25:強み
屋台で食料を買い、大会の開催場から少し離れた小川の傍でテントを張りながら言う。
「リズ。寝る時はセレナと一緒に中で寝てくれ」
「さ、流石にそこまで甘えるわけにはいかない」
俺の言葉を聞き、リズは両手を前に出しながら断ってきた。
「明日は大会だ。少しでもいい状態で出てほしいからな」
「そうです。しっかり休んでください」
セレナはそう言うと「いつもありがとうございます」と俺に会釈をした。
すると俺たちの様子を見て、リズが呟く。
「お前たちは仲がいいんだな。仲間か……」
その言葉を聞き、セレナが「あ、あの!もしよろしければ……」と言いかけたため、俺はその言葉の先を察して止める。
「セレナ」
名前を呼び、俺は首を横に振った。
「ど、どうして……」
セレナのその言葉には何も答えず、俺はリズを見て言う。
「リズ。さっき言った話したい事なんだけど……」
俺がそこまで言うと、リズは言う。
「あたしがゴルドーに負けるというのだろう」
「ああ。何回戦まで勝ち上がれるかは分からないけど、少なくともゴルドーには負けると思う」
俺がそう答えると、セレナが「ルークさん!なんで大会前にそんなことを言うんですか!?」と怒りながら問いつめてきた。
「明日が大会だから言うんだよ。おそらくゴルドーは事故に見せかけて武器破壊以上の事を仕掛けてくるはずだ」
俺の言葉を聞き、セレナは「武器破壊以上のって……」と驚き気味に言う。
そしてさらに続ける。
「大会ルールでは、マナを全身と武器に纏わせてぶつけ合うこととなっています。だからリズさんも大けがにはならないって!」
「それは実力がある程度同じ場合と、まともなウォーリアー同士の場合だ。持ち手を狙えば両手の破壊ができるし、頭上から振り下ろせば武器ごと頭を叩き切ることもできる」
俺はそう答えてから「ゴルドーの去り際の表情……何かやらかしそうな気がする」と続けた。
「……セレナ。ルークの言う通りだ。さっき戦闘態勢に入った奴を見て、勝てないことは分かってた」
俺とリズの言葉を聞き、セレナは「リズさん……」と呟く。
「しかし、だからと言って棄権する気はない!逃げるなどウォーリアーとしての誇りが許さない!」
「ああ。そこは賛成だ。逃げると一生心に残るからな。戦って死ねとは思わないが、納得できる終わり方をする方がいい」
リズは俺に止められると思っていたのだろう。
俺の言葉を聞き、戸惑いながら「そ、そうか。ならば話とは何だ?」と尋ねてきた。
「提案したいことがある。そのために……まずは筋力勝負だ」
俺はそう言ってマナを漲らせながら、大きく平らな石の上に右肘をついた。
「筋力勝負って……腕押し?」
「ああ。ルールは知っての通り、押し負けて手の甲が石についたら負け」
リズの言葉に俺がそう答えると、リズは怒り混じりの表情でマナを迸らせながら言う。
「いくら何でも嘗めすぎだ!お前はウィザード!あたしはウォーリアーだぞ!」
全く持ってその通りだ。
俺はウィザード。
パフォーマンスとしてマナを漲らせたものの、ウォーリアーのように強化のスキルが使えるわけじゃない。
それにリズはウォーリアー。
細身で小柄とはいえ、俺とは生まれ持った筋肉量が全く違う。
勝てる要素など何一つない。
「望み通り全力でやってやる」
リズは全身にマナを纏い、強化を発動。
膨大なマナが見る間に圧縮されていく。
バンさんやナイトリッチでも、マナをここまで圧縮して肉体を強化することなんてできてなかったぞ。
俺が驚いていると、リズは勢いよく肘をつき、俺の手を握った。
想像以上だ。
馬車の車輪に手を引かれても、これほどの圧力は掛からないだろう。
手が軋む。
骨が折れるどころか肉が潰れてしまいそうだ。
「セレナ。合図を」
「は、はい!」
俺がそう言うと、セレナは心配した表情で深呼吸をして俺とリズが握る手に、両手で覆った。
そして言う。
「レディ……ゴー!」
セレナがそう言って両手を離した。
刹那の時の中。
俺は体幹から肩へと力を連動させた。
そして力を肩から腕へと連動させる直前。
リズは少しだけ口角を上げながら余裕をもって動き出す。
そして圧倒的な速度と筋力で、俺の力の連動を断ち切り、俺の右手の甲を石の台へと叩きつけた。
「っ!?ぐあっ!」
「ルークさん大丈夫ですか!?」
俺の悲痛な声を聴き、セレナは慌てて回復魔術を発動してくれた。
「やっぱり思った通りだ。リズは恐ろしく速いな」
「当たり前だろ!鍛え方が違うんだぞ!」
俺の言葉に、リズはすぐにそう答え、セレナは回復魔術を発動しながら「そうです!ウォーリアーに力勝負なんて無謀すぎます!」と続く。
「当たり前じゃないさ。俺は強いって言ったんじゃない。速いって言ったんだ」
俺の言葉を聞き、リズは「同じことだろ?」と怪訝そうな表情を浮かべて言い、セレナは首を傾げた。
ん-。
答えを言ってもいいんだけど、自分で気付くことが大事だからなぁ。
俺がそう思いヒントを出す。
「さっき開会式の後、ゴルドーが臨戦態勢に入ったとき。ゴルドーが武器を構えたのに、なんでリズは武器を構えもしなかったんだ?
「そ、そんなの決まってるだろ。奴が斬りかかってきてないんだ。あたしから斬りかかるわけにはいかないからだ」
リズは腕組みをしながら答えた。
ほんのり答えに近づいてきたけど、まだ少し遠いな。
そう思い、俺はさらにヒントを出す。
「つまりだ。リズはゴルドーが斬りかかってきてから剣を抜いても、間に合うと判断したってことだろ?」
「当たり前だ。あたしは木剣なんだ。奴よりも速く動けるに決まってるだろ」
リズは変わらず腕組みをしたままそう答えた。
あ、うん。そうだね。
そうなんだけどなぁ。
そう思いセレナを見ると、セレナも理解ができていないといった表情を浮かべている。
「つ、つまりだ。武器の強度と筋力だけがものを言う大会での勝負じゃなくて、速度を活かした連撃やカウンターならリズに分があるってことだ」
そこまで言い、セレナが気付き言う。
「リズさんの強みは筋力じゃなくて速度ってことですね!」
「そ、そういうこと。ゴルドーと対峙したときに、リズがゴルドーよりも高密度にマナを圧縮して纏ってるを見て、ひょっとしてって思ったんだ」
やっと伝わった。
そう思い、俺がリズに視線を向けると、リズは暗い表情をしていた。




