第13話:欠陥魔術士は旅に出る
ノースリーフから南西に伸びる森に挟まれた街道を歩く。
薬草を見つけ、すり潰して額に塗り、目指すはグランダルム。
といってもグランダルムまでは歩いて行ける距離じゃない。
「たしか数日歩いた先にある町から、馬車が出ていたはずだ。まずはそこまで行ってみよう」
しかし不便だな。
なんでグランダルムでしか冒険者登録ができないんだ。
ノースリーフにはなかったけど、もう少し大きめの各街には冒険者ギルドがある。
しかし、各街でクエストの受注や完遂報告はできても、登録はグランダルムでしか行えないのだ。
俺が不満を抱きながら歩いていると、後ろから声が聞こえてくる。
「待って……待ってくださーい!」
「ん?セレナ!?」
振り返ると、そこには息を切らしながら走ってくるセレナがいた。
あ、足遅いな。
しばらく見守っていると、ようやくセレナが傍まで来た。
「す、すみません……はぁはぁ……呼び止めてしまって……はぁはぁ……」
「う、うん。大丈夫。っていうか大丈夫?」
俺がそう言いながら、水の入った革袋を差し出すと、セレナは会釈をしてからごくごくと飲み始めた。
セレナの呼吸が整うのを待ち、再び尋ねる。
「どうしてこんなところに?」
するとセレナは深呼吸をして、意を決したように言う。
「あ、あの!これからどちらへ向かわれるんですか!?」
「え?えっと冒険者の登録をしにグランダルムへ行くんだけど……」
セレナの勢いに押され気味に俺がそう答えると、セレナはさらに気持ちを込めて言う。
「やっぱり!私も一緒に行っていいですか!?」
「え?い、いいけど……君はローウェンを見に来たんじゃなかったの?」
俺が戸惑いながら尋ねると、セレナは「ち、違います!」と答えた。
いったいどういうことだ?
俺は理解ができずにさらに尋ねる。
「凄いウィザードを見に来たって言ってなかったっけ?」
「い、言いました!言いましたけど、ローウェンさんを見に来たとは言ってません!」
セレナはそう言ってから、さらに言う。
「私が見に来たのは、才能に恵まれぬ者なのに、工夫を凝らしながら戦うすごいウィザードさんです!」
「……ん?それって俺の事!?」
やっと理解が追い付いた俺がそう言うと、セレナは嬉しそうに笑顔で「はい!」と答えた。
あまりの驚きと嬉しさに、俺は涙が出そうになるのを堪えながら言う。
「ちょうど仲間を探してたところだったんだ。こんな俺でよければ一緒に行こう」
「ありがとうございま……す」
俺の言葉にセレナは嬉しそうにそう答えると、明るい表情のまま倒れてしまった。
「セ、セレナ!?」
「す、すみません……少し休めば治ります……」
セレナが歩けるまで回復するのを待ち、街道を歩きながら話す。
「すみません。待たせてしまって……」
「気にしないで。また危なくなったら言ってね。休み休み進もう」
俺がそう答えると、セレナは申し訳なさそうな表情で言う。
「じ、実は……あまりにも体力とマナ量が少なすぎて、動いても魔術を使っても、すぐに息切れを起こしてしまうんです」
セレナはそう言ってから、さらに表情を暗くして「つ、つまり……その……私も才能に恵まれぬ者なんです」と続けた。
それからセレナは、これまでの経験を教えてくれた。
プリーストの卒業試験は、傷や状態異常を治すこと。
それは問題なくできるため、12歳で職業訓練所を卒業できたらしい。
しかし問題はそこから。
教会へ回復係として務めに行ったが、一日に十回から十五回程度の魔術使用で息が上がり、マナポーションを飲むか、長時間の休憩が必要になる。
マナポーションは高価なため、必然的に休憩を取ることになるが、一人だけ休んでばかりだと言われ、周囲から嫌われてクビになったらしい。
「なるほど。他の仕事はやってみたの?冒険者とか、店の手伝いとか」
「え、ええ。色々とやってみたのですが……苦節三年。何をやってもダメでした」
僕が尋ねると、セレナは暗い表情で教えてくれた。
セレナは、ノースリーフの東にあるイースティンという大きな街の出身。
そこにはノースリーフよりも、数多くの武器屋や防具屋、魔法具屋、飲食店などがある。
働き口には困らないはずだったが、そういった店で働くにしても、セレナは筋力も体力も足りない。
とにかく可能性を広げようと、イースティンから出ている馬車を乗り継いでグランダルムへ行き、冒険者登録をした。
「登録して、パーティメンバーを募集したら、すぐに親切な人たちが回復役にとパーティに加えてくれたんです。ですが……」
どのクエストに行くにしても、体力の問題で行動についていけなかったそうだ。
「体力だけの問題ではなく、それぞれに回復魔術を三回ずつ使えばそれだけで息切れを起こしてしまい……」
なるほど。
冒険者は大体三人から四人編成。
もし四人編成だった場合、セレナを除く三人に回復魔術を三回ずつ行えば、魔術の使用合計数は九回。
「ちなみにだけど、セレナ自身の体力を回復させるために回復魔術を使った場合は、少しは長く動けるけど、先にマナ切れを起こしちゃう感じ?」
「はい。その通りです」
そしてセレナはあえなくパーティを追い出され、途方に暮れていた。
そんなときに、奮闘する才能に恵まれぬ者の噂を聞きつけて、一目見てみたいとノースリーフまでやってきたそうだ。
「た、大変だったんだね……」
「あ、後出しになってしまい申し訳ありません!こ、こんな私ですが行動を共にさせていただいてもよろしいでしょうか?」
セレナはそう言って、再確認をしてきた。
その言葉に僕は即答する。
「もちろん!お互いに長所を生かして頑張ろう!」
その言葉を聞き、セレナは少し涙を浮かべ、満面の笑みで「はい!」と答えた。
「少しずつお互いの出来ることや出来ないことを共有し合っていこう。とりあえず今夜は野宿だけど、それは平気?」
「も、もちろんです!こ、こう見えて冒険者ですから!」
僕の言葉に、セレナは冒険者の証である鉄板プレートの付いたネックレスを見せてきた。
「それは心強い。流石は先輩冒険者さんだね」
「えっへんです。といっても最下級のアイアンランクですけど」
街でぶつかったウォーリアーよりも一つ下のランク。
それでも卒業も登録すらできていない俺よりは遥か格上だ。
僕たちはそんな風に話し合い、明るい雰囲気のまま進む。
「あ、そうだ。ガンダイさんから伝言を預かってるんです」
セレナはそう言うと、ガンダイの真似をしながら言う。
「俺はこの街を出る。こんなクソみたいなところに、もういる気はねぇ。生産職の街ファクトリーデンに移り住む。機会があれば顔を出せよ」
言い終えるとセレナは明るい表情で「とのことです」と締めくくった。




