17:襲来
バンさんが「夜は危険だから外に出るなよ」と声をかけて扉を閉める。
床に寝転び目を閉じたものの、正直、全っ然寝れる気がしない。
それどころか心音はバカでかいし、血圧が上がりすぎてるのか、若干頭が痛くて目が覚めていってるまである。
くそ……昨日の野宿の時は何とも思わなかったのに……
バンさんが変なこと言うから……
俺は何とか気を紛らせるために、夕食が美味しかったことを思い出すことにした。
シチューおいしかったな。
味もだけど具沢山だったからすぐにお腹がいっぱいになった。
いや、待てよ……
俺は思い出している最中に、あることに気が付き言う。
「セレナ」
「は、ははは、はい!」
俺が唐突に呼んだせいか、セレナを驚かせてしまったようだ。
「だ、大丈夫?」
「す、すすす、すみません!驚いてしまって」
相違とセレナは深呼吸をして落ち着きを取り戻した。
そしてセレナは「それで。どうしましたか?」と尋ねてくる。
「あ、うん。今日のシチュー凄く美味しかったけど、肉が入ってなかったね」
「はい。一緒に作ってるときにカーナさんに聞いたんですけと、アニマルグールが出るようになってから、この辺りで生きた魔物を見なくなったそうです」
俺の言葉に、セレナは教えてくれた。
「それに気が付かないほどに沢山の野菜が入ってたんだ」
俺がそう言うと、セレナは思い出すしぐさをしながら言う。
「たしかカーナさんは、アニマルグールのせいで魔物は見ないけど、野菜はたくさんあるって言ってました」
「おそらく嘘だ。村の子供たちも、民家からこちらを覗き見ていた女性も痩せていた」
セレナの言葉に俺はそう言い、さらに続ける。
「カーナさんは身ごもってるので間違いなさそうだけど、今で何か月くらいなんだろ?」
「えっと確か半年くらいって……それならもう少しお腹が出ていてもいいかもしれないですね」
俺の言葉を聞いて、セレナは少しずつ予測のすり合わせが脳内で進み始めているようだ。
「この村の人たちは優しいから、俺たちに不安を与えないようにしてくれているだけで」
「ええ。かなり危機的状況かもしれませんね」
俺が途中まで言うと、セレナはその続きを言葉にした。
俺は冒険者に憧れていたため、冒険者の活動規約は熟知している。
規約の中に、無報酬での人助けを禁止する事項はない。
それに、人助けをするときに、必ず冒険者ギルドを通さなければならないという規約もない。
つまり、食事と宿のお礼に、アニマルグール退治をしても、何の問題もないということだ。
ただ、俺は冒険者じゃないから問題ないけど、すでに冒険者であるセレナには一つだけデメリットがある。
「セレナ。冒険者の活動規約には、冒険者への評価は、冒険者ギルドの出すクエストの難易度と完遂率で判断されると書かれてる。つまり今回の人助けは評価につながらない。それでもいいかな?」
俺は尋ねながら、セレナが嫌がることを想定した。
怪我をし、毒に侵され、命がけの戦いになるかもしれない。
しかも、何の評価に繋がらない。
普通であれば、断って当然だからだ。
しかし、セレナの答えは違った。
「もちろんです!」
俺の言葉に、セレナは一瞬も迷うことなく、真っ直ぐに俺の目を見て、そう答えた。
その目の輝きに、心の在り方の眩さに、俺は一瞬目がくらんだ。
そして、自然と「君が仲間であることを誇りに思うよ」と言葉が出た。
「あ、その……今のは……」
思わず言葉にしてしまったため、俺は恥ずかしくなり、ごまかしの言葉を探した。
すると外から騒がしい声が聞こえてくる。
「出たぞ!使えなくてもいい!とにかく武器を持て!」
「か、家族を守るんだ!」
一人はバンさん。
もう一人は誰か分からないけど、村の男性の声だ。
他にも数名の男性がいるようだ。
「とにかく行こう!」
「はい!」
俺は腰のポーチにロックボムや燃える水、燃えるロープがあることを確認してから走り出した。
階段を駆け降りると、そこにはカーナさんがいた。
「ルークさん!セレナさん!」
「カーナさんは安全な所に!バンさんの事は俺たちに任せてください!」
俺たちを呼び止めようとしたカーナさんに、俺がそう答えると、カーナさんは少し涙ぐみながら「よろしくお願いします」と言葉にした。
「セレナ!戦闘は俺がする!セレナはサポートを!」
「任せてください!」
俺が言葉少なく言うと、セレナがおたおたせずに、強くはっきりとした口調で答えた。
家を出て、声のする方へ向かうとすぐにバンさんたちが見えてきた。
松明で照らす役割の男性が二人。
槍を構えている男性は、バンさんを含めて三人。
小型犬程度のアニマルグールが三体と、少し大きめのオオカミ型のアニマルグールが二体いる。
松明の火を恐れているのか、バンさんたちとアニマルグールたちは睨み合い、硬直状態になっている。
「火が弱点なら好都合だ!」
村の中でロックボムを炸裂させると被害が大きくなりかねない。
俺はそう判断して、炎魔術を発動。
走りながら拳に炎を纏わせた。
「まずい!セレナ!先に行くよ!」
俺はそう声をかけ、速度を増して駆けつける。
そして、槍を構える男性に飛び掛かろうとした小型のアニマルグールを、炎の拳で殴り飛ばした。
「ルーク!?」
「ね?ウィザードだって言ったでしょ?」
驚きの声をあげるバンさんに、俺が冗談交じりにそう言うと、バンさんは笑みを浮かべて「だから悪かったって。ついでに他のもいいか?」と言う。
「ああ。そのつもりで来た」
「恩に着るよ」
俺が炎を滾らせて睨みつけると、アニマルグールは怯み、後ずさりをした。
俺に気を取られている隙に、バンさんがオオカミ型のアニマルグールを、側面から槍で頭を一突き。
「こいつらは頭部を破壊すれば動かなくなる!」
「了解!」
バンさんの助言に俺はそう答えた。
そして、バンさんの一撃でさらに取り乱している小さい個体の頭を、炎の拳で殴り潰した。




