第12話:欠陥魔術士は挫けない
「ここは……」
俺が目を開けると、今朝と同じ。
いや今朝よりも美しく見えるセレナがいた。
「また……助けられたんだね」
まだ動けないし、思うように話せない。
俺は何とか「かっこ……わるいね。ありがとう」とお礼の言葉を振り絞った。
「そんなことありません。ルークさんは正々堂々と戦いました。かっこよかったです」
俺の言葉に、セレナは回復魔術を続けながら答えてくれた。
「ありがとう……でも負けちゃった……」
「いえ。負けたのではありません。お気づきかもしれませんが、首の後ろにこれが刺さっていました」
セレナはそう言うと、回復魔術を一時的に止めて、髪よりも細い針を見せてきた。
「やっぱりか……」
俺が悔しそうに言うと、セレナは回復魔術を再開し、怒り交じりに「はい。卑怯にもほどがあります……」と続けた。
「まったくだ!あいつら親子にはもう勘弁ならねぇ!」
「ガンダイ……応援してくれたのに……ごめんね」
腕をグルングルン回して、今にも殴りに行きそうなガンダイに謝罪すると、ガンダイも「おめぇは負けてねぇ!」と言ってくれた。
「いや、もう……結果は覆らないよ」
意識を失う前に、ローウェンに勝利が宣言されたのが聞こえた。
いまさら何を言っても無駄だろう。
「落ち着いてください。もう少しです」
「ご、ごめん」
マナが乱れるとレッドスコーピオンの毒が強まりやすくなる。
悔しさと憎しみで乱れる感情とマナを落ち着かせるために深呼吸をした。
それから一時間ほどして、なんとか立ち上がれるまでに回復した。
「まだマナを練ることは避けてください。少なからず症状が出るはずです」
「わかった。ありがとう」
セレナにお礼を言い、耳を澄ませるが扉の向こうからは何も聞こえない。
おそらく試験が終わって、かなり時間が経っている。
もう受験者も観客も、誰も残っていないのだろう。
今なら誰にも見つからずに、外に出られるかもしれないな。
俺はできる限り明るい表情で言う。
「あー負けた負けた。やっぱりローウェンは強いわ。流石は才能に恵まれし者だ。セレナもガンダイもありがとね」
そして俺はそこまで何とか言葉にしたが、表情を保てなくなり「俺……ちょっと用事あるから行ってくるね」と言って背を向けた。
そして医務室を出ようとすると、セレナとガンダイの声が聞こえる。
「あ……」
「おい!」
ダメだ。
振り返る余裕はない。
涙なんか人に見せるもんじゃない!
その一心で、俺はよろめく身体を無理やり動かし、逃げるように医務室から離れ職業訓練所を出た。
外はもう暗くなり、松明に明かりが灯されていた。
職業訓練所の周辺に人はいないが、町の中心部からは楽器の音や騒ぐ声が聞こえてくる。
おそらくローウェンの勝利を祝ってお祭り騒ぎをしているのだろう。
卑劣な手段を使っていて何を祝ってんだか……
思考にも人間性にも反吐が出る。
まぁ、おかげで人目に付くことなく、町を出られそうだ。
俺は町の外側をぐるりと回り、屋敷に戻って荷物をまとめる。
十五年も住んで、愛着のあるものがない。
金と食料と水と簡易テント。
他にも、旅に必要そうな最小限のものを革袋に詰め込み、外に出る。
暗闇の中。
ランタンを片手に進み、やってきたのはこの数年間訓練をし続けた川辺。
もっと遠くまで離れておきたいけど、野盗に魔物など夜道は危険が伴いすぎる。
今日はここで休んで、日の出とともに次の町に進もう。
夜風が吹き、樹々が歌う。
川はせせらぎを奏で、星々が煌めく空間。
革袋を置く音さえも大きく聞こえる。
なぜだろうか。
いつもならどれにも癒されるが、今日はまったく心に届かない。
川辺にある岩や木に刻まれた努力の跡。
それを見た瞬間に、抑えていた感情が爆発する。
「ちくしょう!ちくしょう!」
俺は岩を殴り、蹴り、頭をぶつけた。
「毒針さえなければ俺が勝ってた!あいつらみんなして俺を陥れやがって!そんなに才能が大事か!そんなに迫害しなきゃ生きていけないのか!」
俺は額から血を流しながら叫び、泣き、暴れた。
そして、与えられた職業を恨み、産まれた家系を憎み、才能の無さを嘆いた。
どのくらいの時間が経ったのだろうか。
身体が動かなくなり、倒れ込み、夜空を仰ぎ星に誓う。
「俺はめげない。何が何でもウィザードとして名を馳せて、大英雄になってやる」
夜空に手を伸ばし、そして掴み取るように拳を握った。
大英雄。
四体の強力な魔物を倒し、ダンテ王にかけられた不死の呪いを解いた者のみに与えられる世界で唯一の称号。
俺はそれを手に入れ、見下した奴らを見返してやると心に決めた。
「暴れたら腹減ったな」
俺は身体を起こし、野営を準備。
水辺のため、暑くはない。
少し涼しいくらいだ。
まだ少し気温は下がるかもしれないが、テントは要らなさそうだな。
枝を集め、火を起こし、川で捕った魚を食べてから眠りについた。
早く……
誰か気づいて……
世界が……お願い……
「ん……んん。朝か……」
木漏れ日に照らされ、眩しさで目が覚めた。
いつもよりも夢のペースが早いな。
いったい何なんだろう。
「焚火が消えてる……よく魔物に襲われなかったん」
自分の図太い神経に呆れながら、念のため燻っている炭に水をかけた。
それにしても優れものだな。
ダークベアーの装備は氷に耐性があるだけあって、かなり温かく眠れた。
おかげで、寝起きは最高。
マナを練り、拳に雷を纏うが、ふらつきもめまいもない。
どうやら毒は抜けきったようだ。
デコは……痛いな。
放っておいても治るだろうけど。道中でポーションを買うか、薬草を見つけたほうがいいかもしれないな。
大きく息を吸ってから俺は「ありがとうございました!」と訓練をした川辺に頭を下げた。
誰も聞いていないがそうすべきだと思ったからだ。
「よし!出発だ!まずはグランダルムに行こう!」
俺は冒険者の登録をするために、このルミナス大陸の中心に位置する世界最大の都市グランダルムへと向かうことにした。
仲間が見つかれば良し。
見つからなくても、俺一人で上り詰めてやる。
俺はそう心に決めて、歩き始めた。




