15:バン
「すみませーん。どなたかいらっしゃいますかー?」
扉を叩き、呼ぶとすぐに中から若い女性が出て来た。
「あら。どなたかしら?」
「ルークと申します。旅の者です。バンさんから、ここなら泊めてもらえると教わってきました」
俺がそう答えると、セレナは隣で「セレナです」と言い、会釈をした。
「そうでしたか。空いている部屋があるのはあるのですが……」
女性が何か言いかけると、奥からおじいさんが顔を出して「お客さんかい?」と尋ねて来た。
俺が同様の挨拶をすると、おじいさんは明るい表情で言う。
「そうでしたか。儂は村長をしているバリルと申します。カーナさんや。部屋を用意してあげてくれるかな」
「は、はい……」
カーナと呼ばれた女性は、何か言いたげな表情を浮かべながら、二階へと上がって行った。
バリルさんに案内され、ダイニングテーブルを囲み座る。
「ようこそおいでくださいました。何もない村ですが、せめて夕食だけでも食べて行ってください」
「ありがとうございます。すみません。ご迷惑でしたよね?」
にこやかに歓迎してくれるバリルさんに俺がそう言うと、バリルさんは「そんなことはありません」と答えた。
「でも……カーナさん何か言いたげな表情をされていましたし……」
「ああ。嫌な思いをさせて申し訳ない。カーナはおそらく、今のこの村の状況を考えて、お泊めするのをためらったのじゃと思います」
セレナが申し訳なさそうに言うと、バリルさんは柔らかい物腰のまま教えてくれた。
「バンさんから伺いました。アニマルグールが出るって。最近出始めたんですか?」
「ええ。十日ほど前からです。夜になると村の周りを徘徊し始めて、たまに村に侵入してくることもあるのです」
俺が尋ねると、バリルさんは困った表情でそう言い、さらに「倅を休ませてやりたいのですが、代わりの者もおらずで……」と続けた。
ん?倅?
「ひょっとしてバンさんは村長さんの息子さんなんですか?」
セレナがそう尋ねると、バリルさんは「おや?倅から聞かれてませんでしたか?」と聞き返してきた。
「ええ。すみません。確認不足でした」
「いえいえ。構いません。カーナさんは倅の嫁でして」
俺の言葉にバリルさんはそう言うと、嬉しそうに話し始める。
「昼は野盗の見張りをして、夜はアニマルグールの見張りをしている倅の身を案じてくれる優しい子です。まったく倅にはもったいないですよ」
そしてバリルさんは「心配しすぎてよく体調を崩すので少し心配ですがね」と穏やかな表情で続けた。
「優しい方なんですね。それにしても……昼も夜もって、バンさん全然休めていないんじゃ……」
「ええ。しばしば仮眠を取りに戻ってくるのですが、なにぶんこの村には倅以外に戦闘職の者がおりませんでして」
セレナの言葉にバリルさんはそう答えてから、この村の状況を教えてくれた。
バリルさんにあるエンブレムは鍬。
これは農作業を得意とするファーマーのエンブレムだ。
畑を耕し、美味しい野菜を作れる素晴らしいエンブレムだけど、戦いにおいてはからっきし。
ちなみにカーナさんは、ペンのエンブレムのリサーチャーだそうだ。
「他の村民も生産職ばかり。私の家内がウォーリアーだったのですが、昨年、病でこの世を去ってしまいまして」
バリルさんはそう言うと、さらに話を続ける。
「倅が仮眠をとる間だけ、村民が代わりに槍を持って門番をしてくれているのです」
バリルさんは言い終えると、申し訳なさそうな表情を浮かべた。
「アニマルグールの事もですが、バンさんの体調も心配ですね……」
俺がそう言うと、二階から戻ってきたカーナさんが言う。
「お部屋の準備が終わりました。今から夕食を作りますので、少々お待ちください」
「ありがとうございます。ご無理言ってすみません」
俺はそう言ってから深く頭を下げた。
カーナさんは笑みを浮かべ会釈を返してくれてるけど、暗さは消えていないな。
するとキッチンに入っていくカーナさんを見てセレナが尋ねてくる。
「え?あれ?ル、ルークさん……」
「ん?どうしたの?」
俺が聞き返すと、セレナはカーナさんの腹部を見て言う。
「カーナさん……ひょっとして赤ちゃんがいるのではないでしょうか?」
「え?そうなの?」
セレナに聞かれ、俺が聞き返すと、セレナは「おそらくですが」と答えた。
そう言われてみれば……
さっきは気付かなかったけど、横から見ると、少しお腹が膨らんでいるような気がしなくもない。
あまり見すぎるのはよくないか。
俺がそう思っているとセレナが立ち上がり言う。
「私、お手伝いします。カーナさんはご無理なさらないでください」
「あら。ありがとう」
セレナの言葉に、カーナさんはそう言うと、一緒にキッチンで作業を始めた。




