26:誇り
「リズ。これが俺の提案だ。煽って嫌な思いをさせて悪かったな」
それがそう声をかけると、リズは表情をさらに暗くして言う。
「あ、ああ。あたしも、そうと気づかずに力を入れすぎた。すまない」
そしてリズはさらに言う。
「あたしの事を考えてくれての提案に感謝する。でも……それをすぐに受け入れられそうにない」
その言葉を聞き、セレナは「どうして……」と呟く。
しかし、俺はそう言う気がしていた。
リズは大剣への憧れが極めて強い。
つまりそれは一撃必殺への憧れが強いということだ。
その思いを捨てることは容易ではない。
だから、少しでも興味を持ってもらえるように、リズ自身の強みに気づいてから伝えたんだけど上手くはいかなかったか。
「連撃は性に合わないか?」
「ああ。すまない。ルークに言われて初めて気付いた。あたしにはウォーリアー特有の強靭な肉体はないが、速度なら勝るものがあるのかもしれないと……」
俺の言葉に、リズは悔しそうに答えた。
そしてリズは、エンブレムを見せながら涙ながらに言う。
「でもその戦い方はウォーリアーじゃない!あたしはウォーリアーだ!ウォーリアーは圧倒的で強力無比な一撃のもとに敵を屠るものだ!」
「その想い。痛いほどに分かるよ。俺も遠距離かつ広範囲の魔術攻撃に憧れてた。いや、いまだに憧れを捨てられない」
俺がそう言うと、セレナが続く。
「私も。一日中働ける人が羨ましく思いますし、すぐに動けなくなる自分が嫌になることがあります……」
その言葉を聞き、リズは少し間を開けて言う。
「……す、すまない。自分だけがみたいな言い方をしてしまった……本当に感謝している。でも……」
「気にするな。時間がかかる。ただ忘れないでくれ。リズには可能性がある。大会じゃなく、実戦で活躍できる可能性が」
俺がそう言うと、セレナが「気が向いたときに、少しやってみようかな。くらいでいいと思います」と笑顔で続く。
俺たちの言葉を聞き、リズは「ルーク……セレナ……」と呟いた。
「さぁ!飯にしよう!すっかり暗くなっちゃったな」
俺は雰囲気を変えるために、食事を促した。
同年代の女性がいることで、セレナがいつにも増して楽しそうだ。
夜空と小川のせせらぎだけでなく、セレナとリズの声に彩られ、明るい夕食となった。
翌朝。
小川で顔を洗い、朝食を済ませる。
片づけをしてから、リズの準備運動を見守る。
「でやぁ!」
全身と木製の大剣にマナを纏い、強化しながら全身全霊の一撃の素振り。
それを何度も何度も繰り返す。
まるで不安を払拭するように……
「リズ。体をほぐすくらいにしておかないと、本番前に疲れてしまうぞ」
「……あ、ああ。そうだな」
俺の言葉に、リズは力弱く答えた。
どうしたもんかな。
俺がそう思っていると、セレナが川で濡らしたタオルを渡しながらリズに言う。
「どうぞ」
「すまない。ありがとう」
リズは受け取り汗を拭くと「スッキリしたよ。少し早いが行くとしよう」と答えた。
緊張感ある雰囲気のまま移動し、開会式を行った場所に着くと、すでに多くのウォーリアーが集まっていた。
「みなさん早いですね」
「ああ。意気込みが感じられるな」
セレナと俺がそう話していると、昨日の受付をしていた男性が壇上に現れて言う。
「ざっと見た感じで集まってそうだな!」
男性はそう言うと、大きく息を吸い込んでから「待ってられねぇだろうから大会開始だぁぁぁ!」と声を張りあげた。
「「「うぉぉぉぉっ!」」」
男性の声に、ウォーリアーたちに威勢が呼応する。
「は、早く来てよかったですね」
「そ、そうだな。来てない奴がいたらどうするんだろう」
セレナと俺が戸惑っていると、リズが言う。
「ふん。そんな意気込みの足りん奴はウォーリアーじゃないさ」
なんとも脳筋な答えだな。
「順番はこうだ!」
男性がそう言うと、トーナメント票が描かれた大きな木の板が運ばれて来た。
そこには出場者の名前と番号が書かれている。
「奇数がこっち!偶数はあっちに並べぇぇ!」
「「「うぉぉぉぉっ!」」」
トーナメント票を見た者から順に並んでいく。
リズの名前は……
俺がそう思い探していると、セレナが言う。
「あ!ありました!五番です!こちら側ですね!」
「ああ。そうだな。好都合だ」
セレナの言葉に、リズはマナを漲らせながら食いしばるように答えた。
「ど、どうされたんですか?」
「六番……あいつだな」
セレナの問いに、俺がそう答えると、セレナはリズの名前の横に『ゴルドー』と書かれていることに気づき、驚きの声をあげた。
「こ、こんな偶然って……」
「ああ。三年連続で同じ相手が当たるなんてことは起きにくい。しかも今回はかなり数が多いってのに……」
俺はそう思い壇上にいる男性を睨みつけた。
すると男性はニヤニヤと笑みを浮かべながらこちらを見ていた。
やっぱり裏がありそうだな。
そう思っていると、後ろから声をかけられた。
「おー怖い怖い。出場者でもねぇ奴がいきり立ってるじゃねぇか」
振り返ると、そこにいたのは挑発的な表情のゴルドーと、ニヤけ面のパーティメンバーたち。
今すぐロックボムを顔面にぶち込みたいが、ここは我慢だ。
「三年連続。初戦が同じ相手ってのは不思議なこともあるもんだな」
俺がそう言うと、ゴルドーはさらに挑発的な明るい表情を浮かべて言う。
「ああ。まったくだ!俺様もびっくりだぜ!こんな《《偶然》》があるなんてなぁ!」
どうせ主催者とグルなんだろう。
リズの木剣を派手に壊して、盛り上げに使おうって魂胆だろう。
胸糞悪い連中だ。
俺は純粋なリズが、いいように利用されていることにイラ立ちが隠せなかった。
おそらくマナが高ぶっていたのだろう。
リズが俺の前に手を出しながら制止する。
「ルーク。その怒り。あたしが預かる」
「ああ。頼んだ」
俺がそう答えると、セレナが「やっつけちゃってください!」と頬を膨らませて言う。
「がははは!何が『あたしが預かる』だ!そのひょろっこい体と腕で何を預かれるって言うんだよ!」
ゴルドーがそう言うと、パーティメンバーたちも一様に声をあげて笑う。
そしてゴルドーは「昨日言った通りだ!覚悟しておけ!」と言い捨てて、自身の入場口へと歩いて行った。
リズの「必ずだ!必ず倒す!ウォーリアーの誇りにかけて!」という叫びを背に受けながら。




