22.またもや……何かおかしい
悩んでも名案は出てこないし、悩んでばかりもいられない。
とりあえず数日間、3人で生活できるようにいろいろ家でやっていると。
「……誰が使えないだって?」
「えっと……?」
「……はやい」
エンリエッテは、ほとんどの家事でその素晴らしい能力を発揮した。
掃除をお願いするとぴかぴかに、整理整頓を頼めば分かりやすく棚に整然と並ぶ。洗濯を任せれば、いつの間にか干し竿に汚れがひどかったマントがしみ抜きまでされて風に気持ちよさそうに揺られている。
料理は、基本はできているので、そのうち食材や道具に慣れたら、ミカと同じくらいの食事は作れそうだ。
「え?カンテールで何してたの?」
「えっと……猟と雑用……ですね」
かしこまってエンリエッテは言う。
「すごく助かってたんじゃないの……?」
「褒められたことなくて……」
何をやらせても卒がない。なのに、あの無能呼ばわりだ。
「……まあ、いいや。めっちゃ役立つ人ゲットできてとてもうれしいよ」
「え、役に立ってる……?」
「うん!すごく」
「……へへ」
泣き笑いの顔でエンリエッテは頭をかく。
さて、今では厨房のコンロもオーブンも修理されて、外に行かなくても料理ができるようになった。
その他数が多い部屋の掃除もだいぶ終わってきて(本当にエンリエッテの存在がありがたかった)、ルーチンというものもできてきた。
元リネン室の外れの井戸の位置だけは悩ましいが、今は考えないでおく。
井戸のそばの空いた庭に、畑を作ったのも3人だからできたことだな、と思う。
いろいろは世話できないと、地球で言う小松菜みたいなぺぺという葉物野菜と、トマトみたいなエテーニという丸い赤い実、そして、フィショノ(さつまいも)の育てやすいと言われた3品種だけ。
どうやらちゃんと根付いたようで、よく観察して育てていく。
「あーあ、はやく育ってくれたらいいんだけど」
無茶なことを言っているけれど、はやく食べたいし、これがうまく行けば野菜には困らなくなりそうということで、期待しているのだ。
どれもさほど水をやらなくていいので、土の湿り気を確認しながら全員交代で見ている。
今日はミカの当番だったけれど、水は必要なさそうで、ジョウロを持ってくるのはやめた。
「ミカ、お客さーん」
葉や茎の状態を見ていると、エンリエッテがこちらにやって来た。
その後ろにはタレオがついてきていた。
「おはようございます」
「おお、おはよう。畑の様子を見に来た」
「ありがとうございます!おかげさまで順調そうです」
苗を分けてくれたのはこのディナータ子爵の育ての父だ、気になったのだろう。
ニカッと、いかつい顔に笑みを浮かべて、
「そりゃよかったな」
ついっとミカの近くの畑を見て……固まった。
「……おい、あの、苗……」
「え?は、はい」
「俺が渡したやつだよな……?」
「はい、そうですが」
「……なんでこんな繁ってるんだ?」
「え?」
意味がわからず、エンリエッテと顔を見合わせた。
「えっと、だいぶ、いい感じですよね?」
「はやい!」
悲鳴のような声で、タレオは言った。
「はやすぎる!普通1週間も2週間も待たなきゃならねえんだぞ!なんだこの、元気いっぱいに増えた葉っぱはよ!」
「え、ええ?」
……どうやら、はやすぎたらしい。成長が。
さっき、はやければいいなーとは言ったけれど、ちょっと、現実になったら、こわい。
「えっど、どうしてですか……?」
「知らねえよ……ちょ、ちょっと見せてくれ」
タレオが丹念に調べたけれど、やはり異常はないようだ。
「……肥料だって大したもん使ってねえんだろ?ツヤツヤの葉で病気も見当たらねえし……土か?いや……ぺぺが顔出してやがる」
「え、えーっとどうしましょう?」
「……よく見張ってろ。俺だってこんなことは初めてで……他の奴らにも聞いて、見させてもいいか」
「あ、はい」
問題がないのに、問題発生。
ミカは植物を育てるのは初めてで、一体どんなものかわからないので、タレオが慌てるので不安になってきた。
「この成長速度だと収穫時期がずいぶんと早まるぞ」
「え?」
「まあただ、いつどうなるか、天気にもよるし、虫だ病気だ、いろんなことがあるはずだ、油断しちゃあいけねえよ」
「は、はい!」
「畑になんかあったら誰にでもいいから声かけろよ、せっかくの作物無駄にするのは悲しいからな」
真剣な目で言われて、気を引き締めた。
そうだ、これが第一歩なのだ、実りがあるまで見届けたい。




