第10話:欠陥魔術士の弟
職業訓練所に着くと、外も中も、凄い人の量だ。
「すみません。通してください」
俺は人混みをかき分けて、試験会場である裏の広場へと向かった。
広場に近づくにつれて、歓声が聞こえてくる。
午前の部にある生産職の卒業試験は、製造の展示会。
事前に作っていたものを、広い訓練室に飾っていて、それを内覧できるというものだから、こんなに歓声が聞こえてくるものではない。
おそらくもう戦闘職の卒業試験が始まっていて、様々な職業がスキルを披露しているのだろう。
戦闘職の中でも卒業試験の組が分かれている。
午後の始めはウォーリアーやファイターなどの近接戦闘向きな職業。
その後にウィザードや弓を使うアーチャー、鞭を使うウィッパーなどの遠距離や中距離戦闘向きな職業の試験が始まる。
さっき助けてくれたセレナはプリースト。
試験内容はどこでも同じだから、セレナは冒険者ギルドや魔術団、騎士団、教会などに行って、実際に怪我や毒などの状態異常を回復させたことがあるんだろうな。
いや、待てよ。
ローウェンを見に来たってだけで、職業訓練所を卒業したとは言ってなかったか。
いや、あれだけの技術を持ち合わせておいて、まだ卒業してない訳がないか。
そんなことを考えていると、轟音と共にさらに大きな歓声が上がる。
おっと、急がないと。
誰かがとんでもないスキルを披露したんだろうな。
たしか前半三組、後半二組。
それが終わってから俺とローウェンの模擬戦だったな。
時間的におそらく今は前半組だろう。
足早に進むと広場に繋がる通路の所に、教官を見つけた。
「遅くなりました。ルーク・アルベルトです。試験を受けに来ました」
「遅かったな。ギリギリだぞ。あっちに控室がある。呼ばれるまでそこで待機してろ」
俺が受験票を渡すと、門番は広場手前の扉を指さして教えてくれた。
控室に入ると、ちょうど後半組であるウィザードやアーチャーなどが広場へと入っていくところだった。
誰もいない控室。
好都合だ。
腰回りの装備は……よし、スムーズに取り出せるな。
ここまで走ってきたから準備運動は要らなさそうだ。
問題は……
俺はそう思い、マナを練り、手に炎を纏った。
「なんとか……なるか……」
レッドスコーピオンの毒が完全に抜けきってはいないのだろう。
少しめまいや、脱力感があるけど、立っていられないほどじゃない。
ローウェン攻略の要であるロックボムには着火が必須。
続いて雷を手に纏い、石や氷を生み出し、いつも通りの魔術が使えるかの確認をした。
「連続使用すると、流石に少しフラつくな。ペース配分を考えないと……」
万全じゃない。
でもそれは、これから先のどんな戦闘の場面でも起こりえること。
万全じゃないことは、敗北の言い訳にはならない。
俺はそう自分に言い聞かせて、気持ちを切り替えた。
すると、試験会場へと続く扉の向こうから声が聞こえてくる。
「では続きまして!特別に行われる模擬戦!ルールは一つ!最後に立っていた方が勝利!」
気合の入った拡音パフォーマンスで観客席は盛大に盛り上がりを見せる。
「特色ある二人のウィザードのご入場です!まずは職業訓練所最年長にして最後の卒業試験!ルーク・アルベルトォォ!」
呼ばれて広場に出た俺は、圧巻の光景を目にした。
周囲360度は木製の観覧席が設けられており、観客で埋め尽くされていたのだ。
「まるで闘技場だな」
観客席を見渡していると、一際立派な席にクソ親父とローウェン、訓練所の長が座っていた。
「なんで生きてるんだって顔してるな」
クソ親父の表情からは、驚きと悔しさのようなものが感じられた。
遠くてよく見えないけど、右手の指輪はもう付けていないようだ。
証拠隠滅ってやつか。
俺が観察していると、教官が言う。
「この者はウィザードなのに離れた場所に魔術を飛ばせないという致命的な才能に恵まれぬ者!どんな風に戦うのかが見所です!」
教官は悪口のような紹介をしてから、ローウェンを指さして続ける。
「そして対戦者はあちらにいらっしゃる次期領主のローウェン・アルベルト様です!ご存知の通り、才能に恵まれし者中の才能に恵まれし者!です!」
教官の意気込みに呼応し、観覧席からは様々な声援が飛ぶ。
「ローウェン様ぁ!」
「応援しておりますぞぉ!」
黄色い声と野太い声が混じり合う中、ローウェンは風魔術を発動。
旋風を巻き起こしながら、試験場へと降り立った。
アルベルト家の家紋の入ったローブと杖。
魔術への抵抗力が高いローブと、魔力向上と魔力の操作技術向上の効果があるとされる杖。
共に家宝とされていたが、まさか今日持ち出してくるとはな。
「いい装備じゃないか。どこで盗んできたんだ」
「盗んだんじゃねぇ。俺が倒したんだよ」
ローウェンの嫌味に俺がそう答えると、ローウェンは「お前なんかがダークベアーを倒せるわけがないだろう」と言い嘲笑った。
そしてさらに続ける。
「まぁ、何を装備しても結果は同じだけどな」
「その言葉はそのままお前に返すよ」
俺が言葉を返すと、ローウェンは怒りを滲ませ「口だけは立派だな……貴様、約束は覚えているな?」と続ける。
「ああ。俺はどんな手段を使ってもいい。その代わり、負けたら街を出る。これでいいんだろ?」
「小さな脳みそでよく覚えていたな。約束は守ってもらうぞ」
ローウェンは言い終えると背を向け、開始線に向かって歩く。
そして振り向くとより一層殺意に満ちた表情で、杖を構えた。




