を見上げると、木の枝や葉が空を塞いでいた。
木が密集しすぎていて、光が差し込みにくいから、地面が乾かないのか。
「ここ。ぬかるんでるから気を付けて。あと、そこの石は滑る可能性があるから踏むな」
指示を出しながら進むこと数十分。
セレナが息切れを起こす前に、何とか水辺に着いた。
「ここに来るまでに、薬草は見当たらなかったな」
「はい。探しながら歩いていたのですが、見つかりませんでした」
俺の言葉にセレナがそう答えると、リズは「あたしもだ」と続く。
「フレイさんが見せてくれた図鑑には『水辺に多く自生する』って書いてたから、この辺りを拠点いして、手分けして探すのはどうかな?」
「そうだな。この森じゃあ暗くなるのは外よりも早い。火を起こして野営の準備が出来たら探索を開始しよう」
フリードの提案を受け、俺たちは手分けして野営の準備を進めた。




