第32話:冒険者ギルド
いつもなら草や木の根を避け、木々の間を抜けて進むが、今日は人を避け、背の高い建物の間を進む。
なんとも不思議な感覚に見舞われながら、進むこと十数分。
一際大きく、貫禄のある石造りの建物が見えてきた。
セレナがその建物を指さして言う。
「あそこが冒険者ギルドの本部です」
村や町単位にはないが、もう少し栄えた街には冒険者ギルドの支部がある。
そこではクエストの受注や完遂報告はできるが、冒険者になるための登録手続きはこの本部でしかできない。
ついにここまで来たぞ。
俺が感慨深く思っていると、セレナとリズが言う。
「立派な建物ですよねぇ。イースティンに支部はあるんですが、こんなに立派じゃなかったです」
「ああ。ウエストーレにも支部はあったが、古ぼけた一軒家だったぞ」
そっか……
二人の出身地には支部があったんだね。
ノースリーフは北の最北端の辺境の町。
支部すらなかったなんて言えない。
俺がそう思っているとリズがサクッと「ルークのいたところのはどんなだったんだ?」と尋ねて来た。
俺が答える前に、セレナが気まずそうに「あ……」と言葉を漏らした。
「な、なかったよ。村に近い町くらいだったから……」
「さ、さっそく中に入ろう!」
言いにくそうに答えるとリズは、はぐらかす様に進み始めた。
自在扉を押しのけるようにして中に入る。
中はかなり広く、様々な体格、様々な武器を持つ冒険者が十数名いるのに、全く狭さを感じない。
壁は石造りだが、それ以外の床や柱、天井などの内装は木造。
建物の両端には二階へ上がる階段があり、その間には受付と数多くの紙が貼られた板がある。
おそらくクエストが張り出されているのだろう。
「まるで屋敷だな」
「ああ。すげぇな。ここがギルドか」
感心して内装を見渡すリズと俺に、セレナが「あそこで食事を取ったり、あっちで休んだり、自由に使用できます」と指さしながらギルド内の設備を説明してくれた。
見るとそこにはテーブルや椅子が並んでいたり、暖炉が設置されていたり、厨房で料理人が調理をしたりしていた。
セレナの言葉を聞き、俺の頭の中では、食事が並んだテーブルを三人で囲み、どのクエストを受注するのかや、受注したクエスト完遂に向けた作戦会議をする姿が映し出されていた。
俺は内装に心を躍らせながら、受付へと進む。
「こんにちは。どういったご用件でしょうか?」
俺が前に立つと、とても綺麗な顔立ちの細身の受付女性が尋ねて来た。
「冒険者の登録に来ました。俺と、こっちの二人だけ」
俺がリズを見て言うと、受付女性は「お二人?」と言って首を傾げたが、セレナが首元から鉄板の付いたプレートを出すのを見て「かしこまりました」と言い、用紙を出した。
出された用紙には、全てが自己責任である旨が書かれており、その下に氏名、年齢、出身地、エンブレムという項目が書かれている。
同意書を兼ねた登録申請用紙のようだ。
順に記入していき、エンブレムという項目にはウィザードと書いておいた。
「これでいいですか?」
書き終えて声をかけると、受付女性は門番と同じ分厚い本を持ってきて、見比べ始めた。
またか。
そこに俺の名前はないぞ。
俺がそう思いながら様子を見ていると、受付女性はボソボソと独り言を言う。
「ウォーリアーにウィザード?た、たしかにウォーリアーで卒業歴があるわね……でもこっちは……どういう事かしら……」
案の定、リズは見つけられたけど、俺の名前は見つけられないようだ。
「自分で言うのも虚しくなるのですが、一番後ろにあると思います」
俺がそう声をかけると、受付女性は「え?」と驚きの声を上げ、慌てて確認する。
「ね?あったでしょ?」
俺がそう言うと、受付女性は「え、ええ。少々お待ちください」と言ってから、受付の奥にある通路を通ってどこかへと行ってしまった。
上の許可を取りに行ったとかそんなところだろう。
「門番の時と違って丁寧な受付だったな」
「ま、まぁそれはそうだな。差別的ではなかったな。慌てた様子でどこかにいってしまったがな」
俺とリズがそう言うと、セレナは「嫌な態度を取られずに少しホッとしましたね」と続く。
「嫌な態度はこの後に取られる気がするぞ?」
「ああ。あたしもそう思う」
俺とリズがそう答えると、セレナが「え?ええ?」と分かっていない様子だ。
「たぶん、職業訓練所すら卒業できてない才能に恵まれぬ者を、冒険者として受け入れていいのかを上司に確認しに行ったんだと思うぞ」
「ああ。非力な双剣ウォーリアーの事もな。おそらくその上司とやらと一緒に戻ってくるか、俺たちが呼ばれるかだろうな」
俺とリズがそう説明をしていると、受付女性が走って戻ってきた。
「ギルドマスターがお呼びです。ついて来てください」
「「な?」」
受付女性の言葉を聞き、俺とリズはセレナを見て笑顔で言った。
するとセレナは「そんな明るい笑顔で言ってる場合じゃないですよぉ」と言って落胆の表情を見せた。
「お、おい。ギルマスの呼び出しだってよ」
「あいつら不正でもしたのか?」
「いや、登録に来た新人みたいだぜ」
そのざわめきを背に、俺たちは受付女性に案内されて通路を進んだ。




