29:道
俺の言葉を聞き、リズが呟くように言う。
「その道が合わなかっただけ……?」
「そうだ!言っただろう!リズの強みは速度だ!連撃だ!それを活かせば絶対にあいつになんか負けない!」
俺はそう言ってから地魔術を発動。
「悪いな。ウィザードとしては使い物にならないくらい時間がかかるんだ」
普通のウィザードなら数秒。
ローウェンのような才能に恵まれし者なら一瞬で作り出せるであろう石の剣を数分かけて二本作り、リズに差し出す。
普通の剣よりも短いが、短剣よりも長い程度の双剣。
「俺の魔術じゃ密度がもろくて強度が足りないから少し幅が広くなってる。でもリズのスキルなら木製の大剣の時よりは頑丈なはずだ」
そして俺は「俺は重くてまともに扱えないけど、リズなら軽々と振れるじゃないか?」と続けた。
「あ、あたしにはまだ可能性がある……」
リズは石の双剣を手に取り見ながら呟いた。
「ああ。ウォーリアーとしての誇りも、一撃への憧れを無理に捨てなくていい」
そして俺は「ただ勝利への執念を優先するだけでいいんだ」と続ける。
「勝利への執念……そうだ!最優先すべきは勝つこと!決して倒れないこと!生き残ることだ!」
リズは言葉のたびに表情が明るくなってゆく。
これならもう大丈夫だろう。
「リズ。間に合わせでボロボロだけど、その双剣を振ってみてくれないか?」
「リズさん。私も見てみたいです」
俺の言葉にセレナが続く。
「ああ」
リズがそう返事をして、スキルを発動しようとしたとき。
マナを漲らせた何者かがこちらに向かってくるのが感じられた。
なんて殺気だ。
そう振り返って見ると、そこには怒りで顔を染めたゴルドーがいた。
どんどん近づいてくる。
仲間たちの姿はない。
三人で応戦すれば何とかなるだろう。
俺がそう思い拳に雷を纏わせ構えると、その隣でセレナは杖を構えた。
するとリズが静かだが、凄みを感じる口調で言う。
「ルーク。ここはあたしがやる」
そしてリズは、全身と双剣にマナを纏わせた。
「貴様らぁ!ぶっ殺してやるぅ!」
そう叫びながら近づいて来て、勢いのままに大剣を振りかぶったゴルドーの懐へ、リズは瞬時に移動。
一呼吸の間に、石の双剣の腹の部分でゴルドーの太もも、腹、胸、頭と順に打ち据えて行く。
「速い!」
「す、すごい」
俺とセレナは思わず驚きの声をあげた。
「ぐっ!そんな小技!俺様に通じるわけがねぇだろう!」
ゴルドーはダメージを追いながらも、威勢のいい言葉を吐き、マナを昂らせながら大剣で薙ぎ払う。
リズはそれを軽々と避け、さらに複数個所を打ち据える。
「ぐ、ぐっ!効かねぇって言ってんだ!ちょこまかと動きやがって!」
さらにゴルドーは大剣を振り回すが、当然当たらない。
もしこれが刃の部分で斬りつけていたら、もしこれが鉄製の双剣だったら、すでにゴルドーは血だらけになっていただろう。
そんな事にも気づけないほどに、怒りで冷静さを欠いてるな。
それに斬ることに意識が行き過ぎて、全身を強化してるマナが乱れ始めてる。
「ル、ルークさん」
どうやらセレナもそれに気づいたようだ。
「ああ。リズの圧勝だ。あんな乱れたスキルで、今のリズに勝てるわけがない」
セレナと俺が見守りながらそう話していると、リズは舞い踊るように次々と双剣で打ち据えてゆく。
反対にゴルドーは、ダメージが蓄積し、どんどんと動きが鈍くなり、スキルが乱れていっている。
「まさに乱舞だな」
「リズさん。凄いです」
そして終わりの時が来た。
リズは全身と双剣に纏わせていたマナを一層強め、目で追うのがやっとの速さで、駆け抜けるようにしてゴルドーの両膝を打ち砕いたのだ。
「ぐあぁぁっ!」
ゴルドーは、叫び声を上げながら倒れ、大剣を手放し、地でもがき苦しんでいる。
その様子を少し見てから、リズは双剣を二つとも左手に持ちながら、俺たちの方向へ歩いてきた。
そして涙と笑みを浮かべながら俺とハイタッチ。
セレナは嬉しさのあまりリズに抱きついた。
「かっこよかったぞ!スカッとしたぜ!」
「リズさん凄いです!私、感動しちゃいました!」
「お前たちのおかげだ。出会ったばかりの私を見放さず、セレナは心を支え、ルークは歩むべき道の助言をしてくれた」
俺とセレナの言葉に、リズはそう答えてから、我慢していた涙を流して言う。
「ありがとう……ありがとう……」
その様子を見て、俺とセレナは顔を見合わせてから言う。
「今までリズが努力し続けたから、成功する機会と巡り合えたんだ」
「そうです!リズさんの実力です!」
その言葉を聞き、リズは涙を拭い、明るい笑顔で「ありがとう」と答えた。
「痛てぇよぉ!痛てぇよぉ!」
せっかくの感動の場面をぶち壊すように、喚いているのはゴルドー。
「うっせぇなぁ。リズが成功を噛みしめてるんだから黙れよ」
俺がそう言い放つと、心優しいセレナは「ま、まぁまぁ」と俺を宥めた。
「すまない。セレナ。あいつを治してやってくれないか?」
「わ、私は構いませんが……」
リズに頼まれ、セレナは戸惑いながら俺を見た。
「リズがいいって言ってるんだから、いいんじゃないかな?セレナが嫌でなければ」
俺がそう答えると、セレナが回復魔術を発動。
ゴルドーの膝に手を当て、治療を始めた。
するとリズはマナを双剣に纏わせ、ゴルドーの喉元に突き立て言う。
「妙なことをすれば……」
「ひぃっ!何もしねぇよ!今まで悪かったよ!」
ゴルドーは情けない声をあげながらそう答えた。
その様子を見て言う。
「お前。リズにやられて大剣を手放したな」
「あ、当たり前だろ。こんなになってんだから」
俺の言葉にゴルドーは膝を見ながら答えた。
「リズは木剣を打ち砕かれても、疲弊しきって膝から崩れ落ちても、武器を手放さなかった」
俺はリズが持ち手だけとなっても、木剣を手放していなかった姿を思い出しながら、さらに続ける。
「それが、リズとお前の想いの差。ウォーリアーとしての誇りの差だ」
「ルーク……」
「ルークさん……」
俺の言葉を聞き、リズとセレナが俺の名を漏らす中、ゴルドーは不満そうな表情を浮かべていた。
俺は、苛立ちのあまりロックボムをゴルドーの口に突っ込んで言う。
「なんだ!?なんか文句あんのか!?」
「や、やめてくれ!すまない!俺が悪かった!悪かったからぁ!」
するとロックボムの威力を見たゴルドーは、頭が吹き飛ぶことを恐れて喚いた。
そして手に炎を纏わせたところで、リズとセレナに止められた。
それから数分の回復魔術を経て、ゴルドーが立ち上がり言う。
「す、すまなかった」
「ありがとうは?」
俺はゴルドーにロックボムをちらつかせながら、セレナに視線を向けた。
するとゴルドーは、かなり懲りたのだろう。
セレナに深々と謝罪をし始めた。
「どうせ不正がバレて会場にいられなくなって、怒りのままに走ってきたのだろう」
リズがそう言うと、ゴルドーは「あ、ああ。そうだ」と言いにくそうに答える。
そしてリズはさらに続ける。
「お前をボコボコにできて、今は少しだけ怒りが収まってる。ぶり返す前に消えろ」
そう言われ、ゴルドーは怯えた表情で右足を引きずりながら会場の方向へと歩いて行った。
「ん?あいつ……」
「もしかして……」
俺とリズは、ゴルドーの様子を不思議に思いセレナを見た。
するとセレナは、可愛らしく舌を出しながら笑顔で答えた。
「えへへ。左膝は時間をかけて完治させたんですが、右は一瞬だけして完治させてないんです。私も怒ってますから」
これから先。
絶対にセレナを本気で怒らせないようにしよう。
「さて。一件落着だな。俺たちはグランダルムに向かうけど、リズも一緒にどうだ?」
俺がそう言うと、セレナが慌てた様子で言う。
「あ、ずるい!私が先にお誘いするつもりだったんですよ!」
「あ、ああ。そうだったな。でも昨日のリズを誘ってもきっと断られたぞ?」
セレナと俺がそう話していると、リズは明るい表情で答える。
「ああ。しかし、今は違う。あたしも仲間に加えてくれ」
「はい!脱退不可ですからね!」
リズの言葉にセレナは嬉しそうに答えた。
「脱退も何も、俺たちはまず冒険者登録をしないとな」
「まったくだな」
俺たちは笑い合いながら、次の街へと向かい、ともに道を歩み始めた。




