第35話:弓の男
「食事が届く前に自己紹介だ。俺はルーク。見ての通りウィザードだ」
俺がそう言うと、弓の男性は驚きの声を上げる。
「ウィ、ウィザード!?ファイターかと思ったよ!」
「ああ。よく言われるよ。ちなみ魔術を遠くに飛ばせない超才能に恵まれぬ者さ。だから体を鍛えて戦えるようにしたんだ」
俺はそう答えながら拳に雷を纏わせて見せた。
すると、店員に「おい兄ちゃん!こんなとこでスキル発動すんな!」と怒られてしまった。
俺は小さく頭を下げて謝罪。
弓の男性が話しやすくなるように、セレナとリズの紹介をする。
「この子はプリーストのセレナ。とんでもない魔力の持ち主なんだけど、その分マナの消費が激しくて、あまり多く支援魔術が使えないという悩みがある」
「スキルの使用回数も少ないですし、体力もないので才能に恵まれぬ者です」
俺の説明をセレナは笑顔で補足した。
そしてセレナは「悩みがあるって言い方に、ルークさんの優しさを感じますね」と嬉しそうに言った。
「こっちはウォーリアーのリズ。もう一回言うな。ウォーリアーのリズだ」
「ウォ、ウォーリアー!?き、君も才能に恵まれぬ者なのかい?」
俺の言葉に、弓の男性は驚いてからリズに尋ねた。
「ああ。生来、体格に恵まれなくてな」
リズはそう答えながら、石の双剣を見せた。
「か、変わった武器だね」
「ああ。間に合わせだが、ルークが地魔術で作ってくれたんだ。私の筋力じゃ大きな武器で戦うよりも、こっちの方がいいんじゃないかって」
弓の男性の言葉に、リズは明るい表情で答えた。
「早いとこ鍛冶屋か武器屋に行って、ちゃんとした鉄製の双剣を手に入れないとな」
俺がそう言うと、リズは「私は結構気に入ってるぞ」と答えた。
「それは嬉しいが、俺の地魔術で作った石の双剣なんて、すぐに壊れるし切れ味は最悪も最悪だ。リズのスキルの熟練度が高いからなんとか壊れずに済んでるだけで、本来のリズの力を全く引き出せていない」
俺がそう答えると、フリードは「仲間の事をしっかり観察してるんだね」と言葉にした。
その言葉を聞き、俺は「よかったら君の事も教えてくれ」と切り出す。
「ぼ、僕はフリード。ア……アーチャーだ」
俺が尋ねると、弓の男性はためらいながらも名前を言いながら手袋を外し、弓が描かれたエンブレムを見せてくれた。
「ちゃ、ちゃんと弓と矢もあるよ」
フリードが自信なさげに、弓と矢を見せながらそう言うと、間髪入れずにリズがフリードの両肩を掴んで言う。
「あたしたちは君を探してたんだ!ぜひ助けてくれ!」
そして掴んで肩の筋肉が発達していることが分かったのだろう。
興奮気味に「おお!凄いな!なんと羨ましい体格だ!」と言いながら、フリードの肩を揉み触り始めた。
フリードは「え、あ、あの……えっと……」と戸惑いまくっている。
「リズ」
「リズさん。落ち着いてください」
俺とセレナの言葉を聞き、リズは「す、すまない。つい……」と言ってフリードに謝罪した。
するとフリードは驚いた表情で言う。
「アーチャーだって言って、疑われなかったことも、馬鹿にされなかったことも初めてだよ」
その言葉を聞き、俺たちは顔を見合わせた。
そして俺が「俺たちも経験したから痛いくらい分かるよ」と言うと、セレナとリズは頷いた。
すると、ちょうどいいタイミングで店員さんが食事を運んできた。
「あいよ。アイアンセット六つだ」
それから俺たちは食事をしながら、今までの事を話し合った。
俺たち三人も、それなりに大変な人生を歩んできたが、フリードもまた大変な道のりだったようだ。
体格からアーチャーとして認めてもらえず、馬鹿にされ、仲間外れにされる。
俺は自身の過去と強く重なり、フリードの言葉の途中で「いつか見返してやりてぇな」と言葉を挟んだ。
本来アーチャーの身体的特徴は、細身の割に筋力があること。
そのため身軽で、木に登って遠くを見渡したり、潜伏して狙い撃ちをしたりすることができる。
しかしフリードは、見た目通り筋力はあるが、身軽には動けない。
木に登れないし体格も大きいため隠れることも難しい。
見つけるよりも先に見つかってしまうため、狩りの成功率は低い。
職業訓練所は卒業できたものの、アーチャーとしては生計が立てられない。
そこで、狩りや討伐ではなく、採取クエストをメインとした冒険者になれば少しは稼げるのではないかと思い、グランダルムにやってきたそうだ。
「職業訓練所を卒業してるってことは、遠くの的を射抜くことはできるんだよな?」
「あ、うん。それくらいならできるよ」
話の終わりに俺が尋ねると、フリードは自信なさげにそう答えた。
「なんだ。充分凄いじゃないか」
「遠距離攻撃の手段を持たない私たちからすると、凄いように思えますよね」
リズとセレナがそう言うと、フリードがさらに自信なさげに答える。
「ぜ、全然だめだよ。他の人みたいに素早く矢を放ったり、追いかけながら射抜いたりできないんだから……」
俺にはガンダイがいた。
しかし、フリードは今までずっと一人で迫害を受け続けて来たんだろうな。
「自信持てよ。職業訓練所を卒業してるなら、俺よりも格上だぜ。なんてったって俺は退所組だからな」
「た、退所……はじめてみたよ。ははは。じゃあ少しだけ自信を持とうかな」
俺の言葉を聞き、フリードは初めて笑顔を見せた。
そして明るい表情のままに続ける。
「でも、僕は君が羨ましいよ。君にはこんなに心強い仲間がいるじゃないか」
その言葉を聞き、すぐさまリズが目を輝かせて言う。
「フリード!君も仲間に入ればいいじゃないか!っていうか入ってくれ!」
「え、ええ?」
フリードが戸惑いの声を上げるため、俺はリズを落ち着かせてから、ゴウゼンから出されている課題について説明した。
すると、フリードは驚きながら言う。
「す、凄い偶然だね。僕もさっきゴウゼンさんに『仲間を見つけて来れたら考えてやる』って言われて冒険者登録できなかったんだ」
「俺たちは広範囲攻撃、または遠距離攻撃ができる仲間を探すこと。フリードの仲間の条件は?」
俺がそう尋ねるとフリードは「近づかれたときに対処できる仲間を探して来いって」と答えた。
その言葉を聞き、俺たち三人はハイタッチ。
「接近戦は俺とリズに任せてくれ」
「ああ!フリードには指一本!いや爪一本!牙一つ触れさせやしないさ!」
俺の言葉にリズは腕組みをしながら、自信ありげに答えた。
そしてセレナは「回復と防御は私にお任せください」と笑顔で答える。
「もちろん、無理にとは言わない。冒険をしていく中で、脱退してくれても構わない」
「あ、ああ。そうだよね。僕は冒険者登録するための間に合わ……」
俺の説明不足でフリードが誤解し、それを言葉に仕掛けた瞬間。
「ルーク!なぜこんな逸材に突き放すようなことを言うんだ!見よ!この鍛えこまれた肩回りを!」
フリードの言葉を遮るように、リズは俺を叱り、そしてフリードの肩を揉んだ。
「そうですよ!私たちからお声がけしてるのに、フリードさんに失礼ですよ!」
セレナも頬を膨らませながら怒る。
可愛いから怒られてる感じがしないんだけど、きっと怒ってるんだろな。
セレナの可愛さに少し和んでしまうが、俺は表情には出さずに冷静に説明する。
「俺たちにとってフリードは逸材なんだけど、フリードにとって俺たちが逸材かが分からないだろ?だから、俺たちと行動を共にしてみて、俺たちが合わないと思ったら脱退してくれても構わないって意味で言ったんだ」
その言葉を聞き、フリードは呟く。
「僕が逸材……?僕を必要としてくれてる……?」
そしてフリードは明るくはっきりとした口調で言う。
「今日は人生最高の日だ。是非、僕をパーティに入れてくれ」




