16.便利と危険と格差
子爵の両親の家からおいとまして、再び館。
「……」
正面に立って眺めると、ますますおどろおどろしく見えるのは、気のせいだろうか。
「……えーい!もらっちゃったもんは仕方ない!今日から、ここが、私たちのおうちよ!」
やけくそ気味に、自分を奮い立たせて。
おー!と両手を振り上げると、ロダンもなんだか付き合ってくれたらしく、両手を上げた――
――ぼわっ、と。
館や、その周辺が――光った。
「え!?」
「……!?」
「なに!?」
「なんですか!?」
全員慌てた。
けれど、10秒もしないうちに、その館の光はすっと消えた。
幻覚でも見たのかと、ぼうぜんとすると。
ミカの目の前の玄関、そのあちこちにミカの目が釘付けになる。
「……んん?」
『板と、蝶番、パテに、柱の石の積替え』
そう囁くように頭の中に。
「え?なに?」
「今のは……!?」
シュモーク慌てて家から庇うようにミカたちを背にして立った。
「……えっと……」
ミカは困惑して、上を見ると……
『屋根材大量に。軒も葺替え、母屋5本』
(もしかして……直すところ、だったり?)
玄関のアーチは彫刻と立派な柱で作られていたが、ひび割れているところもがたくさんあった。
柱の石とか、パテとか。
詳しくはないが……修理に必要なものだろうか。
だとすると、それを一目見て、分かってしまうミカは……
「……えっと……」
「離れましょう!今すぐ……」
「ま、待って」
ミカとロダンを抱えようとするシュモークとトッツに、手を大きく振って押し留めた。
「あ、あのね、私のスキル、みたい」
「……え?」
「その、光ったのは悪いことじゃなくて……多分私のスキルで何かしたみたい」
分かる。
『これは、私の家』。
ジョブスキル座敷わらしが、自分のエリアだとこの館を認識した。
シュモークたちがどこまで子爵から聞いてるのかわからないが、少なくともミカが特殊ということは分かっているらしく、危険ではないと言うと聞き入れてくれたようだ。
「ミカさんのスキルと関係がある――と」
「はい。その、たぶん大丈夫です。あの、中に入っていいですか?」
「……ええ。ですが、念のため警戒はいたしますので」
「はい、お願いします」
壁伝いに裏口に回ろうとすると……やはりなんとなく分かる、修繕箇所とその資材。
(これがスキルなの?便利すぎー……)
どちらかと言うと驚きより呆れが勝ってしまった。
鑑定してもらった時の、自分のスキルを思い出す。数え切れないと思ったけれど、思い出そうとすればすぐに思い出せる、効能と使用方法。
(んーと……あれかな、『安寧の覆い』)
たしか、エリア範囲に危険が迫るときに自動感知、脅威を算出――というもの。
つまり、家のオンボロ具合は危険と見なされたようだ。
(けど、修理が必要なのどんだけなの)
あちこち目がいくので疲れてしまった。
疲れたせいもあって、薄目に目を少しだけ開くと、なんと少し入ってくる情報が減った。
これ幸いと、ちょっと目つきの悪い感じで裏口に回った。
「……ミカさん、大丈夫ですか?」
「あ、ごめん大丈夫、ちょっとさっきのスキルのせいで……目が疲れちゃって」
「なんと目が……あ、いえ、それがよろしいなら……はい」
ちょっと笑いそうになっているトッツだが、まあしかつめらしい顔をしている少女なんて大人からはそんなものだろう。
ロダンがぎゅっと手を握ってくれたが……なにか心配させたかもしれない。
「ほんとに大丈夫。さあ行くよー」
裏口に入ると、やはりほぼどこでも修繕!と主張してミカを悩ませる。
大広間にいくとだいぶ主張が減り、主寝室という館の主人が使う部屋に入ると、ほとんどない。
「……その、ここが一番安全みたいです」
「安全?」
「えーっと、壊れたりしてるところがないそうで……」
「つまり、そういう危険なものや箇所がないか、ミカ様には分かるのですか?」
「はい……おかしいですよね」
「いえ、ミカさんがそうおっしゃるならそうなのでしょう」
剣の束にずっと手をかけていたシュモークは、小さく笑ってやっと手を戻した。
「ミカさんのスキルについては大まかにクレシオ様から聞かせていただきました。この家が、ミカさんのスキルに有用ならようございました」
「そう……そうだよね」
やはり特定のエリア=家だった。
だとしたら、実験成功だ。
これはいいことなのか……まあ事実がわかるということは、その危険も具体的にわかるということだ。
『座敷わらし』は、常態化スキルというものらしい。
治癒スキルのように使おうと願ってから効果を発揮するのと違って、座敷わらしは使用者の意思に関係なく常に発動するという。
つまり……この家にいる限り、ミカはずっと『経験値2%増』なのである。
スキルは使えばレベルアップできるということは、逆を言えば使わなければレベルアップしない、ということだ。
なのに、ミカは常に使っていて、さらに経験値も普通より多くもらえてしまう。
なにをしてもしていなくても、レベルアップしてしまう……これが、危険というものだ。
(今のところ)世界で唯一のスキルに、どんどんと上がっていくレベル。……絶対に、他に知られてはいけない。
「……とりあえず、ここをしばらくは生活する部屋にすればいいか」
「では、お掃除いたしますね」
トッツがにこにことした。
門の内側に止めた馬車から荷物を運び出す。掃除道具もだが、何があってもしばらく生活できるようにちょっとしたものを持たせてくれて、荷物はやや多い。
それをみんなで運んでいる最中に、それは起きた。
「あっ、そこ、危ない!」
何度も往復したせいだろう、後ろの棟の長い廊下の真ん中、その床が、破れて抜けた。
抜ける直前になって、ミカのスキルが反応して、けれど、ロダンがそこに足をかけていた。
「ロダ……っ!」
悲鳴を上げかけたミカの目の前で。
ロダンは、ふっと消えた。
「え!?」
そうして……数秒後に、かなり向こう側に、すたんっ、と軽い音を立ててロダンが現れた。
「え!?なに……え?」
目の前の床は、子どもなら落ちてしまいそうな穴が空いている。
ロダンはその向こう。持っていた荷物も抱えていて、こちらをいつもの無表情で振り返っている。
「す、すごい」
後ろから驚いたような声が上がった。シュモークが、驚愕の目でロダンを見ている。
「彼は床が抜けかけたときに、安全なところに残っていた片足で跳び上がりました」
「え……!?」
「天井までです。そして、天井を蹴って、そのまま降りてきました」
「……え!?」
「スキルが強いとは聞いていましたが……素晴らしいですね」
シュモークは感心しているが、ミカは天井を見上げて、なんとなく……納得がいかない。
(格差だ……)
ほんの小さじくらいでいい、その運動能力を分けてほしい。




