23.レッツクッキング
また見に来る、と去っていったタレオ。
さて、どうすればいいのか……いや、やっぱり見守るしかできない。
苗をもらった数日で葉っぱが10枚近く増えたり、芽が出たりはおかしいのだが、成長は順調らしい。
「……ううん」
特別なことはしていないと思うのだが。
首をひねりながらエンリエッテと館に戻ると、ロダンが正面の方からやって来た。
「あ、卵もらえた?」
コクリと頷くロダンの手には3つの卵。おとなりさんのニワトリは今日はご機嫌だったらしい。
「……なにか、あった?」
気配に聡いロダンは、ミカたちの様子に気づいたようだ。
畑のことを話すと、彼は少し考えるようにうつむき、
「……メレの、レベル……」
「うん?メレ?」
「レベル高かった、経験値」
「たしかにメレは……あ、」
そう、メレのレベルは高い。それはミカが経験値を渡して成長させてたものらしく――
「え?なに?」
「えーっと、植物も、生きてるよね?」
「うん?うん」
「成長ってことは、経験値、持ってる……?」
「……かも?」
エンリエッテにはミカのスキルのことは言っていない。そろそろ話さなければと思っていたのだけれど。
「えっと、村長さんに聞いてみる?」
もし、植物も経験値を取得して成長しているのなら……
……そういう噂があるらしい。
いちいち植物のスキル鑑定はしないからあやふやだけれど、たいてい『成長』というジョブスキルが、あるとかないとか。
本当ならつまり、ミカのスキルの経験値増が効いているわけで。
(これは、うまくいくのでは?)
食べるもののこともだが、ミカは気になっている作物があった。
急いで手紙を書き、いろいろな調査をして――
「やっぱり!」
返信は意外とすぐに来た。
どうやらあちらはミカのすることに興味があるようだ。
(よしよし)
そうこうしているうちに、畑の方も順調だ。
……順調すぎるのが、おそろしい。
毎日畑を見に来る村の人達がドン引きするのは面白いやらいたたまれないやら。
と、いうことで……
「ミカ、何作るの!?」
「スイートポテト」
……そう、何の変哲もないスイートポテトである。
材料を見て、首を傾げるエンリエッテに、興味があるならとエプロンをつけさせる。
「フィショノの料理?」
「お菓子?」
「おかし!」
きゃっきゃとはしゃぐエンリエッテも手伝い、楽しいクッキングである。
フィショノをふかす。ふきんを鍋の底に敷いて、洗ったフィショノを皮ごと並べて、水を少しいれて蓋をする。中火よりやや弱で、水がなくなったら注ぎいれる。たまにフィショノを転がす。
(せいろのほうがやりやすいよね)
今は試作なので、今度いろいろやってみよう。
ふかしたら、少し冷めるのを待って、皮を剥く。
「皮はできるだけ大きく残してほしいの」
「大きく剥けばいいのね?」
適当に切って、潰す。
「うわやわらかーい」
「そっか干し芋ばっかりだったもんね」
歯ごたえのある干し芋もあれはあれでいいのだが。焼き芋くらいは今度作ってみよう。
(うーんもうちょっとしたら落ち葉の季節……)
できれば滑らかにしたいので、すりこぎ(タレオに作ってもらった)をギュッギュと押し付けて、繊維が出てきたら取り除く。濾し器も必要だと今さら気づくが、今日は試作……と心を落ち着かせる。
けっこう潰せたと思う。あとは、牛乳、卵黄、はちみつ、バターを適当に混ぜる。
一応分量は書いて残しておいて、配合は後で考える。
「……はちみつ!」
「ちょっとだけなら、舐める?」
ともかく田舎だと甘味料がないし、高い。
王都なら少し手に入りやすいけれど、高いのは避けられない。
(砂糖がいいなあ……)
ないものは仕方がない。
そんなことを考えながらぐるぐると混ぜて……
「うん、いい感じ」
「できた?」
「まだ。ええと、これくらいの大きさで……」
生地をできるだけ形をそろえて、楕円形にする。
その時に、剥いた皮を底に貼る。
それを鉄板に並べ、溶いた卵黄をスプーンで生地の上にそっと垂らして伸ばすように。
「6分くらい……かな?」
直してもらったばかりのオーブンの火が強くて、様子を見ながら焼き……
「うわ……甘い!におい甘い!」
「そうだねえ」
つやつやのスイートポテトが完成した。
粗熱を冷まし、ロダンを呼ぶ。
(うう、紅茶が欲しい)
茶葉は贅沢品なのだ。代わりの牛乳を並べて……
「……うわっ、甘!やわらかい、あまぁ~!」
「……!」
「うん、いいね」
記憶にあるスイートポテトそのものだ。
「こっこんなの、食べたことない、……とくべつってかんじ!」
ちょっと涙まで出ているエンリエッテだが、彼女の元の村は肉ばっかりだというから、確かにずいぶん違うものを食べたんだろう。
ロダンの様子もうかがうと、悪くなさそうだ。
味はいいほうだと思う。
記憶の中のものとあまり変わらないし、今はホクホク出来立てで、バターのふくよかさ、芋の素朴な甘い香りも立っていてそれがいいのだろう。
(冷めた時も味見しないと)
舌触りはやはり濾し器を使っていないからか手作り感が出てしまっている。これは要改良。けれど自分たちで食べる分には気にならない。
他の人の意見も欲しい。
「これ、今からタレオさんたちに持っていくけど……」
「あ、ついていきたい!いつもよくしてくれるから……」
「……留守番」
「そうだね、ロダンお願い」
誰かいてもらったほうが安心だ。ロダンは強いし。
気分で綺麗に籠にならべて、ミカ作刺繍入りふきんをかける。クレシオの義母のナキに習い始めたのだ、ワンポイントだけれど。
(ふふ、赤ずきんみたい)
ぶどう酒は入っていないけれど。
タレオとナキのご夫婦、村長、通りかかったちょっと遠い家の子、卵の家こと隣のフレーさんに渡すと、みんな大絶賛だ。
この村は料理上手が多いので、味覚もしっかりしているような気がするのだ……計画の第一歩としては、上々だろう。
その後、何回か配合ややり方を変えて、『試作』をする。
そうして、したためたレシピと一緒にちょっと……いや、羊皮紙5枚分だからかなり長い手紙を送って――
「お久しぶりです、ミカさん」
「お、お久しぶりです!シュモークさん!」
なんと、返信と一緒に……王都からディナータ子爵邸の皆さんがやってきた。
「それと……秘書、さん?」
「覚えていてくださって光栄です。ジョエックとお呼びください」
あの文字の早見表を作ってくれた人だ。
ひょろりと背が高い人で、とても頭が良さそうな顔をしている。色の薄い髪をきれいに上げて撫でつけ、切れ長の目に片眼鏡をかけている。ちょっと年齢不詳ぎみで、30歳は超えているだろう、というくらいしか分からない。
(ちょっと緊張するー)
あまり笑わない人なのだ、ミカにも丁寧に接してくれるので、悪い人ではないのだけれど。
「はじめまして、噂はかねがね」
もうひとり、小ざっぱりした服装の職業不明の男の人。ちょっとふくよかでとてもにこにこしている。
「ど、どうも。う、噂とは?」
「ご立派なお嬢さんだと。あ、すみません、私は子爵様のお屋敷で副料理長を務めているバーエンと申します」
頭を下げられるので慌ててこっちも下げた。
「この度はフィショノの新しいメニューについて、技術を習得してこいとクレシオ様に言われまして。いやはや、料理長がうらやましがっておりましたが、責任者がふたりも抜けることはできませんから……」
「バーエン殿」
「あ、すみません話が長くて」
秘書のジョエックにたしなめられて、バーエンは悪びれなく口を閉じた。
そのあと、メイドのコリーナさんと従者のロッコさんを紹介された。計5人ものお客さんだ。
部屋に案内してそこそこに、持てあまし気味の正面大ホールにセッティングしておいた机で――いよいよ、事業会議だ。
……5人の大人を前にひとりでは怖すぎるので、何もしなくていいからとロダンに隣に座ってもらった。それだけでとても心強い。
秘書のジョエックが、片眼鏡をくいっと手で調節。
「それでは、お話を始めます。進行は私が子爵側代表と兼役で務めさせていただきます」
「は、はい」
「もし私の言っていることが難しかったり分からなければ、遠慮なくおっしゃってください」
「お気遣いありがとうございます!」
いくら働いていたことがあるといっても、こういう会議は初めてできっと迷惑をかけまくるだろう。気を使ってもらえるようで、ありがたい。
「それでは。ミカ殿にご提案いただき、クレシオ様が大変ご興味を示されたこの事業、フィショノ(さつまいも)を使った高級志向菓子の売り出しについて、概要説明と、皆様のご意見をうかがいたいと思います」




