19:ナイトリッチ②
すぐさまナイトリッチが雄叫びを上げる。
振り返ると、ナイトリッチが俺に剣を向けると同時に、アニマルグールの群れが俺を追いかけてくるのが見えた。
先頭には大型のアニマルグール。
その後ろには小型のアニマルグールが続く。
よし!思った通りだ!
さっきのロックボムの攻撃で、ヘイトが俺に向けられている。
俺は廃屋に向かい走りながら、バンさんに視線を送る。
するとバンさんは俺の視線に気付き、頷いた。
そして村人に言う。
「貸してくれ!そうはさせん!」
バンさんは槍を受け取り、俺を追いかけてきている小型のアニマルグールの前に投げ込んだ。
うまい!
小型のアニマルグールは、槍に阻まれて足を止めた。
「今だ!小さい奴にだけ攻撃しろ!」
バンさんの指示で、村人が小型のアニマルグールへと攻撃を仕掛ける。
「ナイトリッチは俺とセレナで相手をする!そっちは頼んだぞ!」
バンの言葉に、村人たちは一斉に「はい!」と返事をした。
俺が駆け出してから、わずか数秒の挙動。
バンさんの実力が充分に信頼できると判断して、俺はその威勢のいい言葉を背に、廃屋へと急いだ。
大型のアニマルグールと言っても、腐りかけの死体。
足は速くない。
俺は余裕を持ってドアを開け、廃屋へと入る。
残りのアイテムは、ロックボムが2個と、燃える水が2つ、燃えるロープが1本。
こいつらを倒した後に、セレナたちに加勢することを考えると、一つも無駄にはできない。
俺は頭の中で最適解を模索。
古く寂れた廃屋。
二階建て。
埃っぽく籠った空気。
よし!
俺は導き出した案をすぐさま決行。
「こっちだ!こい!」
俺は空いたドアの向こうから、突っ込んでくるアニマルグールに煽る言葉を投げかける。
その言葉は意味がなく、アニマルグールたちは警戒することもなく、ただただナイトリッチの命令通りに俺を追って、廃屋へと入ってきた。
すぐさま俺は二階へと駆け上がる。
すると大型のアニマルグールは考えなしに後を追ってきた。
次の瞬間。
クマのアニマルグールが階段を踏み割り、後に続いていたオオカミのアニマルグールともども身動きが取れなくなった。
好都合だ!
俺はすぐさま階段中腹から、燃える水をかけた。
そして、2階へ上がり、窓から外に出る。
飛び降りて、廃屋の一部を蹴り割って木片を作った。
入口へと戻り、顔を覗かせると、俺を見つけたアニマルグールたちが暴れ出す。
しかし、踏み割ったところから出られずもがくだけ。
「いい感じで埃が舞ってるな」
俺はそう言い、風魔術を発動。
手をかざし、強めの送風でさらに埃を舞い上がらせた。
そして充分に埃が舞いあがったところで、手に炎を纏わせて木片に着火。
アニマルグールに投げつけて、すぐにドアを閉めた。
そして、回避のために、振り返りながら跳ぶ。
すぐさま、廃屋の中で炎は燃え広がり、空気中に漂う大量の埃へと連続着火。
炎は刹那の時を一気に駆け巡り、大爆発を引き起こした。
「あっぶんねぇ……思ってよりもデカかったな」
俺は思わず爆発の規模に驚きの声を漏らした。
廃屋は倒壊。
巨大な焚火と化している。
あとでバンさんに謝ろう。
俺はすぐさま、燃える廃屋を迂回。
セレナとバンさんのところへ向かった。
駆けつけると、状況は明らかに劣勢。
バンさんの傍で、バンさんの名を叫ぶセレナ。
バンさんはナイトリッチの眼前で片膝をついている。
そしてナイトリッチは、今にも大剣を振り下ろそうとしている。
まずい!
「伏せて耳を塞げ!」
俺は叫びながら点火したロックボムを、バンさんが巻き込まれないように、ナイトリッチの頭上へと放り投げた。
するとナイトリッチは剣を振り下ろすのをやめて、後方へと退避。
さらに剣の腹を盾のように構えて、爆炎を防いだ。
こいつ強い!
暗闇で見た剣筋の鋭さ、アニマルグールの統率力、そしてロックボムの威力を学習して退避した知性の高さと身のこなし。
他のアニマルグールなんて比じゃない。
おそらくダークベアーより戦いに慣れている。
俺はナイトリッチに前進の隙を与えないために、石と氷のナイフを投げつけながら、バンさんに近づく。
ナイトリッチは、それを大剣の腹で防いでいる。
氷のナイフは全て防がれたけど、石のナイフはナイトリッチの右太腿をかすめて小さな切り傷を作った。
微かに血が滲んでるけど、流れ出るほどじゃない。
小傷を作って血を流させるような消耗戦は、期待が出来なさそうだ。
俺はバンさんとナイトリッチの間に立ち、セレナに指示を出す。
「セレナ!回復を!」
「は、はい!」
セレナは、すぐさまマナを練り上げ、回復魔術を発動。
「くっ、すまない……油断した」
バンさんに斬られた傷は無かったし、出血もない。
いったい何でやられたんだ。
「セレナ!状況は!?」
俺はナイトリッチを睨みつけたまま尋ねた。
するとセレナは回復魔術を発動したまま言う。
「拳による腹部強打!骨と内臓に損傷なし!」
セレナは頭がいいな。
拳による腹部強打は、剣以外にも殴る蹴るの攻撃を仕掛けてくるということ。
骨と内臓に損傷がないなら、すぐ回復して加勢してくれるということ。
一瞬で多くの情報を盛り込んだ、端的かつ的確な回答だ。
「了解!」
俺はそう答え、石と氷のナイフを生み出し、投げながらナイトリッチの側面へと回り込んだ。
顔を狙い真っ直ぐに投げる。
時に上空へと投げつけて、落下を利用してナイトリッチの頭頂部を狙う。
しかしナイトリッチは、そのどれもを容易く防ぎ、避けた。
そして、右脚を大きく踏み込み、間合いを詰めてきて、大剣を薙ぎ払う。
俺はカウンターとして氷のナイフを、ナイトリッチの右膝へ投げつけながら、大きく後方へと跳躍。
すると一瞬、ナイトリッチが怯んだように見えた。
視線を切らさずに着地して、さらに氷のナイフを投げつける。
ナイトリッチはすかさず大剣で斬り落とした。
やっぱり氷のナイフは警戒してるみたいだな……
そう思いよく見ると、氷のナイフが刺さった膝上の部分が少し凍ってるように見える。
だから氷のナイフは慌てて防いだのか!
微かに見えた勝機。
それを手繰り寄せるために、俺は氷のナイフを生み出し、投げながら思考を駆け巡らせる。
考えろ!
どうすれば勝てる!
接近戦はナイトリッチが上。
素早さは若干俺に分があるけど、戦局を変えられるほどの大差はない。
今の所、有効な攻撃手段は氷のナイフとロックボムだけど、氷のナイフは牽制程度にしかならない。
脳をフル回転させて戦略を立てていると、さらに希望の光が強まる。
バンさんが立ち上がり、剣と身体にマナを纏いながら駆け寄ってきた。
見るな!気取られるな!
俺がバンさんを見れば、ナイトリッチがバンさんの奇襲に気づくかもしれない。
俺はそう思い、バンさんには当たらずに、ナイトリッチにだけ当たる場所。
足のつま先へと狙いを変えて、氷のナイフを投げ続けた。
すぐさま駆け寄ってきたバンさんが、掛け声もなく袈裟斬り。
ナイトリッチの背中を大きく斬りつけた。




