21:ウォーリアー
バンさんの村を出て数日。
セレナと歩き、狩り、食べて寝る。
それを繰り返して、もう少しでグランダルムへの直行馬車がある街へというところまで来た。
すると、遠くにテントのようなものが数多く並ぶ場所が見えて来た。
「ん?あんなところに村なんかあったっけ?」
「柵もなく、門番もいないので村というよりも、お祭りや露店市などではないでしょうか?」
俺が尋ねるとセレナはそう答えてから「あ、ほら。屋台や仮設テントが見えます」と続けた。
「せっかくだし少し覗いていこうか」
俺がそう言うと、セレナは嬉しそうに「はい」と答えた。
近づいてみると、真っ先に気づいたのは、屋台の店主以外は皆一様に屈強な肉体の持ち主であるという事。
店主はマーチャントだろう。
そして道行く巨躯の持ち主は全員……
「エンブレムを見なくても分かるな」
「え、ええ。間違いなく皆さんウォーリアーですね」
男も女も、全員がバンさんと同じかそれ以上に背が高い。
そして腕も足も首も胴も、全てが筋骨隆々。
俺とセレナは大人の国に迷い込んだ子供のようになっている。
数十人なんて規模じゃないな。
百人近いウォーリアーが集まってる。
いったい何があるっていうんだ。
そして次に気づいたのは、屋台の多くが飲食物ではなく、大剣や重装備などウォーリアーが好む武器や防具ばかりを並べているという事。
ウォーリアーのエンブレムは剣の紋様だが、剣以外も装備できる。
最も好まれるのは大剣。
その次に戦斧。
他にも、ハンマーを使う者もいるし、巨大な矛を使う者もいる。
防具にしても、胸当てや肩当などの部分的な防具の者もいれば、重厚な鎧を身に纏う者もいる。
出店には複数の種類の装備を置いているところもあれば、大剣の専門店のような出店も見受けられる。
「ウォーリアー向け装備の出店会なのでしょうか?」
「ん-。その割には……なんだか皆、殺気立ってるというか、やる気満々と言うか……」
セレナと俺が話しながら歩いていると、どこからか話し声が聞こえてくる。
「あん?なんでファイターがいやがるんだ?」
「あのちっこい嬢ちゃんはプリーストだな。まぁケガ人用の救護班とその付き添いってところだろ」
救護班?
付き添い?
いったいなんのことだ。
解せないままに歩き進むと、仮設テントの中に一つだけ長蛇の列をなしている場所があった。
「あそこだけ凄い人だね」
「いったい何に並んでいるのでしょう?」
俺とセレナは顔を見合わせ、先頭に何があるのかを確認するために歩き進んだ。
すると見えてきたのは受付。
受付ではマーチャントの男性が声を張り上げながら対応をしている。
「はいはい!真っ直ぐ並んで!出身地と名前!それと冒険者なら階級を書いて!」
その言葉に従い、屈強なウォーリアーたちが立ち替わり記載してゆく。
「ルークさん。あそこ」
セレナに言われて見てみると、受付の所に細身で小柄な女性がやってきた。
セレナよりも背が高いけど、俺よりは低い。
おそらく身長165cmから170cm程度だろう。
上半身はヘソ出しの服と胸当てと革手袋。
細身で胸が主張を強めており、下半身には膝上のズボンと革靴。
そして背中には、背丈に不釣り合いな木製の大剣が携えられている。
ウォーリアーにしたら小柄すぎる。
かといってウィザードにしたら大柄すぎる。
アーチャーよりも筋肉がありそうだからファイターだろうな。
でもなんで木製の大剣を?
観察していると、俺はすぐに重要なのは装備ではないことに気づいた。
歩き方にブレも隙も無い。
相当強い体幹を持っているな。
見えている腹回り、二の腕、ふくらはぎ。
そのどれもが引き締まっているのに、しなやかさを保っている。
投擲や接近戦の訓練、筋トレを欠かさずに行ってきたからこそ分かる。
「凄い身体だな」
俺は鍛えこまれた彼女の身体を見て、思わず感嘆の言葉を漏らした。
するとセレナが頬を膨らませて言う。
「ルークさん!」
「ち、ち、ちがう!胸を見て言ったんじゃない!鍛えこまれてる体だなって意味だ!」
俺の弁明は虚しく、セレナはそっぽを向いてしまった。
そしてセレナは「私は胸を見てるなんて一言も言ってません!」と言われてしまった。
これは弁明すればするほどに、穴に落ちていくやつだな。
俺はそう思い、分析結果を共有しながら話す。
「背丈や筋肉量からしてウォーリアーやアーチャーじゃなくてファイター。鍛え抜かれた身体。それなのに武器が木製の大剣。何か事情がありそうだね」
俺がそう言うと、セレナは「た、たしかに変わった装備の方ですね」と話に乗ってきた。
よし。
なんとか切り抜けられそうだ。
俺がそう思っていると、受付の順番が、その女性に回ってきた。
「ここに出身地と……なんだ?お前また来たのか?」
受付の男性が少し馬鹿にしたように言うと、女性は毅然とした態度で答える。
「何か問題でもあるのか?」
はっきりとした声質と口調。
そして昂るマナ。
受付男性は臆しながら「い、いや……べつに」としどろもどろに答える。
書き終えた女性が、受付から離れると、列に並んでいる者たちが言う。
「お!木剣のリズじゃねぇか」
「ん?ほんとだな。ちっこくて見えなかったぜ」
そしてもう一人は「去年散々な目にあったのに、今年も木剣で出場とはな」と言って鼻で笑った。
「なんだか分からないけど、凄くムカつく雰囲気だ」
「私もです。あの人たち嫌いです」
俺とセレナがそう話していると、木剣のリズと呼ばれる赤い長髪の女性が歩いてきた。
そして俺たちを睨みつけて言う。
「おい。お前たち。さっきこっちを見て何か話していたな」
「ああ。気分を害してしまったのなら謝るよ。あいつらみたいにバカにする気も笑う気もない。単純に木製の大剣が気になったんだ」
俺がそう言ってから、さらに「それにあんた相当鍛えこんでるだろ。身体越しに見えたあんたの努力について話してたんだ」と続けた。
すると、リズの表情が一気に柔らかくなった。
「そうか。突っかかってしまったな。すまなかった」
「い、いえ。見ながら話していた私たちも悪いので」
リズの言葉にセレナがそう答えると、リズが言う。
「あたしはリズ。その……こう見えてウォーリアーだ」
その言葉に、俺とセレナは驚きながら顔を見合わせた。




