第38話:行ってきます
俺はフレイに聞かれ、採取クエストの一番から三番の張り紙を剥がし、受付へと持ってきた。
「この三つで悩んでるんだ」
するとフレイは見比べてから言う。
「薬草と魔草と解毒茸……それでしたら、魔草ではなく六番の薬草にした方が効率がいいですよ」
聞けば対象薬草のハコベ、スベリヒユ、オオバコと解毒茸は、俺たちが通った北門から出て東に向かった森に自生している。
しかし、対象魔草であるマナリーフが自生するのは遠く離れた南西の門向こう側。
そのため、二番の魔草の採取クエストを、六番の薬草クエストに変更した方が効率がいいそうだ。
「クエストの同時受注上限は、採取クエストが三つ。討伐クエストは二つ。護衛クエストは一つとなります。ですので一番、三番、六番で同時受注されるといいと思います」
「なるほど。ちなみに、クエストを受けていない状態で、たまたま見つけたマナリーフを採取してきてもいいんですか?」
フレイの説明を聞き、俺がそう尋ねるとフレイは頷いてから言う。
「はい。大丈夫です。ですが、もし戻られたときにクエストがなくなっていたら、そのマナリーフの買取先はご自身で探すこととなります。安価でよければ冒険者ギルドで買い取らせていただきます」
「なるほど。魔物の素材や肉も同じですか?」
俺がそう尋ねると、フレイは「はい」と答えた。
「あ、あの。三つ同時に受注するデメリットは何かありますか?」
流石セレナ。
いい質問だな。
俺がそう思っていると、フレイが言う。
「はい。全てを完了しなければ、次のクエストを受けることができません。それと期限が定められているクエストを複数同時受注して、もし一つでも間に合わなければ、クエスト失敗となります」
さらにフレイは「その場合は、報酬がなくなり、冒険者としての経歴に傷がつきます」と続けた。
「なるほどな。慎重に受けねばな」
「そ、そうだね。依頼主に迷惑がかかったらいけないもんね」
リズの言葉に、フリードはそう続いた。
話の流れ的には「苦労したのに報酬がなくなる」や「経歴に傷がつき、昇格が遅れる」といった自己都合を懸念する言葉が出てもおかしくない所だ。
そこをフリードは、真っ先に「依頼主に迷惑がかかる」と言った。
フリードの人柄の良さが伺えるな。
俺は嬉しく思いながら「そうだな」と答えた。
フレイも同じように感じたのか、嬉しそうに「その通りですね」と言った。
そしてフレイは少しだけ真剣な表情で「そして冒険者ギルド全体の評判を下げることにも繋がります」と続けた。
聞けば、安易に同時にクエストを受けて失敗する輩が増えてきているらしい。
クエストに関係のない魔物との遭遇。
悪天候が続き、クエストに出らえる日が少なくなる。
仲間の体調不良など、クエストの失敗要因は様々。
フレイはそう言うと、より一層真剣な表情で言う。
「失敗された方に聞けば、様々な言い分が出てきます。しかし、そのどれを並べても失敗という評価は覆りません」
肝に銘じておかないとな。
俺がそう思っているとフレイはにこやかに「さっきお勧めした三つのクエストはどれも期限が定められておりませんのでご安心ください」と言ってくれた。
「じゃあ、その三つを同時受注でお願いします」
「かしこまりました。少々お待ちください」
俺が代表して言うと、フレイはそう答えてから再びデスクへと座った。
少しするとフレイは丸めた羊皮紙を手に戻ってきた。
「ではクエストの内容の確認をお願いします」
そう言いながら羊皮紙を広げると、内側には俺たちが受ける三つのクエスト内容とアンギフテッドというパーティ名が焼き文字で記されていた。
「問題ない。でもなんで羊皮紙なんですか?」
俺が尋ねると、フレイは「雨に打たれることもあれば、川に飛び込むこともあるので紙とインクではだめなんです」と教えてくれた。
そして「あと改竄や偽造の防止にもなりますので」と続けた。
おそらく過去に、そういった悪質な冒険者がいたのだろう。
「グランダルムを始め、いくつかの街では門番がいて通行料を支払わなければなりません。そのときにプレートと一緒にこの羊皮紙を見せれば、通行料は免除となりますよ」
「それはいいことを聞いた。ありがとうございます。あと二つ質問いいですか?」
フレイの言葉を聞き、俺が真剣な表情でそう切り出すと、フレイは「ど、どうぞ」と戸惑いながら答えた。
「まず一つ目……採取物の見た目を教えてください」
俺がそう言うと、フレイは「はい?」と聞き返してきた。
「採取クエストに行く気満々ではあるのですが、見た目を知らないので、間違って雑草を採ってくる可能性が高いです。本気です。お願いします」
俺はそう言って軽く頭を下げた。
セレナとフリードは申し訳なさそうに会釈をし、リズは鼻息を荒くしながら「見た目が分かれば採って来られるぞ」と続く。
「し、しっかりされてるような、抜けているような……」
フレイは呆れ気味にそう言うと、棚から分厚い図鑑を持ってきてくれた。
図鑑には、それぞれの特徴が文字で記載されているだけでなく、見た目も描かれていた。
「だ、大丈夫そうでしょうか?」
「大丈夫です。ありがとうございます」
フレイの言葉に、俺はそう言って再び頭を下げた。
セレナとフリードも続いて頭を下げ、リズは「フレイはいいやつだな」と嬉しそうに言う。
「リ、リズさん」
セレナが慌ててリズの名を呼ぶと、リズは「あ、ああ。そうだったな。助力に感謝する」と言ってフレイに頭を下げた。
リズの躾け役は、これからもセレナに任せよう。
その様子を見て、フレイがにこやかに言う。
「ふふふ。はい。どういたしましてです。では私との約束です。必ず、誰一人欠けることなく、完遂報告に来てください」
「「「「はい!行ってきます!」」」」
フレイの言葉に、俺たちは心を躍らせながら、言葉を揃えた。
するとフレイは少し戸惑ったように「い、行ってらっしゃいませ」と見送りの言葉を返してくれた。
「よし!出発だ!」
「「「おー!」」」
俺の掛け声に、仲間たちが楽しそうな声で続く。
俺たちは明るい雰囲気のまま、初めてのクエストへと向かった。
俺たちが出発した後の冒険者ギルド内。
「おう。あいつらクエスト行ったか?」
「あ、ギルドマスター。はい。採取クエストを三つ同時受注して、今向かわれました」
ゴウゼンの言葉に、フレイは答えた。
「あん?なに嬉しそうな顔してんだ?」
ゴウゼンがそう言うと、フレイは両頬を両手で覆いながら「す、すみません。私ったら顔に出てましたか?」と答えた。
そしてフレイは言う。
「あの方たち、私に『行ってきます』って言ったんです。咄嗟に『行ってらっしゃいませ』って返しちゃいました」
「『行って参るが、必ず帰ってきます』と『無事に行って、帰ってきてください』か。命を粗末にする輩は多いが、誓いを立てて出発する奴は少ない。まぁあいつらなら大丈夫だろう」
フレイの言葉を聞き、ゴウゼンは少しだけ笑みを浮かべてそう答えた。




