第11話:欠陥魔術士は戦いを挑む
ローウェンに呼応するように、俺が拳を構えると、観客席から失笑が起きる。
「おいおい。マジかよ」
「まるでファイターじゃねぇか」
馬鹿にした大人たちの声。
そこに純粋な子供の質問が混じる。
「パパ。あのお兄ちゃんはウィザードじゃないの?」
「コラ。領主様に聞こえるだろ。あいつは才能に恵まれぬ者。まともに魔術が使えないから、杖を持たせてもらえなくなった」
違ぇよ。
持たせてもらえないんじゃねぇ。
持つことをやめたんだ。
どれだけ優れた杖を持っても、魔術による遠距離攻撃ができなかった。
色々試した結果、杖を持たない方が、自分の能力を引き出せる。
そう思って今のスタイルにしたんだ。
俺が心の中で観衆に指摘をし終え、ローウェンへと意識を集中させた瞬間。
訓練員が「はじめ!」と言って開戦の合図をした。
俺とローウェンがマナを練り始めたのは同時。
それなのに、俺がいくつかの小石を右手の中に生み出している間に、ローウェンは俺の頭上に無数の氷槍を生み出し落下させてきた。
「くそ!何て奴だ!」
俺は氷の槍を左右に避け、少しずつ前に進む。
そして躱す勢いを利用して、そのまま小石を投げつける。
「ふん。くだらない」
ローウェンはそう言うと、風魔術を発動。
旋風を巻き起こし、小石を弾き飛ばした。
「地魔術ってのはこうやって使うんだよ」
ローウェンは蔑みと憎しみを込めながら言い、地魔術を発動。
空中に無数の礫を生み出した。
そして目にも止まらぬ速さで連続射出。
「まずい!」
俺はすかさず右側へ飛び込むようにして回避。
反撃の隙など与えてくれない。
転がり、走り、跳躍し防戦一方。
ダークベアーの装備のおかげで、何とか持ちこたえているが、いくつか被弾したところの骨が軋んでいるのが分かる。
さらに連射速度を増して、礫が放たれる。
躱しても躱しきれない。
多く……被弾しすぎてる……
俺は痛みに耐えかねて、倒れ込む。
そしてそこに降り注ぐ礫から、ロングコートに包まるようにして身を守る。
「もう終わりか」
ローウェンがそう言い、礫の嵐を止めると、観客席から罵声が飛ぶ。
「勝負になってねぇじゃねぇか!」
「ちゃんと戦えぇ!」
その言葉に周囲からも続けて罵声が飛ぶ。
少しは俺の事も応援しろよ。
俺も領主の家系のはしくれだぞ。
俺はそう思い、怒りを力に変えて無理やり立ち上がり、観客に向けて叫ぶ。
「だったら!お前らがローウェンに立ち向かってみろよ!」
俺の言葉に、観客席が静まり返る。
立ち向かう覚悟もないくせに、罵声だけは一人前な奴らだ。
俺が怒りを込めて観客席を睨みつけると、ローウェンは呆れ笑いを浮かべて言う。
「おいおい。領民を脅すなよ。それでも領主の端くれか?」
そして言い終えると同時に、氷魔術を発動。
巨大な氷塊が降ってきた。
でかすぎるだろ!
俺は小石をローウェンに投げつけながら後方へと回避。
俺がいた所に巨大な氷塊が落下して、隠れ蓑ができた。
今だ!
視線が遮られた瞬間。
俺はローウェンの頭上にロックボムを投げた。
そしてロックボムに気づかせないために、俺は自らを囮にする。
「喰らえ!」
氷塊の陰から飛び出し、あえて声に出す。
地魔術で作り出した石のナイフをローウェンの膝目掛けて投げる。
ダメージを与えられなくていい。
届かなくてもいい。
目的はローウェンの視線を下げることだ。
「おいおい。ちゃんと狙えよ」
ローウェンはそう言うと、力の差を誇示するかのように、風魔術を発動。
俺の投げた石のナイフを風で操り、軌道を変えて、俺に向けて放った。
ダークベアーの装備を突き抜け、深く石のナイフが刺さる。
しかし、作戦は成功。
「ボンッ」
俺がそう言葉にした次の瞬間。
会場に炸裂音が響き渡り、爆炎がローウェンを襲う。
まずい。
炸裂の瞬間に、一瞬だけ見えたローウェンの表情。
何かする気だった。
今は待つよりも畳みかけて、反撃の機会を減らすべきだ!
俺がそう思い、距離を詰めると同時。
風が吹き、爆炎が晴れる。
見えてきたのは、氷を身に纏うローウェン。
おそらく咄嗟に氷魔術で体を覆い、一部が爆炎で溶けた。
そして、溶け切る前に風魔術で旋風を巻き起こし、払いのけたのだろう。
しかし、左耳からは血が出ている。
おそらく爆炎は防げても、炸裂音までは防ぎきれなかったのだろう。
一秒にも満たない時の中で、俺は瞬時に状況を判断。
すぐさまローウェンの頭上に着火したロックボムを投げた。
「貴様ぁぁぁぁ!」
ローウェンは怒りのままに叫び、マナを滾らせ風魔術を発動。
自分を中心とした竜巻を生み出した。
巻き上げられたロックボムは空高くで爆発。
その爆風を受けても竜巻は収まらない。
俺は小瓶を取り出し、蓋を取り竜巻に向かって投げた。
燃える水が竜巻に飲み込まれていく。
さらにそこへ、燃える水をしみ込ませたロープを投げると、勢いよくロープが竜巻に飲み込まれていく。
そこへ着火。
一瞬にして炎が巻きあがり、会場は熱波に包まれた。
火炎の竜巻。
おそらく酸欠状態になってすぐに出てくる。
そこを全力で叩く。
もしくは、作戦がうまくいけば……
一秒にも満たない時間。
俺が次に備え思考を巡らせていると、ローウェンが叫び声を上げる。
「うわぁぁぁっ!」
火炎の竜巻で見えないが、おそらく中で焼かれているのだろう。
バタバタともがく音も聞こえてくると、風が止み、火の粉を散らしながら火炎の竜巻は消えた。
すると、見えてきたのは、燃えるロープが絡まり身動きが取れなくなったローウェン。
作戦が成功したか。
これで終わりだな。
「風魔術を使ったのは失敗だったな。降参するか?」
俺が尋ねると、プライドが傷ついたローウェンは、立ち上がることもできない状態なのに威勢を崩さずに言う。
「ク……ソ……ッ!ふざけるな!この僕が負けるわけがない!」
「やせ我慢をするな。お前は痛みに慣れてないんだ」
ウィザードは遠距離攻撃ばかり。
前衛はウォーリアーやファイターに任せるため、攻撃を受けることがあまりない。
とくに俺たち職業訓練所に通う者は、一様に実戦経験が不足している。
さらに領主の血筋に生まれたローウェンは、生まれてこのかた、怪我という怪我をしたことがない。
「無様だな。才能に恵まれし者。早く降参しないと跡が残るぞ」
「うるさい!卑怯者め!」
俺が燃え続けているロープを見て言うと、ローウェンは俺を睨みつけながら答えた。
その答えを聞き、俺は呆れて言う。
「卑怯?条件通りじゃねぇか。俺はどんな手段を使ってもいいんだろ?俺なりに考えた結果。努力の賜物だ」
そして俺は「卑怯って言うのはお前やクソ親父みたいな奴の事を言うんだよ。試験前に毒針なんか持ち出しやがって」と続けた。
「ふん!なんのことかさっぱりだ!」
ローウェンは俺を睨みつけたまま、怒りに任せてマナを練り始めた。
「させるか!」
俺は慌てて拳に雷を纏って殴りかかるが、数瞬早く、ローウェンの氷魔術が発動。
ローウェンに巻き付いていた燃えるロープは凍てつく。
さらにローウェンを中心に、地中から氷の大棘がいくつも突き出した。
「くそ!まだこんな力を!」
俺は慌てて緊急回避。
飛び込み転がるようにして、大棘を躱す。
隠れ蓑にさせてもらうぜ。
大棘の影を走り抜け。もう一本のロープを投げる。
ロープの先には点火したロックボム。
ただ投げつけるだけでは当たらない。
俺はそう思い、遠心力と大棘を使用して、ロープの先を方向転換させて背後で爆発させた。
勝機!
「おぉぉぉ!」
雄叫びを上げながら一気に距離を詰める。
拳には雷魔術。
いくつかの氷の大棘がかすり、脚や腹、頬に傷を負ったが、その程度の事では怯まない。
俺は思い切り振りかぶり、殴りかかった。
俺の勝ちだ!
俺が直撃と勝利を確信した時、今朝よりも強烈なめまいに襲われ、そのまま倒れてしまった。
何が起きたんだ……
まさかレッドスコーピオンの毒……
薄れゆく意識の中で、観覧席に視線を向けると、クソ親父が何かしているのが見えた。
おそらく風魔術で毒針を飛ばしたのだろう。
「クソ……親父め……」
俺の言葉と意識をかき消すように訓練員が叫ぶ。
「それまで!勝者ローウェン様ぁぁぁ!」
大歓声が徐々に聞こえなくなり、俺はそのまま意識を失った。




