14.さながらホラーハウス
1泊2日の旅程。
天気も良くて、付き添ってくれた騎士のシュモークと使用人のトッツというひとが親切で、初めての馬車の旅は悪くなかった。
2日目の昼過ぎに、目的の村に到着した。
のどかな農村だった。
あちこちまばらに小さな家が建ち、その間には青くてこんもりとした畑が。
そのすぐ近くに小高い山がある。山脈というほどではないが、見えているだけで山頂は3つあった。
「まずは館に向かわれますか」
「はい!」
村の奥の方に、その館はあった。
錆びついた鉄格子の門の前で、その館を見上げる。
「うわあ……」
一見して寂れている。
(なんか前の時にテレビで見た、遊園地のホラーハウスとかいうやつみたい)
子爵邸がお城なら、こちらは洋館、というものだろうか。
縦長に見えるのは2階建てだからだろう。白っぽいすとんとした壁で、少し屋根が面白い――3ブロックに分かれていて、左右は斜めの屋根、真ん中は三角の屋根が帽子のように乗っている。
窓は全部鎧戸が閉まっていて、中は見えない。
煤けてどんよりとした雰囲気で、周りに森かと思うほど木が生えていた。
「中に入りましょうか」
「はい」
シュモークの手によって、ぎいいい……とそれっぽい音を立てて、門が開かれた。
本当にお化け屋敷みたい、と笑いそうになった。
「門は鍵が壊れてしまっているのでこのように開くのですが……館の方は鍵がないのです」
「え?」
じゃあどうやって入るのだろう。
というか、鍵がないのに入っていいのだろうか?
シュモークはうっすらと笑った。
「裏口を壊します」
「……はい?」
「大丈夫です、もう腐りかけた木扉ということなので、剣で突けば……」
「あの!それはいいことなのですか!?」
「ええ、子爵がそうおっしゃいましたので」
にっこりと、シュモークは笑った。
きっとミカを安心させたかったのだろうけれど……逆に不安になった。
――本当にそうした。
シュモークが自分の剣で壊れやすそうな箇所を剣で突き、穴が空いたところを蹴って戸板を割った。
バキバキ、という音がして、あっさり裏口は『開いた』。
その一通りの動きを、ロダンが目を輝かせて見ていた。……かっこよく見えたのかもしれない。
「あの、この家って元はどういう人が持ってたんですか?」
「さあ……私も子爵には、ミカさんに同行することと鍵のことだけ仰せつかったので……」
これは、聞かなかったミカが悪いのだろうか。
ともかく、もう入ってしまったのだから仕方ない。
裏口だというとおり、勝手口の土間だった。
あちこちホコリやクモの巣が張っているけれど、大人が4人手をつないで並んでも余裕の広さ。
天井も高い。……用具入れのような大きな棚が残っている。
真四角の土間の、向こうにまた扉がある。勝手口の方は一枚戸だったが、そちらは観音開き……二枚戸だった。
門から館に入るために後ろに回ったが、後ろに平屋の長い棟が連なっていていて、まるでT字のような形をしている。
しばらくまっすぐ行けば、正面の大きな玄関に着くのだろう。
念のため、とシュモークが先頭に、その後ろにミカとロダン、最後に使用人の順で探索することにした。
きいい、と蝶番の軋む音を立てて、観音開きの扉が開く。
ブワッと埃が舞う。
「けほっ」
「げほっ」
「ああ、マントで口と鼻を隠してください」
ホコリだらけの館は、やはりまっすぐに正面の大きな棟へと廊下が通っている造りだった。
裏口の土間の左右には物置と衛兵が使っていただろう小部屋があり、まっすぐな廊下の左右には部屋が大小合わせて10部屋あった。鍵が開いたり開かなかったりして、いちおう開くものだけは確認する。
窓は全部閉まっていたから、開いていく。
窓にはガラスがはまっていない。ガラスは高価で普及していないらしく、子爵邸のような豪邸はともかく、小さな家だったりもちろん庶民の家はガラスは使われない。
鎧戸は開くにはなかなか力がいる。騎士にがんばってもらい、壊れているもの以外は跳ね上げた。
そうして明るい日差しを入れてよく調べると、客間だったり使用人部屋だったりした。……キャビネットやベッド、中には窓辺に鉢植えが残ったりしていた。もちろん枯れている。
「……」
なんだか嫌な予感がするミカだったが、まだ全部見ていないので黙っておく。
「ここから、正面の本棟のようですね」
シュモークは言いながら、2枚の大きな扉を開く。
「……おお」
「……!」
「これはまた」
大きな部屋だった。どうやらエントランスホールのようだ。
高い天井に、大きなシャンデリア。絵や飾り棚、なんと暖炉もある。そして――
(あったぁ……!甲冑!)
インテリアだろう、人の形をした全部金属の鎧。
まさに漫画にあるような洋館だ。
一気にテンションが上がったミカに、ロダンは不思議そうな顔をした。
「どうやらエントランスホールと大広間を合わせたような部屋ですね」
シュモークは興味深そうに見回している。
「あちらに何かありますよ」
トッツの示す方向を見ると……階段があった。
ただし……
「螺旋階段……?おもしろーい」
支柱にくっつく階段が巻き上がっていく、円筒の階段。
「……螺旋階段?そういう名称なのですか?初めて見ました」
シュモークも、トッツも不思議な顔をした。
……どうやら、一般的なものではないらしい。
「階段……なのですか?よくご存じでしたね」
「……似たものを見たことがあって……」
もちろん、見たことがあるのは前世である。
まあ、納得してくれたのでいいことにしよう。
その螺旋階段だけれど、何段かは脆くなって外れかけていたので登るのは諦めた。
代わりに、よく見るとミカたちが入ってきた扉の横に階段があった。小さな扉もあったが、こちらは開かなかった。
階段を登っていくと……
「どうやら主寝室と奥方の部屋のようです」
真ん中に大きな部屋があって、それをぐるりと廊下が囲む。その外側にちょっと豪勢な部屋と、何となく壁紙や小さなベッドがかわいい部屋、シンプルだが整ったベッドが入った部屋、使用人用の小部屋があった。
小部屋の前に、螺旋階段の昇降口がある。
さらに、小部屋の横に、小さくて急な階段が。
「……屋根裏部屋だ!」
おそらく、斜めになった左右の屋根の下だ。ちょうど天井が斜めになって三角の部屋である。面白い。
狭いのに、ベッドが2つも入っていて、もうそれ以上何も置けない。
天井はあまり高くなくて、長身のシュモークは頭をつかえそうになりながら、
「下級の使用人の部屋でしょう」
「……あの、ベッドと……エプロンっぽいものが見えるんですが……」
「……そうですね」
シュモークは表情を保っているが、なんとなく目が泳いでいる。
ほこりを被っているので、最近置かれたものではないようだ。
「……さっきの部屋にも、ドレスが……」
あったのだ、クローゼットっぽいところに数着の高そうなドレスが。
「……」
「……」
「……」
「……あの、ほとんど見ましたし、村長にご挨拶はどうでしょう……?」
使用人もなんとなく居心地の悪そうな顔で、そう言った。
「……そうですね!」
ミカは何度も頷いた。




