16:恋人ではない
そして微かに聞こえてくる会話に聞き耳を立てる。
「あなたは優しい子ね。うちの旦那も、義理の父なんて、一緒にいるのに気付きもしないんだから」
カーナさんの言葉からするに、セレナの読みは当たってたみたいだな。
するとその言葉にセレナが答える。
「私の母が言ってました。男性は言わないと分からないって。特に戦闘職の男性は一生子供みたいなものだから察してほしいは通用しないって」
「ふふふ。お母様の言う通りね。私も言おうかしら。でも気づいてほしいと思うのが女という生き物なのよねぇ」
セレナの言葉に、カーナさんがそう言うと、セレナは「わかります」と笑顔で答えた。
するとカーナさんの何かに火が付いたのか、抑えていたものが燃え上がり始める。
「まったく!何が部屋を用意してあげて欲しいよ!何が野盗とアニマルグールの門番よ!こっちも命がけだっての!」
そう言いながら凄い勢いで、野菜を力強く切る音が聞こえてくる。
こ、これは……
ひょっとして日ごろからバリルさんとバンさんに相当不満が溜まってたんじゃないのか?
そう思っていると、玄関から物音がした。
するとバリルさんが不思議そうに「ん?倅が帰ってくるには早いのですが……」と言う。
外を見ると、もう暗くなり始めている。
まさか、アニマルグールか……?
バンさんが門番をしているとはいえ、侵入経路が他にないとは限らない。
「バリルさんはここにいてください」
俺がバリルさんにそう声をかけると、セレナがカーナさんを連れてダイニングへとやってきた。
「ルークさん。今の音……」
「ああ。可能性は高いと思う。バリルさんとカーナさんは部屋の隅にいてください」
俺がそう言うと、カーナさんは手に持つフライパンを強く握りながら「は、はい!」と答えた。
戦闘職でもないのに……
母は強しってやつかな……何が何でも守り抜いて見せる。
カーナさんの気丈な姿に勇気をもらい、俺はマナを練り、投擲用に石を生み出した。
セレナは隣で杖を強く握る。
「セレナ。分かってるっと思うけど前衛は俺。支援は任せた。もし近づかれたとしても、傷を負わないように距離を取って戦うんだよ」
俺が小声で指示を出すと、セレナは緊張した様子でゆっくりと頷いた。
床が軋む音が徐々に近づいてくる。
歩く速度が遅い。
バンさんじゃないのは確実だ。
姿が見えた瞬間に、全力で頭部に投げつける。
俺は今までの投擲訓練を思い出しながら心の中で「大丈夫だ。この距離なら確実に当てられる」と自分に言い聞かせた。
足先が見えた!
次の一歩で頭が見える!今だ!
「もどったぞー……ん?何してるんだ?」
俺が先読みして振りかぶると、あっけらかんとした表情のバンさんが現れた。
「バ、バンさん!?」
俺は慌てて投擲を止めたせいで転び、セレナは「き、緊張したぁ」と言い、力が抜けた。
「もう。あなたったら!驚かさないでください!」
「全くじゃ。それにしても早かったのう」
カーナさんとバリルさんがそう言うと、バンさんは「ど、どうしたってんだ?揃いも揃って……」と理解が追い付かないといった様子で言う。
カーナさんとセレナが作ってくれたシチューやパンを食卓に並べる。
「カーナの作る飯はどれも美味いんだ!しっかり食えよ!」
「今日はセレナさんも手伝ってくださったんですよ」
バンさんの言葉にカーナさんがそう言うと、バンさんは「ってことはいつにも増して美味いってことだな!」と言って笑った。
それからバリルさんが祈りを捧げて、食事が始まった。
すぐにバリルさんが尋ねる。
「それにしても今日はえらく早かったな」
「ああ。俺が休めていないことを気にかけてくれた連中がいてな。早くに交代に来てくれたんだ」
バリルさんの言葉にバンさんがそう答えると、カーナさんは「危うくフライパンでぶつところでしたよ」と笑顔で答えた。
「ははは!それは怖いな。しかし、まさかアニマルグールに間違われる日が来るとはな」
「「す、すみません」」
バンさんの言葉に俺とセレナは、早とちりしたことを謝罪した。
明るい雰囲気のまま、食事を終えて、バンさんが部屋に案内してくれた。
ロウソクに火を灯し、二階に上がり、一番奥の部屋の扉を開ける。
すると、部屋の中はにはベッドが一つと机が一つだけあった。
「悪くない部屋だろ!ここは日も月明りもよく入るから、昼間は暖かいし、夜でもロウソクなしでいけるんだ」
バンさんはそう言うと「まぁ少し埃っぽいが、そこは我慢してくれ」と言って笑った。
それはいいんだ。
全然いいんだ。
それよりも問題は……
俺があることを指摘する前に、セレナを見ると、セレナも同じことを考えているのだろう。
恥ずかしそうに下を向いてしまっている。
するとバンさんがさらに言う。
「あ、そうだ。先に行っておくぞ。壁が薄くて声が聞こえやすい。配慮してくれよ」
その言葉を聞き、俺とセレナは慌てて否定する。
「お、俺たちは仲間だ!」
「そ、そそそ、そうです!こ、ここ、恋人じゃないです!」
その言葉を聞き、バンさんは「なんだ?違ったのか?部屋はここしかないしなぁ」と腕組みをして首を傾げた。
「だ、大丈夫!俺が床で寝るから、セレナはベッドを借りて!」
「え、ええ?私が床で寝ますよ!」
俺の言葉に、セレナは慌ててそう言うが、俺は慌てすぎて「俺、床で寝るの好きだから!」と言って、床に寝転んでしまった。
床が好きってなんだよ。
「いい仲間だな。こういう時は男の言葉に甘えとくのが女の子だぜ」
バンさんが最高のフォローをしてくれたおかげで、セレナは少し恥ずかしそうに「ありがとうございます」と言ってベッドに横になった。




