14:アニマルグール
小川の傍にテントを張り、火を灯して干し肉とパンを齧る。
セレナはテントの中で、俺は星空を眺めながら眠りについた。
「おはようございます。すみません。テントを譲ってもらっちゃって」
「おはよ。気にしないで。冒険者といえど女の子を地べたで寝かせられないからね」
俺はそう答えてから「まぁテントが張れない時もあるから、その時は我慢してね」と続けた。
朝日と共に目覚め、小川で顔を洗う。
熾っている炭を消し、テントをしまい、革袋に水を汲んで歩き始める。
セレナの様子を見て、早めに休息を取ったり食事にしたりしていると、セレナが申し訳なさそうに言う。
「す、すみません。私のペースに合わせさせてしまって……」
「俺たちは仲間だから、ちょっとしたことで謝罪はやめよう。感謝の気持ちは大事だけどね」
俺はそう答えてから「回復してもらうたびに謝ってたら、俺ずっと謝らないといけなくなるよ」と笑って続ける。
するとセレナは明るい表情で「はい!」と答えた。
「旅において最優先すべきは仲間との関係性。道中楽しみながら進もう」
「道中楽しみながら……そんなことを言われたのは初めてです」
そう話し、それからも休み休み歩いて進む。
日が暮れる前。
丘を越えたから、背の高い木の柵に覆われた小さな村が見えた。
板を張り合わせたような民家が並んでる。
決して裕福な村ではなさそうだけど……
「無理に夜道を進むのは危険だから、この村で泊まれる場所があるか聞いてみようか」
「そうですね。あ、あそこ。門番さんがいます」
セレナの指差し方向に目を凝らすと、腰にはかなり幅広で長い剣を携え、手には長い槍を持った男性門番が見えた。
門番は、おそらく体格からしてウォーリアーだな。
「行ってみよう」
「はい!」
俺たちが歩いて近づくと、遠目に俺たちに気づいた門番は槍を構えた。
「な、なんだか警戒されてるな」
「で、ですね。最近、野盗でも出たのでしょうか」
俺とセレナがそう話しながら近づくと、門番は俺たちを見て「なんだ。子供か」と言いながら槍を納めた。
「ま、まぁ子供と言えば子供かな。一応十五だから大人と言えば大人だけど」
「モンスターか何かが出たんですか?」
俺が答え、セレナがそう尋ねると、門番は「最近暗くなると、アニマルグールが出るんだ」
「アニマルグール?」
俺がそう聞き返すとセレナが「聞いたことがあります」と言って教えてくれた。
通常、人間や魔物が死ぬと、体内に残っていたマナは、体外へと流れ出て空気に溶け込むようにして消えてしまう。
しかし時折、体外へと抜けきらずに、体内に残り続け、死体を暴走させることがある。
そのマナ暴走を引き起こした人間の死体は総称してグール。
魔物の死体は総称してアニマルグールと呼ばれるそうだ。
「そしてグールと化したものは、生前の最も強い欲求に囚われます。アニマルグールであれば食欲。なので人間を襲うことが多くあります」
セレナはそう続けた。
「つまり動く死体ってことか。厄介なモンスターだな」
「ああ。切っても刺しても痛みを感じずに襲ってくる。腐敗が進んでるから臭いし、嚙まれたり引っかかれたりすると、そこから猛毒に侵されることもある」
俺の言葉に、門番はそう教えてくれた。
そしてさらに「今はまだコンキツネ程度の小型のアニマルグールだからいいが、もしクマやブラックベアなんかの大型のアニマルグールが現れたら逃げるしかないだろうな」と続けた。
「この近くで野宿しなくて正解だったね。この村に泊まれる場所はありますか?」
俺はセレナに声をかけてから、門番に尋ねた。
すると門番は俺たちを見て言う。
「ファイターとプリーストか。野盗ではなさそうだし駆け出しの冒険者ってところか?」
「半分くらいは正解。俺はルーク。今から冒険者になるためにグランダルムへ向かう途中だ。こっちはセレナ。彼女はすでに冒険者に登録済み」
俺がそう言うと、セレナは「アイアンランクですけどね」と言いながら鉄板の付いたネックレスを見せた。
そして俺はさらに続ける。
「で、肝心なところだけど、俺はファイターじゃなくてウィザードだ」
「ウィ、ウィザード!?その体格でか!?」
俺の言葉に、門番は驚きながらそう言った。
「ああ。光栄なことに才能に恵まれぬ者でね。魔術が下手な代わりに体格に恵まれてしまったんだ」
「す、すまん。そうへそを曲げるな。差別意識はない。苦労したんだな」
俺が少し嫌味に言うと、門番はすぐに謝罪し、表情を戻した。
そして言う。
「俺はバン。ウォーリアーだ。この村に宿屋はない。一番奥にある一番大きな家に行って、俺の名前を出せ。そうすれば泊めてもらえる」
なんだ。
嫌な人かと思ったけど、凄くいい人だな。
「あ、ありがとう。あとごめん。俺も嫌な言い方したことを謝るよ」
「気にするな。さぁ暗くなる前に行け。それと、夜は出歩くなよ」
俺の謝罪をバンは明るく受け止めてからそう言ってくれたため、俺は「わかった。ありがとう」と言い、村へと入った。
「どうなるかと思いましたが、凄く優しい方でしたね」
「うん。身構えて悪いことしちゃった」
セレナと俺は、そう話しながら進み、最奥の家へと向かう。
奥に向かう途中にすれ違う、細身の子供たち。
あまり食べれていないのか、走り回ることも無く、元気がなさそうだ。
「ん?」
視線を感じ、その方向を見てみると、民家の中から細身の女性が窓から覗き見ていた。
どんなエンブレムを持っている女性かは分からないけど、ウォーリアーやファイターではなさそうだ。
それにあの表情……警戒しているのかもしれないな。
そう思い会釈をすると、女性は覗くのをやめた。
この町で起きていることは、思ってるよりも深刻なのかもしれないな。
そう思いながら進み、すぐに最奥にある家へと着いた。




