12.スキルとは?
待ちに待った、みんなのスキル鑑定である。
昨夜はひとりで落ち着きたいと部屋で食べていた鑑定師の人も、朝食はみんなと食べた。
私にも君たちと同じくらいの息子がいてね、とにこにこしていたので、だいぶ回復したようだ。
けれど鑑定の時間が近くなると、真剣な顔で祈っていたので、きっとミカたちのような変わり種がいませんようにとか神にお願いしたのだろう。本当に申し訳ない。
――結果。
おかしなジョブスキルはいなかったようだ。
能力値が高かったり、珍しいものがあったりはあるけれど、少し人よりいいスキル、程度だった。
「ブローの拳闘士って、なんかかっこいーよねー」
ひときわ盛り上がったのは、ブローだった。
戦闘系のジョブスキルらしく、やはり身体能力が高いという。
ミカは、ちょっぴり、身体能力はよくなかったので、うらやましいと思った。
「では、スキルについて教えようと思います。使い方によっては危なかったり、うまく使えずにがっかりしてしまうことがあります。そういうことがないように、しっかり聞いてください」
「えー」
「えー、じゃないですよ!これからの君たちの人生がかかってるんですから」
鑑定師の人は意外とノリが良く、みんなで聞いているので大丈夫だろう。
「じゃあ、君だけひとりで悪いが」
「はい。さびしいですけど」
「早く終わるように頑張るよ」
別室で子爵との特別レッスンである。
スキルのことについてだけなら鑑定師の人が詳しいだろうけれど、ミカの場合は特殊すぎて何の話が飛び出すかわからない。一般的なスキルのことは誰でも話せるから、子爵が万が一のためにふたりきりで聞かせてくれるという。
別室で向かい合って椅子に座り、
「……では、話そう。随時、質問があれば聞くといい」
スキルとは……という簡単なおさらいと、ジョブスキルについて。
「ジョブスキルとは、ジョブになりうるスキル、ということだ。メレは治癒スキルだから治癒師だ」
「いっぱいあるスキルの、代表格のようなものですか?」
「間違ってもいないが……」
すこし悩んでから、細かく説明してくれた。
スキルは多種多様だが、前提としては大まかに2つに分けられた。
ひとつは、ジョブスキル。
誰しもひとつは持っているスキルで、これは『ジョブになりうる』スキルだった。
「ジョブというものは、例えば店をやっている人間がその店屋と認識されるようなものだ。八百屋なら八百屋の主人という言い方をするだろう?」
ちょっと幼稚だけれど、◯◯屋さん、という言い方だ。
前の世界の英語のジョブ……仕事と変わりなさそうだ。
「ジョブスキルは、そう呼ばれる範囲のスキルで限定的だ。そして、その人が所持したその一番高いレベルのものがジョブになる。一方、もうひとつの種類はジョブや能力値に関係なく経験値が貯まれば開花するスキル……特に呼び名は決まっていないが、一般スキルとでもいおうか」
「ジョブになるのがジョブスキルで、一般スキルというのは……私には『調理』というスキルがあったんですが……これがですか?」
「そうだ。それは家事をする人間がよく獲得する一般スキルだ」
「でも、ジョブスキルの『料理人』に……」
「ああ、同じ名のジョブスキルのを獲得するらしいな」
子爵は頭に軽く手を当てて、
「だが、あくまで別らしい、と聞いた。『料理人』なら『調理』出来ないと矛盾がある気がしないか?」
「そういうことなんですか?」
「と、私は思うがね。詳しいことは鑑定師に聞いたほうが良いだろう」
ここが私の限界だったな、と苦笑する子爵にミカは首を振った。
「……メレの場合だと、治癒スキルといってもいくつもある。治癒師は治す症状に合わせてジョブスキルが増えていくのだ」
「怪我なら怪我用、病気なら病気用……ということですか」
「そうだ」
「では、私の座敷わらしは」
「……それを聞かれるとな」
「冗談です」
「まったく。……つまり、ジョブスキルとはその人間の能力的な格付けだ。能力値はそれに合わせたものになる。強いジョブスキルであれば、強い人間。賢いジョブスキルだと賢い人間。器用なジョブスキルだと器用な人間。そして……」
子爵は一度言葉を切った。
「そのジョブは、人格にも反映する」
「……?あ、……」
ロダンだ。
彼のジョブスキルは『暗殺者』。
人を殺すことに特化した――
「攻撃的ではないが、殺すことについては並々ならぬ執着がある――というのが、スキル研究において常識だ。そして、何につけてもためらいがない」
「で、でも、ロダンはむやみに人を殺してなんて……」
「ああ、何事にも例外がある。その例外であってほしいところだ」
子爵は物憂げにため息をついた。
「今のところ、仲間……特にミカには心を開いて、言うことを聞いているようだ。ならばコントロールできると……いや、言い方が悪いな、ともかくこれ以上罪を重ねることがないようにできると思う」
「……はい」
「これは難しい話だ。ロダンといっしょに話し合おう。ともかく、人格すら左右するジョブスキルだが、結局のところそれは幼少の頃に獲得する。しかも……環境に影響を受ける」
「環境と言うと、住まいや親……ですね」
「その通りだ。その時までの生活の状況や、心身の状態……そういうものがジョブスキル獲得につながる」
「はい」
「メレは兄を治したいという強い思いと、以前から彼が怪我を負ってくることを心配していたからだろう。それが君の助力で一気に開花、高レベルに成長した」
「その、メレが高レベルなのも、何かおかしいんですか?彼女は私が連れ回していっぱい患者を診ていましたけど……」
「ああ、おかしいのだ。神殿の治癒師で最高峰と謳われる、30年君臨している司祭は、レベル59」
「…………え?」
聞き間違いかと思った。
「メレは、熟練の国の治癒師とほぼ同等だ。スキルの数などは分からないが、彼女にもさほど治癒師として不足しているスキルはないようだと聞いている」
「……それって、」
「……鑑定師の仮説が本当なら、君が高レベルに成長させた」
ディナータの渋い顔に、ミカは震え上がった。
「はわ……」
「どうして君のスキルを隠せと言ったか、理由は少し分かったか?」
「……もしかして、その解除?消えたかもしれないスキルを、取り戻したら……」
「ああ、私が考えつくだけでも国の軍事部や学府に重宝されるだろうな」
「重宝って……」
貴重だと思われるのだろうけれど、果たしてミカの人権は保証されるのだろうか。
……子爵の様子を見る限り、まあ期待はできなさそうだ。
「レベルというが、その言葉が指す本当は、ジョブスキルのレベルのことだ。それイコール自分のレベルでもある。レベルが上がるにつれて、新しいスキルを獲得できたり、能力値――ステータスが上がったりする」
「なるほど。では早くレベルを上げたければ、ジョブスキルを使い続ければいいんですね」
「そうだ」
「……でも、私はその、レベルが低いのがおかしいということですか……?」
「いや、レベル3というのは普通と考えていい。けれど、メレに経験値を付与し、高レベルに成長させたのなら……」
「たしかに、私に経験値がいっぱいないとおかしいんですね」
子爵はため息をつき、背もたれに体を預けた。
「……いくら君が抑圧された生活を送っていたとしても、いくら何でもおかしいのだ」
「どういう……?」
「抑圧されることもまあまあの経験値になるらしい。君の仲間にも、レベル5のものがいただろう?開花したのはつい最近で、それにしてはレベルが高い」
「そうなのか……ん?」
「?どうした」
「あ、いえ……」
ふと、思いついた。
(前世から引き継ぎポイントってこと……!?)
記憶があるのだ、経験値とやらも引き継がれている可能性は十分だろう。
(それなら、高レベルなのもわかる……)
ずっと苦しい生活だったのだ、仕事もしていたし、かなり経験値が貯まっていただろう。
(まあ、メレにあげちゃったけど……)
そうでもしなければ、ブローを助けることができなかった。なら後悔なんかするはずがない。
「……」
ミカが考えているうちに、子爵も何か考え込んでいる。彼は深刻そうだ。
「どうかなさったんですか?」
「……ああ、……スキルとは直接関係がないが……あの刺客の出どころが分かるかもしれない」
「え!?」
「……どうも、耳が早い連中がいる」
火事があった前後に、『小さな天使』のことを聞いて回る不審者が見られた。スラム街ではないが、下層民が住む区画まで現れたというのだからだいぶ接近されている。
「貴族の間では変わらず噂はないにもかかわらず、だ。……だが、私が君たちを連れて行っていたのは、誰かに見られただろうし……刺客を含め、それらすべてが同じ者らかはわからないが、メレのことを気にするものは確実にいる」
「……それは、早く話を決めないと……」
メレを子爵家の養子にする理由のひとつは、メレの身分をしっかりさせて、おかしな連中や国などの権力者に手を出されないようにすることだ。
「ああ、そうだな。……メレに、いま一度話すつもりだ」
ぐっと、子爵は膝の上でこぶしを握った。




