20:ナイトリッチ③
バンさんの一撃はかなりのダメージを与えたはず。
しかしナイトリッチは、意識の外側からの突然の攻撃にも関わらず、動じずに強化のスキルを発動。
全身と大剣にマナを纏い、振り返りながら大剣を薙ぎ払う。
まずい!
これは防ぎきれない!
バンさんは剣を振り下ろし切ってるため、防げない。
もしバンさんが剣を振り上げられたとしても、おそらくナイトリッチの大剣で、バンさんは剣ごと真っ二つにされてしまうだろう。
俺が氷ナイフを投げたところで、ナイトリッチのこの一撃は止められない。
刹那の時が、緩やかに流れる。
バンさんの死が不可避であると感じた瞬間。
ガキィィィッン!
バンさんを光の障壁が包み、ナイトリッチの大剣を防いだことで、金属音が響き渡った。
これは……セレナの防御魔術!
「グガァァァッ!」
ナイトリッチは雄たけびを上げ、標的をバンさんからセレナへと変更。
セレナの元へと駆け出そうとした。
しかし、セレナはナイトリッチに臆さずに言う。
「今です!」
「セレナ!君は最高の後衛だ!」
俺がそう叫ぶと、ロックボムを恐れたのか、ナイトリッチは振り返りながら大剣を盾にして守りに入った。
しかし、大剣にぶつかったのは氷のナイフ。
ナイトリッチが砕け散る氷のナイフに気を取られた次の瞬間。
すでに足元に放り込まれていたロックボムが爆発。
吹き飛ばされたナイトリッチは上半身だけとなり、地に這いつくばった。
しかし、大剣は右手に握られたままだ。
「う、嘘だろ……」
俺は驚愕を言葉にした。
なんとナイトリッチは、下半身を失ってなお、左腕一本で地を這い、大剣を引きずりながらこちらへ向かってこようとしているのだ。
「なんて闘志だ」
「きっとその闘志が彼をナイトリッチへと変えたのでしょう」
バンさんの言葉に、セレナは悲しげな表情で答えた。
たしかセレナは、グールは生前の最も強い欲求に支配されると言っていた。
つまりこのナイトリッチの欲求は、戦うことだったのかもしれないな。
こいつはきっと、生前は名のあるウォーリアーだったんだろうな。
俺は同じ戦闘職として、ナイトリッチの勝利への執念に敬意を込めて言う。
「お前のおかげでまた一つ強くなれた。ありがとう。もう休め」
そして、マナを練り、できるだけ大きな両手でやっと持てるほどの石を作り出し、ナイトリッチの頭の上に思い切り落とした。
頭を潰され、ナイトリッチは絶命。
最後まで大剣を手放すことはなかった。
終戦。
「か、勝った!」
「やったぞ!」
村人が声高らかに言う。
たった数体の小型のアニマルグールとはいえ、戦闘職ではない村人からすると、かなり恐怖を伴う戦いだっただろう。
その様子を見て、バンさんが嬉しそうに言う。
「ありがとう。恩に着るよ」
「俺じゃない。その言葉はセレナに」
俺がバンさんにそう言うと、セレナは自信なさげに答える。
「い、いえ……私はほとんど役に立ってませんから……」
「違うよ。セレナのおかげでバンさんは助かった。そのおかげで俺はナイトリッチを倒せた。セレナのおかげでこの村を救えたんだ」
俺が、セレナの行動が勝利につながったことを説明すると、セレナは目を見開きながら「わ、私のおかげ……」と言葉を漏らした。
そしてさらに俺は言う。
「情報共有も的確、回復魔術は凄腕、防御魔術の使い所は完璧。間違いなく今回の最高勲功者だよ。セレナが仲間にいてくれて本当に良かった」
「そ、そんなことを言われたの……は、初めてです」
セレナは噛み締めるようにそう言って涙を流した。
様子を見ていたバンさんが言う。
「そうだな。セレナが回復してくれなきゃ、俺は初撃で終わってたよ。本当にありがとう」
「い、いえ。無事でよかったです」
セレナがそう答えると、バンさんはさらに言う。
「それにあのナイトリッチの渾身の一撃。あれを防げる防御魔術は、そうそうお目に掛かれるものじゃない。セレナはもっと自信をもっていいと思うぞ」
「そうだ!セレナは凄いんだ!俺もレッドスコーピオンの毒に侵されたのを助けられたんだ!一日で二回も」
俺は場を明るくするために、笑い交じりに言葉にした。
しかし、周囲からは俺が思ったのとは異なる反応が返ってきた。
「レッドスコーピオンの毒って……」
「あ、ああ。猛毒どころじゃないぞ……」
話を聞いていた村人たちが口々に言うと、バンさんは「レッドスコーピオンの毒は生還不可能と言われる猛毒だ。それを治すだなんて、前代未聞だぞ」と続く。
「え?そうなの?」
「お、お前知らなかったのか?」
バンさんの言葉に驚いて言うと、バンさんは呆れながら聞き返してきた。
「何にしても、絶対に秘密にしておけ。そんな絶大な回復魔術が使えると知られれば、セレナは引く手数多で、日常が乱されることになるぞ」
「わ、わかった。口外しないでおくよ」
俺がそう答えると、セレナが言う。
「わ、私は体力もないですし、たしかに魔術は得意な方ですけど、使用回数が極端に少ない才能に恵まれぬ者なので、どこでも働けなかったんです……」
その言葉を聞き、バンさんは大笑いをしながら言う。
「ははは!そいつぁいいな!君を仲間にしなかった奴が知ったら、死ぬほど悔しがるだろうよ!」
「セ、セレナ……お、俺たち仲間だよね?見捨てないよね?」
バンさんの言葉に俺がそう続くと、セレナは嬉しそうな顔を浮かべ「もちろんです。これからもよろしくお願いします」と言ってくれた。
「か、かわいい……」
「お、俺ファンになる……」
村人からそんな言葉が聞こえ始めたため、バンさんが咳払いをして言う。
「ご、ごほんっ!さぁ皆!グールどもの腐敗臭が広がる前に片づけだ!」
「「は、はい!」」
それから俺たちは、俺が粉塵爆発で作り出した燃え上がる廃屋に、グールたちの死体を投げ込み火葬。
明るくなる前に、決着。
朝になって村人から多くの感謝の言葉を受け取り、僕たちは次の街へと向かった。




