18:ナイトリッチ①
村人が松明で照らしたり、槍を突き立てたりして隙を作る。
その隙をついて、俺とバンさんがアニマルグールの頭部を破壊。
「よし!みんなよくやった!」
オオカミ型のアニマルグールを一匹逃がしたけど、ケガ人が出ることなく戦闘を終えられたのだ。
成果としては上々と言える。
「お、おそく……はぁはぁ……なりました……はぁはぁ」
「セレナも駆けつけてくれたのか。ありがとう」
遅れてやってきたセレナに、バンさんは嬉しそうに答えた。
「セレナ。先に行ってごめんね」
「い、いえ……ついて行けず申し訳ありません……」
俺の言葉にセレナが暗い表情で答えるため、俺は「セレナ。周りを見て」と声をかけた。
「は、はい」
セレナは俺が言った通り、返事をしながら周りを見た。
そして「な、何か?」と尋ねて来た。
「みんな無事だ。ケガ人も毒に侵された人もいない」
俺はそう言ってから「自分が活躍したか役に立ったのかなんて気にしなくていいだ」と伝えた。
「はい!」
セレナは表情を明るくして返事をした。
きっと、今までこういう事でお荷物扱いされてパーティから外されてきたんだろうな。
「それはそうと……バンさん。あっちの方には何が?」
俺が逃した一匹が逃げていった方向を指さして言う。
するとバンさんは「誰も住んでない民家があるだけなはずだが……」と答えた。
村人含め、全員で慎重に歩き、様子を見に行くと、バンさんの言った通り一軒の廃屋があった。
俺がそれに気を取られていると、一人の村人が声をあげる。
「こっちに来てくれ!」
すぐに駆け付け、村人が指さす方を見ると、村を囲っている板の一部が破壊されていた。
「これはアニマルグールが壊したんじゃないな」
「ああ。明らかに刃物による破壊痕だ」
いくつかの斬撃痕から俺が推察すると、バンさんも同調した。
すると村人が「いったい誰がこんなことを!」と騒ぎ始めた。
村を囲う板は俺の背よりも高い。
その板が、人が数名並んで通れるほどに、壊されている。
しかも、住民が気付かないうちにだ。
「濃厚なのはウォーリアーなんだけど……」
俺がそう言いながらバンさんを見ると、バンさんは「おいおい。勘弁してくれ。こう見えても次期村長だぞ」と困った表情を浮かべた。
「冗談だ。バンさんがそんな人じゃないのは分かってる。ただ破壊痕からしてウォーリアーというのは間違いないと思う。野盗が斬り壊してアニマルグールを侵入させたのか?」
俺が推察を言葉にしながら、柵の向こう側を見た。
月明かりに照らされた森。
見えるのは入り口まで。
奥は暗くてどうなっているのかは見えない。
どこかに何かが潜んでる可能性は高い。
深追いはするべきじゃないな。
そう考えていると、柵の向こうの暗闇から金属を引きずるような音が聞こえて来た。
カッカッカカカカカ……
カッカッカカカカカ……
「何か来る!」
「下がれ!俺とルークが前に立つ!」
俺はそう言いながら、マナを練り、両手に炎を纏わせた。
同時に、バンさんもウォーリアーのスキルである強化を発動。
全身と長剣にマナを纏った。
見えないな。
音からしてまだ森の中にいるのだろう。
俺はそう思い、落ちている木片と手に取り火を灯した。
そして、暗闇へと投げつける。
数枚投げたうちの一つが、向かう先に、二つの小さな薄紫色の炎が浮かび上がる。
その手前で、燃える板は真っ二つに割れて地に落ちた。
恐ろしく鋭い剣筋。
一瞬、火に照らされて見えたのは、紫の瞳と干物のようにこけた頬。
様子を見ていると、小さな薄紫色の炎が少しずつ近づいてくる。
すると村人の誰かが声をあげる。
「見えてきたぞ!」
森から出てきたことで、月明りに照らされ、少しずつその全貌が明らかになってゆく。
バンさんよりも高い背丈。
薄紫色の炎のように揺らめく瞳。
手には俺の背丈ほどの大剣。
顔と同様に渇きを覚えた胴体と四肢
頭部の髪は抜け落ち、身体には胸当てなどの部分的な防具。
「なんだよこいつ!」
俺が驚きの声を上げると、バンさんは「ナ、ナイトリッチだと!?」と驚きの声を上げた。
「バンさん!知ってるの?」
俺が尋ねると、バンさんは「ナイトリッチは、腕の立つウォーリアーの死体がグールと化したものの総称だ」と教えてくれた。
そしてバンさんはさらに言う。
「生前に身につけたスキルも使えるし、さっき木片を斬り伏せた通り、剣の腕も衰えていない」
「厄介なんてもんじゃないな」
バンさんと俺がそう話していると、ナイトリッチの後ろから、ぞろぞろとアニマルグールの群れが姿を現した。
オオカミとクマのアニマルグールが三体ずつ。
イヌやネコの小型のアニマルグールは約十体といったところだ。
「完全に不利だな」
「ああ。しかし、ここで戦わねば村を守れん!」
俺とバンさんが覚悟を決めた瞬間。
ナイトリッチは空に向かって剣を突き立て、そして振り下ろしながら叫ぶ。
「グガァァァッ!」
まるで開戦の合図だな。
それに導かれるように、アニマルグールの群れが駆けだす。
まるで川幅が狭まる所のように、広がっていたアニマルグールの群れが、柵の壊れた部分へと流れ込む。
「知力が低くて助かるよ」
俺はすかさずロックボムに点火。
アニマルグールの群れの先頭と、柵の向こう側の二か所に投げ込んだ。
連続する炸裂音。
形勢逆転とまではいかないが、半数以上のアニマルグールがただの肉片と化した。
初めて見るロックボムの威力と、広がる光景に、バンさんとセレナは驚くだけだったが、村人は歓声を上げる。
「やった!すごいぞ!」
「これならいける!どんどん投げつけれくれ!」
そして中には「凄い魔術だ!」と声をあげる者までいる。
「集中して!敵はまだいる!このアイテムは残り少ないから投げ切るわけにはいかない!」
俺はそう言って気を引き締めさせた。
残りはオオカミとクマの大型アニマルグールが一体ずつ。
それと小型アニマルグールが四体か。
大型の二体はロックボムを見てから回避してたな。
投げて当てるのは難しそうだ。
「バンさん!セレナ!少しの間小さいアニマルグールとナイトリッチを頼む!俺はデカいアニマルグールを!」
俺はそう指示を出して、すぐにいくつもの石の礫を生み出した。
「はい!」
「無理はするなよ!」
俺の言葉に、セレナとバンさんははっきりと強い口調で答えた。
よし。俺は俺の役割に集中だ。
そう思い、俺は石の礫を投げつけてから、俺は廃屋へと向かい走り始めた。




